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私の見た地球

作者: 山石口十


この世界ではたまに、羽根の生えた人類がいる。

細かい事は知らないんだけど何故かいる。

そしてこの私もその1人。

でも羽根があるからって飛べるわけじゃないの。

飛べるのは羽根が生えてる人の中でも、さらにごく一部の人間のみでね...。



ーーーーーーーーーー



今日も空を見上げると、空を飛び交う鳥と人が見える。


「いいなあ、私も飛んでみたい。」


そんな事を呟くと、隣を歩いているみゆきが


「いいじゃんりこはまだ、羽根が生えてるから飛べるかもしれないんでしょ?

私は羽根さえないもんなー。」


なんて言う。


「飛べないのに羽根があると邪魔なんだよ?

お手入れとかも大変なんだから。」


「分かってるって。」


そんないつも通りのやり取りをしながら学校へ向かう。

私達は花の女子高生、飛べないと悩むよりも青春を謳歌しないとね。

とは言ってもやっぱり飛べないのは気になってしまうものだ。

特に羽根だけむやみに生えていようものなら、気になって仕方が無い。


羽根がある人が飛べるようになるのは、およそ10歳から15歳ほど。

その間に飛べない人は、一生飛べない可能性が高い。

私は高校3年生、少し過ぎてしまったので、今は飛ぶのは諦めモードだが...。


「やっぱり飛びたいよなぁ。」


憧れはなかなか捨てられないものである。


学校につくとみゆきと別れ、教室へ向かう。

大学受験の真っ最中な私達は、普通の授業はほぼ終わり今は学校でも受験勉強中だ。

私もみんなと同じように、普通の大学へ行くつもりでいる。


昼休みは、クラスは違うがいつもみゆきと一緒にご飯を食べる。


「そういえばみゆきは進路どうするんだっけ?」


「あたしは先生になりたいから○○大学の教育学部かなー。」


「そういえばそう言ってたっけか。

偉いなー、ちゃんと目標があって。」


「んー、そうでもないよ。

たまたまやりたい事があったってだけだし。」


「そうかなー...。」


私は大学に行って何をしたいのかとかは特にない。

ただ皆が行くから私も行くだけ。

そんなんでいいんだろうか。

そんな事を考えてると、なにか察したのかりこが


「まあ今すぐ自分の将来を決めなきゃいけないわけでもないし、大学行ってる間にやりたい事見つければいいと思うけどなー。

あたしの姉ちゃんもそんな感じで、今は立派に警察官なんかやっちゃってるしね。」


なんて言いながら笑う。

あらためて、いい友達がいて良かったなーと感じる。

でもやっぱり目標がないともやもやするものだ。

羽根はあるのに飛べない感覚と似てるかもしれない。

可能性があるのに、自分でそれを潰してしまっている様な感じ。


みゆきと分かれて教室へ向かい、授業中もなんやかんや考える。

大した脳みそは持ってないけど、考えないよりはましな気がするから。


今自分は何をしたいんだろう。

何が好きなんだろう。

どうなりたいんだろうか。


そんな事を窓の外で飛んでいる人を見ながら考える。

とりあえず今は飛んでみたいかなあ。

って、飛びたいのは将来の夢とは関係ないか。

でも飛べたら気持ちいいんだろうな、あの人達はどんな世界を見ているんだろう。



授業が終わり下駄箱で靴を変え、家路へとつく。

今日はみゆきは委員会で遅くなるから、ひとりで下校だ。


「うー、寒くなってきたなあ。」


冬も深くなってきて、寒さが増している。

家に帰ってこたつで勉強でもしようかな。

そんな事を考えながら帰宅していると、


「....あ、雪だ....。」


空からチラチラと白いふわふわが降ってくる。

焦っている私を落ち着かせるかのように、ゆっくりと降る雪に軽く感動すら覚える。

ちっちゃい頃はよく雪で遊んだりしたなぁ。

雪ってホントは菌とかいろいろであんまり綺麗じゃないのに、そんなこと気にせず、かじかんだ手で雪だるまを作ったり。

いつからこんなに無難な人間になっちゃったんだろ。



そんなことを考えてるとなんだかいてもたってもいられなくなった私は、昔よく遊んだ高台にある神社まで来ていた。


「懐かしいなー。」


昔はここで何も考えずに遊んだっけ。

高校に入ってバラバラになっちゃったけど、みんな元気にしてるだろうか。

最近あんまり連絡もとってないしな。

神社の写真でも送ってやるか。


神社の写真を1枚と、街の風景を1枚。

ラインのグループに(久々に来たよー、みんな元気にしてる?)

の一文とともに送信する。

するとグループの中の1人がすぐに(うおー、懐かしいなー。俺は元気やでー。)

なんて反応する。


「ふふ、暇人かよ。」


思わず声に出して笑ってしまった。

なんか、神社に来て良かったな。


「...寒いし帰ろーかな。」


神社を出るとずいぶんと真っ直ぐな下り坂が続く。

今考えると、よくこんな所登ってきたなあという感じだ。

昔からこの長い下り坂を見ていると、なんだか飛べるような気がしていた。


今なら本当に飛べたりして...。


一瞬そんな考えが頭をよぎると、気付いたら私は走っていた。

夢中で走り、羽を広げる。

小学生の様に夢中でもがく。


「いけ.....!!」


強く地面を蹴ると、今まで味わったことのない浮遊感を感じると同時に、地面が少しずつ離れていく。


私は飛んでいた。


寒さなんか忘れるくらい気持ちいい。

車の音は遠ざかり、聞こえるのは風切り音だけ。

風が頬をなで、目の前には雪が降り白い空が、下を向くと街がまるでおもちゃかのように見える。

たまに見える公園の緑や川の青、マンションや道路の黒や灰、色とりどりの車を見ながら白銀の世界を羽ばたく。

地球ってこんなに綺麗だったんだ。



ーーーーーーーーーー



その日、私は大学に行かないという決断をした。

それが正解だったのかは分からないけど、今はとても充実した日々を送っている。

今でもみゆき達と連絡はとっている。

流石に私が写真家になりたい、なんて言い出した時はびっくりしてたけどね。

今は応援してくれている。


あ、そう言えば私来週写真集を出すの。

良かったら買ってよね。

名前?あー、タイトルが分からなきゃ買えないものね。



写真集のタイトルはね....





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