落ち続けてた女
何度も何度も落ちる。
私は死ぬまで落ち続ける。
死んだらまた生き返ってまた落ちる。
おっなんかポエムみたいだなあ。
なんか繰り返す内に落ちるのがスローモーションに感じるようになったので色々な事を考えられるようになった。
走馬灯っていうのかもしれない。
犯人はたぶん妹だなぁ、とか十五階建てで高層とか言ってるけど、本当に高層かな? とか。
あーあ。最初は頭から落ちてたので痛みを感じなかったから楽に死ねたけどスローモーションになってから頑張って生きようと身体のコントロールをしたときは最悪だった。
すぐに死なない程度の重症で生き地獄を味わって死んだからねぇ。
今回は考え事を最後までして死のう。
神様が落ちてしまった私を助けようと時間を巻き戻してるって思ってるけどこれはいつまで続くか分かんないなぁ。
私が諦めたときも、また普通に後ろから押されて落ちてたし。神様は意地悪だ。
状況的に押される力が支点力点作用点が起こっちゃってる後みたいだから、妹が心変わりしても落ちないって選択肢はないし。
うーん。参った。
そろそろ三階だな。怖いから目を閉じてるけど。
また死んじゃうな。
やだな。やだな。ヤンバルクイナ。イエー!!
ラップしちゃったよ。
余裕だね。私。
いや。余裕じゃないよ。段々と顔が強ばってきてる。
ちょっと目を開けてみようかな……
見たくないけど見ちゃう。そんな感情に動かされる。
目を開けた。
クッションがあった。
おおう?
広く積み上げられたクッションに身体がぶつかる。
「うーーー」
かなりの衝撃を吸ってくれた。だけどまだ足りなくて少し私の身体は宙を舞う。
けどこれ助かる。
スローモーションな世界の中で漠然とそう思う。
宙を舞った先には綺麗な一人の女性がいた。
女神様かな? そんな事を思った。
女神様は、スローモーションのはずの世界でとてもはやく動いていた。
私を受け止めるみたいだ。
「あーーらーーよーーっーーと」
言葉を吐いて、女神様は私をお姫さま抱っこした。
暖かい身体の温もりに私は緊張が溶けていくのを感じる。
それと同時に世界がスローモーションをやめた。
「女神様?」
私の口から言葉がこぼれた。
「いや。ちげーし」
それが落ち続けてた私が、いつもの時間の感覚を取り戻した時に初めて聞いた。茶髪で長い髪を後ろに束ねてる整った顔立ちの女神様の言葉だった。
「えっと。ありがとうございます!!」
とりあえずお礼を言わなくちゃいけないと思うので言っておく。
「いや。気にすんな。この時間帯にやるべきことがなかっただけだ。ただの自己満足だよ。これから毎回助けてやるから」
「ええっと? どういう事です?」
「この世界は、お前が落ちる時間に巻き戻るんだよ。簡単に言うとな」
助かったのに、それは私にとっての死刑宣告だ。
「も、もう死にたくないです!」
「だーかーら、毎回助けてやるよ。落ちんのは諦めろ。助けられん。妹にあんたを殺す気はもうないけど押す力が入ってるから無理だ。屋上で押されたお前を助けようとすると俺が落ちそうだから嫌だ」
「支点力点作用点が決まっちゃってるわけですね……」
「よく分かんないが語呂はおもしれえなそれ」
「人生二十五年。面白いと言われたのは始めてですよー」
「死にまくってたのに落ち着いてるな」
死ぬ運命から逃げ出せた事に感謝してるし。それに
「ええ。毎回助けてやるって何のメリットとかもないのに初対面の人を助けた貴女に言われたんですから。色々と今について知りたいことはありますし不安もありますけど安心してますよ」
「……そういえば名前を聞いてねえし言ってなかったな」
確かに女神様の名前を聞いてませんでした。
「そうですね! 私は九重叶です。ココノエカナですよ。よろしくお願いします!」
最初に私が名乗る。
「珍しい名字だな。俺は冴木久子だ。よろしくな」
私達は笑いあった。