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第一話:奇妙な出会い

この世界『フローリア』には六つの大陸と、大小様々な島がある。


そのうちの一つ、『風』を司る大陸『ウィンディア』はフローリアの東部、厳密にいえば南東部に位置している。


ウィンディアにある帝都『シルフィード』は、その中心部には城と、そして『騎士団』の本部がある。

そのためか、他の都市より比較的治安は良い。


そんな帝都は今日もいつものように朝日が暖かく気持ちのよい、平和な日だった。


その大通りもいつものように多くの人々で賑わっている。


そんな中を、一人の青年が歩いていた。


割と背の高い彼の髪は、ウィンディアでは滅多に見掛けない金髪で、それは彼のことを知らない人達の注目を集めていた。


と、そんな時だった。


「ど、泥棒!」


青年の進む通りの先から、女性の悲鳴が聞こえた。


青年は足を止め、眼前を注視した。


すると目の前から、バッグを小脇に抱えた男が走ってくるのが見えた。


「へえ、珍しい」


青年は何気なくそう呟いた。


しかし本当に珍しいことだった。事実、青年はこれまでの十八年間で数回しか関わったことがない。


と、走ってくる男を眺めていると、


「おいそこの、邪魔だ!」


と男の怒鳴り声が聞こえた。


それは青年対してのもので、青年もそのことは理解していた。


しかし、青年は男を見据えたまま、微動だにしなかった。


「・・・ちっ」


一向に動く気配のない青年に男は舌打ちすると、腰に挿していた片刃の曲刀を抜き、走りながら青年に切りかかった。


周囲から悲鳴が響く。


しかし、


「なっ、消え---おわっ!?」


突然目標を見失った男は目を見開いた。

そしてその直後に態勢を崩した。

足を払われた、と悟った時には地面に激突していた。


その場にしゃがんで足払いを繰り出した青年は立ち上がり、男が倒れた時に空中に放り出したバッグをキャッチした。


と、そこで、


「テメェ、舐めたことしてくれんじゃねえか!」


と、激昂した男が立ち上がり、そう怒鳴った。


「それを渡せ!」


と青年に怒鳴るが、


「渡せって、あんたのじゃないだろ」

「テメェ、痛い目見ないと分からねぇらしいな」


ドスのきいた声でそう呟くと、男は何かを呟き始めた。


すると、男の声に合わせるように、男の目の前に赤い魔法陣が浮かび始めた。


「ま、魔術だ! 逃げろ!」


周囲にいた誰かがそう叫んだ。

直後、周囲の人々は慌てて青年と男から離れていった。


しかし、


「へえ」


そう呟いた青年は目を細め、少し腰を落とした。しかし、それ以外に何のそぶりも見せない。


その様子を、舐められている、と思ったのか、男は怒りでさらに顔を歪め、魔術の咏唱を続けた。


そして、


「---『ファイアーボール』!」


男が咏唱の締め---魔術名を野太い声で叫ぶ。

同時に魔術が完成。キン、と甲高い音が鳴り、魔法陣から炎弾が飛び出し、青年に迫った。


しかし、炎弾が命中する直前、青年は腰に挿していた刀を抜き放ち、迫りくる炎弾を切り裂いた。


切り裂かれた炎弾は空気に溶けるように消えていった。


「な、何だよそれ・・・」


自らの魔術を切り裂かれた男は怒りを忘れ、呆然と青年を、そして青年の刀を眺めた。


青年の刀は普通の物とは異なっていた。

抜き放たれた刀身は明らかに他より長く、そして夜空のような漆黒だった。


「これで終いか?」


「っ! ---ちっ」


青年の声に男は我に帰った。そして今の状況を不利とみたのか、舌打ちして近くにあった路地裏に飛び込んだ。


しかし、青年はそれを追わず、


「んで、これ誰の?」


と男から奪い返したバッグを掲げ、周囲に尋ねた。


すると、


「あ、あの、私のです」


背後から、一人の女性が近付いてきた。


「あんたのか。ほら、もう盗られるなよな」


「は、はい。本当にありがとうごさいました。それで、お礼の件なんですけど・・・」


「いいってそんなもん。気にすんな」


青年は踵を返してその場を去ろうとした。


しかし、


「あの、出来ればお名前を・・・」


と女性が言った。


青年は振り返りながら、


「俺はカイト。カイト・デュナミスだ」


そう言うと、青年カイトは走り去っていった。










「クソッ」


男は床を殴りつけた。


先程、路地裏に逃げ込んだ男は、今は建物の屋上にいた。


この男は今日のような窃盗は初めてではなかった。しかも、戦いにはそれなりに自信があった。


なのに、結果はこんな様だった。


「一体何なんだ、あの男は」


「もう大体の予想は出来てんだろ」


背後から突然声が聞こえた。男は慌てて振り返る。


すると、そこには先程の青年---カイトがいた。


「なっ、どうやってここに!? ・・・いや、どうしてこの場所が分かった!?」


「普通に跳んできた。あとはコレかな。まさか分からないとは言わないよな。闇ギルドさん?」


「そいつは・・・追尾法陣(チェイサー)! そうか、テメェ、ギルドの人間だな!」


「ああ、そうさ」


ギルド。

それは一般人よりも優れた力を持つ者達が創る協同組合組織のこと。

世界中には様々な種類のギルドが存在している。


そんな中に、闇ギルドというものがある。


闇ギルドは通常のギルドと比べてかなり高い依頼料を支払うことになるが、その代わりにどんな依頼も引き受ける。たとえそれが暗殺などの依頼でも・・・。


勿論、そんなことは法的にも許されない。そのため、闇ギルド所属というだけで逮捕対象になる。


「別に闇ギルド捕縛の依頼がある訳じゃないが、見つけちまったからな。ま、大人しく捕まりな」


カイトは男に一歩ずつ近付く。男はカイトから離れるように後退る。


しかしここは建物の屋上。飛び降りればタダでは済まない。


また、先程の一幕があったからだろうか、男は後退る以外の抵抗は特に見せなかった。


と、その時、


「キャアァァァ、ど、どいてーっ!」


突然、そんな声が響いた。


それは少女の声だった。


ギョッとしたカイトは慌てて辺りを見回すが、声の主と思われる人物は見当たらない。


その時、カイトの腹に"何か"が凄まじい勢いで突っ込んできた。


「がっ!?」


その衝撃に耐え切れず、カイトは後ろに大きく吹き飛ばされた。


(く、くそ、新手か!?)


カイトはすぐに体勢を整えようとした。


しかし、足が地に着かない。


それもそのはず、先程の衝撃でカイトは屋上の外にまで吹き飛ばされてしまっていた。


「マジかよ・・・っ!」


カイトはそのまま地面に向かって落下していき---

そして、辺りに凄まじい音が響いた。










「・・・あ~、死ぬかと思った・・・」


地面に仰向けに倒れたまま、カイトはそう呟いた。


(防御術式がなかったら、マジで死んでたな・・・)


カイトは落下中、咄嗟にに防御術式(ディフェンダー)を展開していた。


そしてカイトの身を守った術式は役目を終えたかのように、光りを発しながら消えていった。


「壊れちまったか・・・」


カイトはゆっくりと身を起こす。


カイトが落下した場所は路地裏だった。


そこは建物のせいで日の光が入りずらいため、朝だというのに薄暗く、とてもじゃないが爽やかな気分にはなれそうになかった。


(・・・ま、仕方ねぇか。それより、いったい何が俺に突っ込んで来たんだ?)


そう思い、自分の腹を確認してみた。


そしてカイトは大きく目を見開いた。


「な、何だよ、これ・・・」


目を疑った。なぜなら、カイトの腹の上にあったもの、いや、居たもの(・・・・)、それがなんと掌に乗れる程の大きさの小さな少女だったからだ。


その小さな少女は整った顔に肩まであるライトグリーンの髪、そして"風"のような模様が入っているダークグリーンのワンピースを着ていた。


しかし、体のサイズを含め、普通の人間とは大きく違う所があった。


それは、背中からその髪と同色の透明な羽が生えていることだ。


初めは人形かとも思った。

しかしよく見てみると、胸が上下しているのが見え、すぐにその考えを否定した。


(こ、コイツ、まさかとは思うが、よく本とかで出てくる・・・妖精、なのか・・・?)


カイトがそう思うのも無理ない。その少女の姿は、昔カイトが読んだ本に登場していた妖精の姿に酷似していた。


(しかし、コイツが何だろうと俺には関係ないんだが・・・)


少し落ち着きを取り戻したカイトは、手を顎に当てながら考えた。


(一体たこれはどういう状況だ・・・? 俺はどうすべきだ?)

初めはこの少女をそのままにして、さっさとギルドに向かおうと思った。


しかし、このままにしておくのは何となく後味が悪かった。


(ま、とりあえず連れてけばいいか)


そう考え、その妖精を胸ポケットにそっと入れた。


そして立ち上がろうと地面に手をつくと、掌の下には、石畳とは異なる硬い感触があった。


拾ってみると、それは割と大きな八面体の、淡く発光する白色透明な結晶だった。


(何だこれ? ま、とりあえずこれも拾っとくか)


その結晶を別のポケットにしまい、ギルドに向かおうとした。


しかし、


「ってやべ、あの引っ手繰り捕まえるの忘れてた」


と呟き、もう遅いだろうと思いつつもカイトは屋上まで登った。


案の定、そこには誰の姿もなかった。


「ち、ご丁寧にあいつに付けた追尾法陣までしっかり消してやがる」


追尾法陣の術式を見て、カイトは溜め息をついた。


「しゃーねぇ、取り敢えずギルドに行くか」


と呟き、建物から降りたカイトはギルドに向かって歩き出した。










その様子を、遠くから観察している人影があることも知らずに・・・。



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