堕落した死と生の隙間。日常帰還戦争。(1/?)
「やーやー、現世振りだね、感慨なる時空。私はこの理不尽極まりない勝負はしたくないんだが、どうだろうね」「それはこちらとしても同じだ。まず、俺は得物をもってないんだがな…」「私の武器はこのベレッタだよ、感慨なるがゲームで私に無残に惨殺された銃。どうかな気分は」「最高に最悪だよ、最悪に最高でもいい」
魔術師の横には友、そして――、
「やっほー、元気だったぁ?って、死んでるよね、あたし達っ」
元気に黄色い声を振りまいていたのは咲良だった。二人とも制服。
「敵同士、正々堂々殺し合おうよっ。ねっ?」
返答に困るコメントをする。だが、おかしい。コイツらがこんなことを言う筈がない。だいたい、友は絶対にあり得ない。二つ名はその人間の本質を表している。咲良ならいざ知れず、友に限って二つ名に逆行することは決してない。それほどの信頼は俺達にはある。ならば、
「あと一人が見えないがぁ…、まぁんなこたぁどうでもいいかぁ。早速始めようか。急いで始めないと、飽きちまうからなぁ」「そうだねっ」
ここで、『あと一人』についても言及しない咲良、こんなの絶対にあり得ない。情報が届いていない事態も想像できる。だが、俺達三人だけいて、あと一人がいないことは必ず不自然に思う。ここで、俺の操られているという疑惑は確信へと昇格した。
「ははっ、せっかちな奴は死ねばいい」「言ってろ、リィライト」
「おいおい…」
魔法使いと会話していた魔術師は話の隙に魔法を唱える。
リィライトと言った瞬間、世界が変わった。障害物が多数ある、そう、この光景は幾度も目にして、幾度も駆け抜けて、幾度もここで自らの命を散らした。
ここは…――――DEAD KILL → ALIVEのステージに酷似している。
曇天の空は変わらず、だが、空にはホログラムみたいな立体の文字が浮いていた。BATLE FIGHT!!――子供か、てな。つまり、もう殺し合いは始まってるって事か。俺はひとまず足音を立てずに岩陰に隠れる。
ここは一切トラップの無いゲーム初心者が初めに通るステージ。山に面している村の設定だったはずだ。そして、山側にはかなり大きめの体を隠すのにはもってこいの岩がゴロゴロ転がっている。その内の一つ、手近な岩陰に隠れる。
―――ッ!? 不意に思考にノイズが混じる。ノイズは痛みを発し、頭を通りぬけた。痛みの間隔が狭くなる。
ジジ――ジ―――ア、アアアア、聞こえてますかぁー?
そのノイズはやがて繋がり、無線機の様な声が聞こえ出す。リィの声だ。また魔法か。嘘くせぇ技術だなおい。
「聞こえるよ」
――喋らなくても念じるだけで聞こえますけど、あなたナニ、魔法初心者?普通漫画とかの主人公なら速攻で喋らずにコンタクトできるように適応するでしょ、うわぁ、滑稽っ。あ、因みに嘘くさいとか無いから。まずコレ技術じゃないから。考えてること筒抜けだからー。
だまれ、カス。ちょっと聞き分けの悪い自分に都合の悪いことを論点をずらしてうやむやにしようとしているような漫画の女子高生がしているような喋り方をるするな、ババァ。あと人の脳内盗聴するな。この盗聴器(笑)。
――酷い言われようっ。ま、許して使わす。それより大事なこと言い忘れてた。聞くか?
聞かない…――と言いたいところだが、聞かないわけにはいかないんだろ?
――聞かなかったらアナタハシニマス。
急に片言になるな。怖い。
――それほど重要だってことだよ。
聞くしかないだろう。
――その腕に嵌めてるの変身アイテムだから。
ええっ!おい、知ってるだろ。俺がファンタジーが嫌いな事を。
――知ってる。だが、お前の才能を一番引き出せるのはそのアイテムだったんだよ。…知ってるか、魔法って使うと楽しくなるんだぜ。
格好良く言っても無駄だ。どうすんだよ。変身して戦えってのか。あいつらの武器は銃だったぞ。俺にも銃くれよ。俺には『そういう事』は絶対に無理なんだ。だから銃くれ。
――あームリ。私銃とか知らないし、知らないってことは作れない。まず、私は魔法使いなんだよ。そっちの分野は魔術師の仕事。
意味分からん。魔法使いと魔術師の違いとか知らねえよ。この使えねえカスが。ってどぁあああああああああっ。
――どうした?
隣の岩を咲良が素手でぶち抜いたっ。まじビビった。
――拳士ってやつだそれは。接近戦は間違いなく即死だぞ。
どうすりゃいいんだよっ。
――だから変身。
変身はどうやって?
――おっ、乗り気だねぇ。
おっじゃねえ。自分の命が危なくなったらなりふり構ってらんねぇンダよ。
――嘘、《そんな事》絶対に出来ない癖に。…身勝手な言い訳。
不機嫌になるな。アッブ!回し蹴りはヤバいって!
――心の中で変身って唱えな。あとのフィッティングとかは何とかしろ。
なんとかなんて曖昧な言葉で濁すなっ。
――実は私もソレを使ったことないから何なのか分からなんだよな。つまり完全なブラックボックス。ただ魔法系を使えるとしか。
っざっけんなぁっ!!
俺は先ほどの咲良の蹴りをステップで避け、一旦距離を図る。
―――あいつはここは因果律が発生しない、物理現象が違うと言っていた。
ならば―――、
思いっきり下に沈み、浮上する時はばねのように、で咲良の懐に潜り込み、顔面に拳を打ち込む。右ストレート。だが、ソレを顔を引くだけでかわす咲良。近接戦闘のど素人な俺はそのまま姿勢を固めたまま、ひざ蹴りを繰り出そうと――、咲良の左が腹に入るっ!振りかぶらなく、振り子の要領で拳をぶつけられる――それだけなのに、一メートルほど『吹き飛んだ』。
次の衝撃で自分が今どこにいるか気付く、岩にめりこんでいた。背中いてぇ。
「――…っ――かぁッ―――っ――ッ――――!」
後から来るこの呼吸が出来ない症状。心臓が――イタイっ!
咲良がやったんだ。右手で心臓に拳を打ち込んだ、で――衝撃でこの結果か。
俺はあまりの意外な非常事態に一瞬硬直した。
銃撃者がいることを知らずに。
いや、『狙撃手』の存在を知らずに。
次の瞬間、俺の肩の関節、膝の関節の計四か所を『同時』に弾丸が砕いた。
「がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」
狙撃された。狙撃された、イタイイタイイタイイタイ、いいいいたいっ。打ち抜かれた瞬間に一瞬で身体の力が抜けて立てずに重力に引きずられるまま落下した。イタイイタイイタイ―――――――――、生きなきゃ、生きなければ、ベレッタでの速射のスキルと狙撃のスキルはない。ライフルじゃないんだから!どうして?
「ミスった、そう思った?感慨なる時空」友は図々しくジャリジャリと地面の土を踏み、足音を立てて俺に近づき、銃口を俺の脳天に付きつけた。早い終末だ。そういや死んだのって週末だったけか。
「はっ、ぜん、ぜんだ。甘いな。頭を打ち抜いていたらはやかったのに。俺にナニかをする時間をお前は与えてしまった。友。それは同時に敗北を意味するって事を、教えてやるよ」
「甘い、のは時空の方だよ。その台詞の言い回し、空想とリアルを同一視している時点でもう敗北している」「俺ほどその言葉が似合わない奴はいないな…、だけどそれはどうかな」
「どうにもならないって事、知ってるくせに」音を立てて銃口をぐりぐりと頭皮にこすりつけてくる。四か所の痛みが激しいのに、しっかりと頭皮の痛みも脳は感じている。
――大丈夫か?
決めた。決めた。決めた。決めた。魔法使いなんて職業はまっぴら御免だ。魔法使いのチートっぷりには嫌気がさしている。ソレを自分がするなんて吐き気が込み上げる。
だが、楽しいんだろう?
――…あ、ああ、あああ、ああああ、それはもう楽しい。お前の世界には麻薬ってのが在っただろう。まるでソレをしている感覚だといわれているな。ダウンが無い麻薬だ。
ア、アア、ヤバイ―――この感覚、気が×う。
それは、それは、それは、それは、それは、それは、それは、それは、、、、、
『楽しいそうだ』なぁ。
――おい、お前狂ったんじゃないんだろうなっ!?
リィの、まほうつかいのこえがきこえたきがした。
ククククっ、はぁはははっははあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああははっはははははっはははははっははははははっははは―――――――――――、
「撃っちゃいなよっ、さっさと終わらそうよっ」
「そうだね。つまらない、本当に初めから詰んでいて詰らない…勝負だった」
「何かいい残すことはある?」飽きたのか、時世の句を要求してくる。俺はまだ走馬灯さえ見ていないというのに。一度死んでいるがな。まったく、笑えない。
一度だけだ。一度だけ、俺は俺で無くなることを決めよう。ただし、もうこれっきし、二度と俺に接触するな。俺は決めたんだ。こいつ等を殺すと。魔法を…使うと。そして――病気に殺される。この先どんな試練が待ち受けるのか分からない。だが、魔法だけは使わない。俺は誓おう。誓って、この誓いを楔にして、力にする。俺の思考が何処から沸いているのかも検討が付かない。そんなことどうでもいい。今はどうでもいいんだ。力を欲するならソレと同等の対価を消失させる必要が必要だ。なら、この思いを力に換えよ―――。
今までを思い返してきて、どうしてあの殺人ゲームにどっぷりハマったのかは言うまでもない。慈悲も無慈悲もない真剣勝負に魅了されていたのだろうか。それとも、人をリアルに近い体験として殺すことに興奮を抱いていたのだろうか。どうしてだろう、どうして友や咲良はこんな行動をするのだろう、原理が分からない。いや、そもそも殺人という回路はこの二人には無い筈だ。あっても感情で押さえこめるはずだ。理性が勝ち、感情が負ける。いや、感情が大敗する事態は万に一つもアリエナイ。あのオォって魔術師の仕業だ。魔術師なら魔術でも使えるんじゃないのか。まぁ、そんなことどうでもいい。ところで、俺はどうしてこんなヤバい思考を思考してるんだろう。一瞬前、決めた筈だ。魔法使いに成ると。なのに躊躇っているのか。躊躇しているというのか。ふざけるな。ふざけるな―――ふざけるな。まずこの勝負はおかしい、どうしてこっちは一人だけなんだ。もう一人――乙夜がいない。勝負として成立していないではないか。どうせ、魔術師や魔法使いからしたらどっちでも一緒なのだろうか。『ゲームと現実を同一視するな』これが俺の教訓の様なものであったのに。どうして率先して破ろうとするのか。打破しようとするのか。これは俺を取り巻いていた帷であったのに。やはり、この帷が踏み切れない、つっかえであるのだろうか。それこそふざけるな、だ。
振りかえれば――両目で察知できる事柄のみを信じ、皮膚で感じれる感覚のみを信じ、通じ合える人間のみを友として信じてきた。所詮、俺はこの程度の小物だったのだ。幅の小さい小物。最強の二つ名を所有しているのに本質は最弱なんて、…滑稽だ。
振り切ってやる。格言の一つ、ぶち壊す。ジンクスの一つ、ねじ切る。
消失する。俺という存在を、消失させ、変換し、再起動する。
デリート――デリート――コンバート――コンバート――コンバート!
一度だけの自身の消失では生温い。全てを殺す。全てを変える。俺が俺で無くなるように徹底的に、徹頭徹尾、竜頭蛇尾は許さないっ。
画竜点睛は欠かないっ!!!!
「あああああああああああああああああああああああああああああ―――……」
「バイバイッ――感g」慨という手前で銃のトリガーを引く。ズドォンッと俺の頭に銃弾がめり込み、骨を貫通し、脳を抉り、眉間から排出され、カンッと儚い音をたて、地面に小さな埃を舞い上げる。脳漿が眉間から漏れ出るのがすりガラス越しのような視界で認識する。
そんな悪夢の事態をもろともせずに俺は更なる思考を行えるはずもなかった。
感慨なる時空―――蓮回時空はここでこの時に死んだ。視界もブラックアウトした。ここで、脳を弾丸が貫通してからブラックアウトする間の一瞬の出来事を語ろう。
走馬灯なんて走らなかった。一瞬の出来事過ぎて、一瞬の記憶辿りも行えなかった。
だが、一つだけ、思い出した。どうしてこの言葉が思い浮かんだのかは知らない。ただ、単純に『印象的』だったのか…。この記憶を廻ったのは走馬灯より、銃弾より早い事だけは、確かだった。
『―――――知ってるか、魔法って使うと楽しくなるんだぜ』
最高……だっ。タイミング的には神だな。
帷はもう俺に纏ってはいなかった。
走馬灯は流れなかったが、死ぬまでには一瞬が無限大にまで引き延ばされるんだ。意識の跳躍。意識の――拡大。――意識の肥大化。ああ、なんて長いんだ。まだまだ死ぬまでには時間がある。
『肉体』が『死ぬ』までには――だが。
この間に、俺の《精神》は気が遠くなるほど、気が狂うほど、キチガイになるほど――――、死んだ。これこそ、自殺。
死んで、再生して、死んで、再生してをただ従順に繰り返す。
この《病気》の所為だ。
俺が、――――俺では無くなる。
自我の消失ではなく、自我の失墜。
自我の崩壊ではなく、自我の変貌。
――――ぎゃははははははっはははははははっははははっははははっはああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――――!!!!
何千回の死を迎えた時だろう。
何千+N回の生を迎えた時だろう。
尋常ではない意識のモウロウを重ねる中、ようやく終点となった。
俺は――――――俺だな。
他人ではない。
それほど、病んではいないんだな。
ようやく、一瞬の出来事の中の、一瞬の突き通るような思考をすることが出来た。
嗚呼、そう言えば知らないんだな。友と咲良は。
一言、一言呟くだけで俺は……――――――――、
《魔法を使える者》に変身できることを。この《思考》を《施行》させる!
――――――――――――――――《変、身》。