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戻る世界の騙り屋青年  作者: 時白
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プロローグが終わる

 

「今日はかたらずにかたろうと思うよ! 冴木くん!!」

「どういう事です」

 不思議そうな顔をする冴木くん。

 私は今、とてもいい笑顔をしている!!

 時間が巻き戻る世界になって四年と三ヶ月ちょいぐらい、ずいぶん煮込んだものだ。

 そんな煮込んだらカレーも腐る。

 煮込んだカレーは好きだが腐ったカレーは嫌いだ。

 もう少しだけ煮込みたかったが具がなくなるので語ろうじゃないか!

「今日は『相手の事を理解しないできない馬鹿な男』の話をしよう。この話ははじめてだろう?」

 そして君にとっては最後の話だ。

「ええ。はじめての話ですね。先輩は同じ話をしませんしね」

 その通り。私は同じ話をするのはなるべく避けようとする。

 だから同じ話を繰り返し君に話すのはとても苦痛だったよ。

「そうだね! 今日も退屈させないぞ。冴木くん」

 おっと。今日で最後だ。

「冴木くん。今日も私の話を聞くだけでいいのかい?」

「はい。田中先輩の話、好きですから」

 まったく本当に可愛い馬鹿な男だよ。ヘドがでる。

「じゃあ話すよ。その男はテレビもろくに見ないし、携帯も地図と連絡だけしかしない情報に疎い人間だった」

 君の事さ。

「そして話し相手も少ない。身近な人間で良く話すのは二人ぐらいだった」

「可哀想な人ですね」

 危ない。笑いそうだった。君の事だよ。

「男には一番欠けてるものがあった。世の中の流れや、人の感情の機微を考えるのが常人の人間に比べて著しくなかった。そうだね。人間がごく一部を除いてプログラミングされた同じ動作を繰り返す機械に見えてしまったんだろうね」

「どういう事です?」

「世界が繰り返していつ通常の時間の流れになるか分からない。政府はいつ時間の流れが戻ってもいいように人民に通常の日常を課した…まあ最初は暴動やら世紀末状態だったんだけど一ヶ月ぐらいで表向きは落ち着いて普通の日常を繰り返すようになったよ。人類ほぼ全体がね。だってどう動いても何しても時間が戻るんだ。何しても無駄なんだよ。人は狂わないようにいつもの日常を繰り返すようになったのさ。その時、その男は身内を殺していてそれ以外の事には目もくれなかったし、またその身内を殺したりしていた。自分が殺人を犯したから世界が巻き戻るようになったんだ。僕がこの物語の主人公なんだと潜在的意識に強く刻みつけながらね。馬鹿だね本当に馬鹿だ」

「…何ですかこの話は」

 あー駄目だ。限界だよ。

「アハハハハッ!! 君の事だよ!! この話は君の話さ!! ちょっと前、私を包丁で刺した世界で話しただろう? 『世界を見通す眼』の事さ。複数人いるって言っただろう? いるよ。君以外の全ての人間が『世界を見通す眼』だって事さ!! 傑作だよ!! 君には本当にね!! 井の中の蛙って言葉は君のためにある言葉だと思うよ? ハハッ」

「うわああああ!!」

「グッ…」

 首を絞められるのは苦しいものだね。何より喋れない。

 最後だと言うのに喋れないのは誤算だったね。それといきなり襲いかかってきたのも誤算だったね。なんて大胆なんだ。

 激しい表情の冴木くんを見れたのでまあチャラにしておこう。

「何で笑ってるんだ! 何で!」

 君の歪んだ顔が面白いからさ。

「あああああっ! なんだそれは! なんだそれはは! まあいい先輩を殺したあとに確認する! さっさとしねしねしね!」

 おおっ。対人恐怖症クラスの君がどうやって確認をとるのか気になるな。君の世界はこれで最後だから確認とれないわけだけど、テレビとかでも見る気なのかな? 今はそんなループのニュースなんかやらないで歌の特集しかしないけど。あっやばい苦しい。いかに殺されなれてるとはいえ、窒息ってマジでき…





 マジでキツいね。首を絞められるのは。語れないから。

 結論。カレーは腐ってた。

 最後に語らせてくれないなんて最悪だったよ。

 この最後のためにずっと我慢していたのに。

 それに謝りに行かなくちゃいけないし。

 憂鬱になっちゃう。

 でも、笑顔で行かなくちゃね。

 謝りに行くとはいえ、好きな人に会いにいくんだから。

 冴木竜也君の姉、冴木久子ちゃんに。





「やあ。愛する久子ちゃん」

「おお。理愛か。久しぶりだな」

 三年を経た二人の挨拶は私の本気の愛の告白を無視する形で終わった。

 女子同士が久しぶりに会うとよそよそしくなってしまうことが多々あるので、まあ許そうと思う。

「で、どうしたんだ? こんなボロクソアパートに何の用だ?」

「君の住んでるアパートに用はないからね。君に会いに来たんだよ」

「軽くボケてみたんだ。激しくつっこめよ」

 微かな微笑を浮かべてそんな事を久子ちゃんは言う。

 この微笑が私は好きだけど、弟君は嫌いだったのだろう。

「ごめんね。弟君通報しちゃった」

 つっこめよという要望は聞かずに本題を言う。謝罪ははやいほうがいい。そうしないと世間話が永遠と続くぐらい私と久子ちゃんは仲がいい。

「えっ? 知ってるよ? ニュース見てないのお前?」

「はい?」

 ちょっと驚く。この繰り返す世界ではニュースはあまりやらない。

 色々と諦めてる人間が多い世界なので滞る世界になっているから、目新しいニュースがでる事はほとんどない。

「指名手配になったな。竜也の野郎。捕まえに来た警察ぶち殺して次の世界、今の世界なわけだがこれまた警察の包囲網を突破して逃亡中だってよ。そして行く先々で一般人を殺しまくってるらしい。目覚めたな」

 一日目が始まる所は決まっているので殺人犯が前の世界で生き残っても警察が何人も周りを包囲して捕まえるので、それを逃げ延びたのはなかなかの戦闘力だなと思った。

 いつかは捕まると思うけどね。

 この世界は繰り返されるから。

「てゆうか謝んなよ。謝るのはこっちだろ? お前にも弟を殺すなって遺書に書くように頼んだんだからな」

 笑いつつ久子ちゃんは言った。

「まあね。私は久子ちゃんを殺した弟君は酷い目に合わせようと思ってだけど、勘違いしてる頭おかしい弟だから長い間泳がせて殺そうって言われた時にはちょっとムカついたよ。こっちが長い間に久子ちゃんの弟って理由で話し相手になってやってた奴だったのに…それをすぐ殺せないなんてね」

「怒った顔で言ってるけど全然ムカついてないなお前。むしろ楽しかったんだろ? じっくり相手を騙して苦しめるのって、お前、好きじゃん」

「心外だな……私はただ語っているだけだよ。騙っているだけ。だからたぶんムカついていたのは本当さ」

 弟君はもう最後だろうと思ったけどそれも騙りになりそうだけど。

「お前の本当が世界で一番、信じられないわ」

「光栄だね。久子ちゃんにとっての一番になれるなんてね!!」

「はあ……お前の時間を縛ってすまなかった。お前は約束を守らないタイプだと思うが俺は違う。頼んだ時の報酬だ。俺に出来る事をお前にしてやるよ。言ってみろ」

 また流された。

「少なくとも三年は弟君を泳がせろってやつの報酬だね。色々お願いしたい事はあるけどもう決めてるんだよ」

「付き合ってくださいとかはナシな。同姓もイケる事はイケるがお前は無理だ。すまん」

「……」

 語らせてくれないなんて本当に姉弟揃って、私殺しだよ。

「……じゃあいいよ。ずっと放置していた私の仕事のパートナーになってよ」

「それはずっと一緒にいろって事だろ? 物は言いようだなオイ」

「十日は休みをあげるよ。君にもやることがあるだろうしね。いいでしょ?」

 ここで上目遣いをして可愛さアピールも忘れない。

「……まあ俺に出来ることだからなそれは。いいぜなってやるよ」

「えっ何に?」

「パートナーに」

「生涯のパートナーですね! 幸せにしてください!」

 肩にバンチされた。痛かった。












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