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ユースケ・サーガ  作者: ちいさいおじさん
7/7

修行

「待って下さい、コイーデさん!俺は兄貴を救うために力をつける必要があるんだ!何でもする、俺に青の魔術を教えてくれ!」素早く土下座の姿勢で平伏す青年。

それを聞いたコイーデがゆっくりと振り返る。「ん、今何でもするって言ったか?」


「は、はい…出来ることならなんでも」若干の歯切れの悪さを残しつつも青年はコイーデをじっと見据える。

「ほう、では貸しにしといてやろう。かつて苦楽を共にしたエースケの息子だからな、特別だ。」太い腕を組みながらユースケを見上げる。

「ありがとなす!嬉しいです!」土下座の体勢から上体を起こす。歓喜に満ちた表情。

「ただし条件がある。貴様の体力と精神力ではワシの修行に到底耐えられん。まずはワシが認めるだけの成果を出してみろ、何年かかっても構わん。」


「ファッ!メンドクサ!」


「ああ”!なんか言ったか?」

「何でもないです!がんばります…」

「まぁ、貴様如きが単身で努力出来るはずがない。雑魚を鍛えるのが得意な奴がいる、まずはそいつの下で修練するんだな」

意外と面倒見の良い髭達磨である。

「イーオ!カルイハテニョ!」髭が工房の奥になにやら大声で呼びかける。

「テニョ!ゾタキガャチモオノエマオ!」相変わらず何を言っているかさっぱりわからん。

暫くすると奥の方からドスドスと不機嫌そうな足音を立てながら中年のドワルフが現れた。「コイーデ!ナルスマャジヲンミンアノイワ!」なんか怒ってるけど大丈夫だろうか…


「ナルコオ!ゾルイガラクンボナウソキスガエマオ」何やらニヤニヤしながらユースケの方を顎でしゃくる。

「オオ!ルイテシヲオカナイタミソク、イナイガチニシナウョジンコ!ハレコダンナ?」ユースケの方を真剣な表情で吟味しながら中年のドワルフが何事か言っている。どうせロクでもないことを言っているのだろう。


「コスムノエースケハラクンボノコ、ユウツケ。レクテッヤテエタキガンサエマオ」髭達磨はユースケの肩をバシンバシンと叩きながら中年ドワルフに紹介する。

「ワッハッハ!ロセカマ!シウョキウョチンパンチハイワ。ルヤテエタキニドイテンサロコ」不穏な空気を漂わせながらユースケの顔を見ながらニヤけるおっさん。

「おい、ユウツケとやら。ワイが今日から貴様を鍛え直してやる」やっぱり共通語が使える中年ドワルフであった。

「あ、どうも…よろしくお願いします」次から次に発生するイベントに青年の頭はついていけない。


中年ドワルフがノシノシと青年に近づくと徐ろに肩を掴む。そしてゴリゴリと青年の肩を揉み始めた。

「イデデ!」肩の骨が砕けるほどの衝撃が走る。ゴリゴリゴリ

「ふむ…」なにやら神妙な顔つきで青年を押さえつけ肩を破壊し続ける中年。

「もう無理っす!ごめんなさい!ごめんなさい!」痛みのあまり何かに謝りだす青年…

「ふふふ、満足したぞ!」晴れやかな顔で崩れ落ちる青年を見下ろすおっさん。「今のは魔力か何か測ったんですか?」恐る恐る聞いてみる。


「あ、魔力?そんなもん知らん。ワイ魔力なんか持ってねえぞ。やってみたかっただけだ、文句あるのか?あぁん?」

倒れ込んでいる青年を愉快そうに見るおっさん。

「テニョは痛めつけるのが好きだからな、よく鍛えてもらえ。なに、死にはしねえよ」ニヤニヤしながら恐ろしいことを抜かすコイーデ。とんだヤクザに売り飛ばされたものである…


「おらボンクラ、さっさと行くぞ」鉄火場の地面に座り込み絶望している青年の首筋をむんずと掴み上げ工房の外へ連れ出すおっさん。捕まえた野良猫を運ぶが如し。


--

「あのテニョという男は?」

工房の奥に据えられた無骨な机と椅子、というよりもただの大小の切り株…そこに腰掛けてコイーデを仰ぐショーン。ちっさいおっさんの胸毛が見えて地味に不愉快である。

「テニョはワシの甥でな、普段は工房に入門する弟子を鍛えておる。ほれ、火酒だ。飲め飲め」

丸太に腰掛けると腰にぶら下がっている茶色い革製のポーチから大きなガラス瓶と白銀の盃を取り出す小さいおっさん。

ドンと机上にガラス瓶を置く。5ℓは入るであろう瓶には薄緑に光る液体が並々と入っている。かの有名なドワルフの火酒である。他の部族には決して作れぬ 仄かに光る酒、どんなに金を積もうとドワルフに認められなければ口にすることさえ出来ない貴重な酒だ。それを芸術的な装飾の白銀の盃にトクトクと注ぐ。「今年の火酒はここ数年で1番の出来と言われていてな、百年ぶりの傑作と賞された去年の物より上物だ」ずい、と盃をショーンに差し出す。

「それ前にも聞いたことがあるぞ」

「毎年美味くなってるってことよ」ワッハッハと豪快に盃を呷る。

ショーンも負けじと喉に火酒を流し込む。名の通り火がつくほどの酒精が含まれていながら、酒精の癖はさほど感じない。口に含むと自然に体に入っていくような不思議な感覚である。遅れて胃の中がカッと熱くなる。

「相変わらず美味い…これを飲んだら暫くは普通の酒が飲めん」しみじみと盃を傾けるショーン。視界の奥ではコイーデが腰のポーチから次々に肴を出して机に置いている。「便利だな、その入れ物は。新作か?」

「これは短縮の魔術を付与したポーチでな、見た目以上に物が入るぞ。残念ながら質量までは誤魔化せんがな」頭ほどの大きさのベーコンをにゅっとポーチから取り出す。未来から来た青狸か。


「テニョの話だったか、奴は今でこそ工房の手伝いをしとるが数年前まで皇国騎士団の教育隊長やっとった。人族基準の定年で辞めたが、まだまだ衰えとらんぞ」

「この世の地獄と言われる騎士団の教育隊か…ユースケは生きて戻ってこれるのか」

「そこで潰れるくらいなら、その程度の器。奴は決して父親を超えられんだろうよ」気にすることはない、と酒をショーンの器に注いでいく。

二人の宴会は始まったばかりである。

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