プロローグ
「よっしゃあぁぁぁ!!! 受かったぜ!! 」
俺は今日第一志望校である私立正明高校に推薦で合格した。
私立正明高校ーーこの学校には、体育の科目が無い代わりに他の学校にはない特別な科目がある。それは「ディベート」という授業だ。これは授業進度によって何時間分かに含まれるのとは違い、毎時間ともディベートのみをやる授業である。
このカリキュラムは主に企業の企画部門などで働きたい生徒の為につくられた科目だったが、コミュニケーション力を上げる為に10年程前に必修科目となった。
俺は体育をやりたくないがためにこの高校を選んだだけでディベートには全く関心が無かった。このことが後に苦労の原因となることをこの時は知る由も無かった。
入学式当日、正明に合格した同じ中学の幼なじみ千倉砂希と登校し、教室で新しい高校生活について会話を弾ませていた。俺達は同じ1年A組だった。
「やっぱり高校入ったら彼女作りたいよなー」
「そんな簡単に出来るわけないでしょ。それよりディベートの授業は大丈夫なの? 」
「ディベート? まあ、なんとかなるだろ」
「そう、甘い科目ではないって聞いているけど……」
ガラガラガラ……教室のドアを開けて一人の女性が入って来た。
「えー、このクラスの担任になった瀬那月沙夜だ。よろしく」
年齢は25歳位の端正な顔立ちで男子生徒から好かれそうな美人である。が、この人愛想が無いな……
「それじゃあ、皆の自己紹介だ。私の話をしてもしょうがないからな。じゃあ出席番号1番から」
はい、と言って1番から自己紹介が始まる。俺は9番だからすぐに回って来るな。何話すか考えねーと。えーと……
「それじゃ次、9番」
「は、はい」
ヤベ…… 何も思いついてねぇ……
いや、気にするな俺。自己紹介なんて所詮30秒程度だ。失敗したっていいじゃないか! やってやるぜ!!
「俺の名は木暮影文。出身中学の青砂では帰宅部のエースと呼ばれていた。アニメの知識に関しては誰にも負ける気がしないんで。よろしく」
こうして俺は奇妙なアニオタの地位を獲得した。
皆の自己紹介が終わり、瀬那月先生がディベートの授業について語り出した。
「皆知っているとは思うが、この学校には他の学校にはないディベートという授業がある。この授業はお前達の進路を大きく左右する事になる授業だ。単位を落としたりしたら退学だからな。真面目に受けるように。今日は解散」
そういうと、足早に教室を出て行った。
一体「ディベート」とはどんな授業なんだ?進路を大きく左右するとはどういうことだ?不安が俺の頭を駆け巡っていたが、実際に受けるまで考えていてもしょうがないと割り切り、他の生徒達に紛れるようにして教室を後にした。