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stage6_酔っ払い淑女 2

 立ち上る光に包まれて、茨の触手たちが激しく体を震わせます。まずは成功。扉の周辺に出来上がった空白地帯へと、ジークベルトが素早く身を躍らせました。

「うおりゃあああああああああっ!!!!!」

 さっそく得意のギガトン・バニッシュが炸裂しています。魔物を砂に変えるという無茶苦茶な魔法ですが、こういう時には実に心強いです。

「道が開いたな、行くぞ!!」

「はい!!」

 ジークベルトが作った道へと突撃していきます。私とマヤトーレの仕事は彼の背中を守ること。茨の触手は後ろからも回り込んできますから、それを食い止めて挟み撃ちされないようにするんです。

 客間で一戦交えた経験から、触手の情報は大体頭に入っています。樹木のような外見をしていますが、火に強くマヤトーレの矢が十分に通用しません。ここは私が頑張らないといけないんです。

「聖なる光よ!!!」

 全力のライト・インパクト、杖が唸りを上げます。重要なのは手を止めないこと。四方八方から襲い掛かってくる触手の攻撃を防ぐためには、動く相手を素早く叩き、同時に的確な判断で退かなければなりません。

 本体が近くにいるからか、前に見た時と比べて明らかに触手の動きが良くなっています。まるで一本一本が意思を持った生き物のよう。巣に迷い込んだ獲物を食い破らんと、容赦のない攻撃を繰り出してきます。

「ロッドを絡め取られるなよ。そうなったらお終いだ」

「分かってます。何とか堪えていますから」

 現状を維持するのが精一杯。反撃に転じる余裕なんてとてもありませんでした。隣で戦っているマヤトーレも苦しそう。やはり相性が最悪です。

 ここはジークベルトの魔法に期待するしかないでしょう。その背中は前へ前へと向かって行っていますが、未だコルアナ本体の姿は見えません。それどころか、茨の触手が新たに生み出されているのでしょうか。それなりに削っているはずなのに、途中からはまるで押し戻されているかのような印象さえ受けました。

「ジークベルト、闇雲に突き進むな!!」

 マヤトーレが叫びました。次の瞬間、ジークベルトの足元で何かが膨れ上がったんです。

「ぐあああっ!!!!!」

 床で待ちかまえていたのは、まるで食虫植物のような棘付きの葉っぱでした。獣が口を閉じるように、その牙がジークベルトの足に食い込みます。

「ジークさん!!!!」

 爆ぜるように粉塵が舞います。床を殴りつけたジークベルトは、その瞳を触手の奥へ。立ち上がった足は血に染まり、黒々として穴が開いているように見えました。

「やりやがったな。もう、許さねぇ!!!!」

 踏み込むと、ドロドロとした血が溢れてきます。ジークベルトは立ち止まりません。罠を警戒するでもなく、さらに突っ込んでいこうと茨の触手を砂に変えていきます。

「無茶です。戻って下さい!!」

「知るか、馬鹿野郎!!!」

「普通の人の神経じゃないですね。本当にこの人は……!!」

 噛み付かれたら殴る。触手が迫れば引き千切る。

 そのまま一気に壁際まで突き抜けて行ってしまうから大したものです。けれど、ここで気づいてしまいました。私たちは重要なことを見落としていたんです。

「ジークベルト、戻って来い。茨の群れに飲み込まれるぞ!!!」

「ぐああああああああっ!!!」

 触手の群れは森の暗闇に似ている。夜目が効くジークベルトでも、この部屋の深淵を見ることは敵わなかったようです。果たしてどこに隠れているのか、壁が露出してもコルアナの姿は見つかりませんでした。

 作戦は失敗です。考えてみれば当たり前のこと。茨に包まれた部屋の中、陰湿な罠を仕掛けるような相手が扉の正面に立ってくれているはずがなかったんです。

 この時を待っていたと言わんばかりに、一気に触手たちの動きが活発になっていきます。灰色の樹木に溺れそうになりながらジークベルトが必死に手足を動かしていました。

「ジークさん!!!」

 無我夢中になってロッドを振り回しました。ひしゃげて砂に変わっていく茨の中、ジークベルトを無理やりに引っ張り出します。迫る槍の触手をマヤトーレが弾き飛ばし、私たちは何とか部屋を脱出することに成功しました。

「畜生!! 陰から攻撃しやがって。本当に頭に来るぜ!!!!」

 荒く息を吐きながら、三人揃って大広間の床に倒れ込みます。助かったのは奇跡という他ありません。エル・リール様に感謝の祈りを捧げる私の横で、ジークベルトが大声で喚いていました。一番やられているはずなのに、どうしてこんなにも元気なのでしょうか。

「うるさい、ジークベルト。少し黙っていろ……」

 マヤトーレの方は随分と消耗が激しいようです。火炎が通り辛い相手に火炎弓で立ち回っていたのだから無理もありません。その動きは素早く的確で、見ていた私が衝撃を覚えるほどでした。けれど常に動き回っていたせいでしょう、身体にかかる負担も相当大きかったみたいです。

「相手の位置が分からないのは厄介ですね。これじゃ、攻めようがありませんよ」

「向こうは姿を現さずに私たちを仕留めるつもりのようだな」

 せめて敵の居場所が分かれば倒す方法も見つかるかもしれませんが、今の状態では完全にお手上げです。

「傷を癒しますから、しばらく休憩にしましょう」

 コロリの反動で三人とも死人のようになってしまいました。頭を押えてのた打ち回ります。

 傷は癒えていきますが、戦いの連続で体力が持ちません。しかも、今度の敵は凶悪。やり方を見るに多分性格が悪いんでしょう。少しだけコルアナを嫌うシャロの気持ちが分かったような気がしました。

「そういえば、シャロちゃんはどこへ行ったんです?」

 部屋に突入する前まではいたはずですが、それから一度も姿を見ていません。体を起こして大広間を眺めますが、やっぱりどこにもいないようでした。

「食堂か書庫にでも行ったんじゃないか。あるいは、私たちがやられるのを見て逃げ出したか」

「ええ!? それはちょっと困りますよ」

 死ぬ思いをして触手の巣に突っ込んでいったのも、元はと言えばシャロのためです。だいたい、彼女がいなくなったらどうやってこの迷宮、宮殿の情報を得れば良いんでしょう。客間の時のようなのはもう懲り懲りです。

「まあいい。取りあえず今は体を休めよう。ジークベルトは少し黙っていろ。さっきから鬱陶しいぞ」

 一人だけ呻き声が大きいんです。コロリ慣れしている私から見ると、確かに呻くのは反動を紛らわすために効果的な方法なんですが。何事にも限度があります。反対にマヤトーレは平常通り過ぎかもしれません。大した精神力ですが、時には自分を解放した方が良いでしょう。

 しばらく寝転がったり壁にもたれかかったりして過ごしていると、急に光って箱が姿を現しました。その中からシャロが飛び出してきます。

「あっ、シャロちゃんです。ちゃんと帰ってきてくれたんですね!!」

 自分が転移した時には分かりませんでしたが、出現する時はこういう風に見えるんですね。箱から体が飛び出してくるなんて、私たちもそうだったのかと思うと、何だか奇妙な感じがしました。

「どこへ行っていた。その手に持っている物は何だ?」

 シャロは両手に何やら木箱を抱えていました。跳ねて近づいて来るたびに中でゴロゴロと音がしています。

「苦戦しているみたいだったので、火薬庫へ行って爆弾を取ってきたんです!!」

 上蓋を開けると中には筒状の枠の中に火薬を固めたような物が入っていました。これは手投げ式の爆弾ですね。ラッカやロンベルンでも似たような物を見たことがあります。

「火薬か。残念だが、あまり効果はないと思うぞ」

「マヤさんの火炎が効かない相手ですからね。それに敵の場所が分かりませんから。まずはそこを解決しないと手も足も出ませんよ」

 見通しの効かない室内、無限に生み出される茨の触手に姿の見えない不気味な敵。触手の中には罠も隠されていましたし、コルアナ自身が陰に隠れて移動している可能性だってあります。魔物を相手にしているのとは勝手が違って、どちらかといえば、人間の魔法使いと戦っているような感じです。

「だからこそ爆破するんですよ。居場所が分からなくたって全部爆破してしまえば関係ないじゃないですか」

「それはそうかもしれませんけど、コルアナに火薬が効きますかね?」

「大丈夫ですよ、これ全部冷凍爆弾です」

 これはもしかしたらと思いました。嫌っている相手だけあって、さすがにシャロはコルアナのことが良く分かっているようです。しかし、容赦ないですね。大切な箱を取られたとはいえ、本来は魔物人同士、仲間のはずなのに。

「一応聞いておきますけど、コルアナさんが酷い目にあっても構わないんですね?」

「箱を取られましたから。人間なら手足をもがれたような物ですよ。簡単に許せるはずがないじゃないですか」

 恐ろしい魔物人の闇を見たような気がしました。けれど、これで反撃に打って出ることができます。まずは効果の程を試してみましょうか。シャロの力で魔物を呼び出せるそうなので、取りあえずゴブリンを出してもらいます。

「あっ、これ見覚えがありますよ」

 大広間の床に黒い沼のようなものが出現しました。そこからゴブリンの物と思われる腕が伸びてきます。

「そういえば、シャロちゃんは黒いタイルについて何か知っていますか?」

「ええ、勿論。天使のお姉ちゃんは知らないんですか?」

 知っていて当然といった反応です。これも後で詳しく教えてもらうとしましょう。まずはコルアナを倒さなくてはその権利を与えて貰えないようですから。  

 さっそく冷凍爆弾を試してみます。こちらへ向かって走ってくるゴブリンへ向かって、ひょいと上から放ってやりました。

「おっ、こいつは凄げぇぜ!!!」

 青い閃光と共に、床とゴブリンが瞬時に凍り付きました。それから爆発して砕け散ります。

「なるほどな、一度凍らせてから爆発する訳か」

「これは使えそうですね。上手くいくような気がしてきましたよ」

 さっそくコルアナに再挑戦。先ほどと同様に私の陣魔法で入口を確保。ジークベルトが突撃して道を作り、冷凍爆弾で爆破していくという作戦です。

「さあ、頑張ってください。私も精一杯応援していますから!!!」

「さっきやられた分、十数倍にして返してやるぜ」

「ああ、冷凍爆弾の威力を存分に見せつけてやろうじゃないか」

 新しい武器を手に入れて、皆凄くやる気。私も早く使ってみたくてウズウズしてきましたよ。

「じゃあ、始めましょうか。反撃開始です!!!」

 魔法陣を展開して、滑らせていきます。一度やっているから慣れた物、扉を開いてエンジェル・フープ・カノン。さあ、反撃の火蓋が切られました。


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