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ユースケ・サーガ  作者: ちいさいおじさん
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序章

【ユースケ・サーガ 序章】


重厚な門のように閉ざされた一対の襞、その奧には艶やかな洞窟が覗いている。露しげくキラキラと輝く入口は見る者を誘惑する。まるで重なった花弁のような入口は柔らかく蠢いている。この洞窟に惑わされて入った者は二度と地上に姿を見せることはない…特殊な能力者を除いては…


洞窟を前にして一人の青年が溜め息をもらす。青年の周囲に人の気配はない。青年が全裸で立っているという倫理的な理由だけではない。洞窟と青年から発せられる魔力に誰も近づけない、というのが静寂の原因である。おぞましいまでの魔力を前にして、青年はこれ以上近づくことができず、恨めしそうに花弁を睨むこと数刻。己の魔力がこれ以上保たぬことを悟った青年は、くるりと反転して帰路につく。


「兄貴、待っていてくれ。俺が必ず助け出してやる」そう呟きながら、一歩ずつ洞窟から離れていく。この洞窟はただの洞穴ではない、サトナーカ皇国は勿論のこと、今や世界中に災厄をもたらす妖巣(ようそう)の一つである。つい先ほどまで青年が対峙していたのはサトナーカ皇国の植民都市であるミエダに最近誕生した、比較的新しい妖巣だ。


(どうやって駆除しようか、ミエダ妖巣は半年前に湧いたばかりだがその展開速度は異常だ。もうすでに最深部では他の妖巣と繋がっているハズだ)「それにしても今日は体が軽いな」

自分が全裸であることに気付いていない青年は、妖巣への対策を考えながら、滞在中の村へ足を向ける。

草木が生い茂る獣道をかき分け20分ばかり歩いた頃、視界に時代がかった石壁が入ってくる。青年が滞在しているスズカ村の防魔壁である。村の正門のほうを見ると、槍を持った小柄な見張り番の姿を確認した。この村は近場に発生した妖巣を警戒して、村人が交代で歩哨をしているのだ。

青年は疲れを隠した表情で小柄な歩哨に声を掛ける。


「妖巣の偵察から戻ってきたんだけど、通してくれ。」


「・・・ヒッ!」歩哨の表情が凍る。


「あの〜、この村に宿をとってるんだけど」と続けた次の瞬間、「キャー!ま、魔獣がー!」と歩哨が甲高い声で悲鳴を上げる。青年は困惑した。

「お、女。というより魔獣?ど、どこに魔獣がいるんだ!」ブラブラとブツを揺らしながら周囲を警戒していると、歩哨は一目散に村内へ逃げてゆく。次の瞬間にガシャンと門の上から木製の柵が落とされ、入り口が封鎖された。村からはざわめきが聴こえてくる。「魔獣が現れたぞ!」「武器を持って来い!」「おい、誰か保安官を呼べ!」なにやら物騒だな、と他人事のように青年は周囲を警戒するが、魔獣の気配はない。自分では気付いていないが、この男、全裸であるだけでなく、獣道を掻き分けてきたせいで体中にツタや葉っぱが絡みついている。そのクルクルとした髪には枝が沢山挿さっているのだから、植物型の魔獣に見えなくもない。「え、魔獣なんていないじゃないすか!早く開けてくださいよ!」己の姿に気付かぬ青年は一人で憤慨し、地面に座りこむ。

誤解が解けたのは、それから10分も後のことだった。


この青年こそが後に世界を救うことになるのだが、今はまだ誰も知らない。そんな天パ男ユースケの物語が、今始まろうとしている。



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