第三話:ギルドの仕事
カイト達は今、事件現場であるシルフィードの西区に来ていた。
そんなカイトは目の前の光景についてアレックスに訊かずにはいられなかった。
「・・・なぁ」
「何だ?」
「親父がもらってきた仕事の依頼の内容って事件だったよな」
「あぁ、そうだが」
「じゃあ---」
カイトは『そこ』を指で示した。
アレックスはカイトが示した方へ向く。
カイトが指差したその光景、それは大通りの真ん中で横転した馬車と散らばったその残骸、そして残骸を拾う仲間達と逃げた馬を捕まえてきた仲間達、だった。
ギルドを出た時と比べると、彼らのテンションは五割ほど下がっていた。
「じゃあ、一体これは何なんだ」
その光景を確認したアレックスは口を開いた。
「バカだな。確かに俺は依頼は事件の対処だと言った。だがそれに後片付けがないとは一言も言っていない」
「いや、そもそもこれ、事件じゃなくてただの事故じゃないか!」
カイトはアレックに怒鳴りかかる。しかし、
「いや、それがそうでもないみたいだぜ」
カイトとアレックは声が聞こえた方を向く。
すると、その方向からルードがこちらに向かってきていた。
「なんだよルード、この事故は人為的に起こされた事件です、とでも言うのかよ」
「いや、そういうわけじゃない」
ルードは首を横に振った。
「俺、さっきまで親父に言われたとおり何があったか調べてたんだけど、どうもここで瘴気が発生したらしいんだ」
ルードは「ほら、あそこ」と道路のある一点を指差した。
目で追うと、そこの石畳には大きな亀裂が走っていた。
「で、その瘴気のせいで馬が暴れてこの有様だってさ。幸い、被害者はほぼゼロ」
「また瘴気か・・・。最近多いな」
町というものは人々に害のあるモンスターや瘴気の発生しない場所に造られるものである。
そんな町の中で瘴気が発生することはそもそもおかしいのだ。
そしてそれは、件数こそ少ないものの、世界中で発生していることだった。
(あの変なのが落ちてきたことと、何か関係あったりするのか?)
カイトは何となく今朝のことを思い出し、そう考えた。
しかし、それはないな、と首を振った。
「しかも奇妙なことに、一瞬光ったと思ったら、その発生した瘴気が跡形もなく消えちまったらしいんだ」
「消えたぁ? 発生が止まった、とか霧散した、とかじゃなくてか?」
「あぁ、パッと一瞬で消えたらしい。瘴気が発生した時、この辺りにいたやつらは皆口を揃えてそう言うんだ」
カイトの隣ではルードとアレックが話を続けていた。
しかし、カイトは得に興味がなかったので軽く聞き流していた。
そして、ふとあることに気づいた。
(ん? そういえば瘴気が発生しただけなら、やっぱり今回のって事件じゃなくね?)
しかし、今更掘り返してもしょうがないので敢えて口には出さなかった。
そしてカイトは何気なく辺りを見回した。
「・・・ん?」
すると、通りの路肩のあまり目立たなくなっている所。
そこに何かが横たわっているのが視界の端に映った。
何か引っ掛かりを覚え、そこをよく見てみる。
すると横たわっていた、というより倒れていたのはなんと人だった。
「お、おい、人が倒れてるぞ!」
叫ぶようにそう言うと、カイトは慌てて側に走り寄った。
近づいてみて初めて分かったが、倒れていたのは少女だった。
その肌はきめ細かく純白で、その髪は輝くような銀色だった。かなり長いらしく、太ももあたりまであるように見える。年は恐らく十五、六歳位だろう。
しかも、その銀髪少女はかなり可愛らしい顔をしていた。
カイトは思わずドキッとしてしまった。
「その娘、怪我か何かしてるか?」
背後から、すぐにやって来たアレックスがそうに尋ねる声が聞こえた。
「い、いや、大丈夫そうだ。見たところ、怪我もないし、ただ気を失ってるだけみたいだ。呼吸も安定してるから、たぶん瘴気も吸い込んでないぞ」
カイトはホッとしながらそう答えた。
「それにしても銀髪か・・・。珍しいな」
「金髪のお前が言えることじゃねぇだろ」
アレックスに続いてカイトの所にきたルードがカイトの頭を指差しながら呆れたようにそう言った。
「俺の髪は今更だろう。それよりどうすんだ、この子」
「オレが聞き込みしてた時に人を捜してたヤツはいなかったけど・・・」
カイトとルードはアレックスの方を見る。
すると、アレックスは頭をかきながら、
「ほっとく訳にはいかねぇだろ。とりあえず一足先にギルドに連れて帰っとけ。その娘はカイトに任せたぞ」
「了解」
カイトはその少女を抱え上げた。いわゆる、お姫様だっこ、というやつで。
「おーおー、カイト君、羨ましいですな」
そんなカイトをからかうようにルードがそう言う。
「何だ、だったら代わってやろうか」
「いやいや、俺は後片付けをサボれただけで十分なのですよカイト君。羨ましいも代わりたいとも妬みで人が殺せたらなとも決して、決して思ってはいないわけですよ」
「いや、お前本当はすげぇ代わりたいんだろ」
そう言い合いながら、二人は一足先にギルドへと帰っていった。