病気の男と魔術師と駒。日常帰還戦争。(2/準備)
「―――――魔法だ」
数秒の空白が開いた。
「―――――――――…っ!!?」
おい、おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい、恐ろしいこと言い出したぞコイツ。いや、魔法使いっていう設定は知ってたけどさぁ。ああ、既知の事実だったさ。だがな、こんな小さな会話にまで魔法を織り交ぜるのか魔法使いという輩は。ヤバ過ぎだぞ。魔法使いにとっての魔法ってのは殺人鬼にとっての得物みたいな奴じゃないのか?ここぞという時に繰り出すものだろ。ソレを日常的に織り交ぜ、しかも相手に気付かせないようにするなんてどんだけなんだ。こんなにヤバイ奴なのかよ!
「(――――はぁ、もう散々だ。)」
「ん?ナニか言った?」
「いーや、一言たりとも喋っていない」
「そうだな。魔法で読みとったから、…何考えてたかは分かる」
「もぅ嫌だっ!」「ジョークだよ、魔法使いのジョーク、差し詰め、マジックジョークと言ったところか」
「もうどうだっていいよっ!!」
「ま、この会話自体どうでもいいし、意味の無いものなんだけれど――この世界には原因も結果も存在しないから」
…ちょっと待て、それじゃあ―――。
「因果律から外れた―――世界ってことか?」
「ふっ、『良いところ』に気付いたな。そう、この世界――ティルワールドは因果律から外れ、全ての物理現象が物理現象として成立しない世界―――――」
「ソレが本当なら、俺も、あんたも、因果律から…外れていることになる」
「ま、そうだな」
「だったら―――」
「だったら、私達は何者か?か」
「そうだ」
「人だ、逆に聞くが、お前は何者だ?逆説的に考えずにも、解はあるだろう」
「…―――っ!」
「ここは森羅万象に干渉しない世界―――因果律…つまり、《いついかなる事象も時間的に過去に起こったことを原因として起こる》ことが無い世界だ」
「魔法による時間に依存しない独立世界。いや、時間外世界。過去・現在・未来も存在せず、今俺達のいる地点はただの点であり、三次元に時間を加えた四次元の枠外の点である、か」
「そう、だから――因果律を受けない。受け付けない。寄せ付けない。
受けないから―――この世界の情景が存在できる」
「どういう意味だ?」「さぁな」「因果律の不干渉――ソレが魔法か?」
「半分正解――いや、四十三点かな」
「これだから魔法は気に入らない。殺すぞ、魔法使い」
「やってみろ――と言いたいところだが、さっきも言ったようにお前なんて赤子の手を捻るより簡単に殺せる。今は私に従うのが得策ではないのかな」
「…くっ」
「緩和休題だな。私はその魔術師と敵対しているんだよ。そこで去り際にそいつは私にこう言い残した。
『お互い駒は二つずつ。いつぞやの続きをしようじゃねぇか。今度は俺が勝つからなぁ。覚悟しておけよ。改造したらそっちへ仕掛ける。お前も準備しておけよ』
とな。あ、このメッセージも魔法だ、私の記憶から抽出してお前に植えつけた。
この時、俺は気付いた。コイツは俺で遊んで暇を潰している…と。まず、俺の魂を自分の世界に連れ込むなんてことが出来るチートレベル(推定)の魔法が使えるのなら、俺の記憶をスキャンすることなんて朝飯前なんじゃないのか。そうだとすると今のこれは只の挑発でしかない。俺の頭に送り込んできたこのメッセージなんてのも口頭で十分な文字数だろう。ソレを魔法で態々伝えるって…悪意の塊だろ。つまり遊んでいると。てか、このリィっていうロリ少女一体何歳だ?絶対肉体と精神が釣り合ってないだろ。こいつお得意の魔法で肉体だけ若面気取ってないか…、確かファンタジーのこういった展開のお決まりのパターンって年齢が三ケタ後半――――ッ!!って…友がいってたような…「…もしそうなら普通死んでるだろ、その年齢までいくと」
「ああっ!人の年齢探ってんじゃねぇよ。ぶち抜くぞ!ったく、「警告おせーよ」あーあー、話がズレちまったじゃねーかよ。でだ、本題に戻るぞ…――蓮回っ☆」
「やっぱしババァか…、役の演じ方に年季が入ってやがる。それも数十年単位の」
「次言ったら殺すよー、わりかし本気で」
「………」
「私は本音から言うとこの戦いに是が非でも勝ちたい。だから協力してくれ―――頼む、この通りだっ」そう言ってリィは箒から尻をどかし、空中で土下座した。いやー、これまで数々の人間に土下座させてきた俺だが、ここまで清々しい清涼とした土下座は見たことが無い(空中で…という意味での清々しさと先ほどまでの態度が嘘のように掌を返してくるリィの態度が清々しいを掛けている…一応)。だけどいただけない。一応リィはミニスカートを穿いており、当然空中土下座というものは俺の視点が下から上へ見上げる形で無いと認識できず、そのミニスカートの中身までも……見えることになる。
「(…青と白の縞々のストライプか――萎える、おいっ、しかも具が出てるし…、しっかり細部まで幼児体型を造りこんどけよ)んー、遠慮しとくわ、幼女嫌いだし。じゃね」ま、速攻否定してやったけど。即決即断だ。今は立場的に俺の方が上だし。
「酷過ぎないっ!?」おおー、土下座状態から全く身体を動かさず、返答してきた。それに免じて…「じゃあまずえろぼでぃーに成って」要求を通してみようか。ふふふふふ…。
「かーー、…従うしかないよね。《トランスフォーム》!!――…これで、どうっ!」
ここでも評価は速攻で――「最高だね、言う事なしっ」魔法の使用というファンタジー要素に多少頬を引き攣りつつ、だがそれも次の瞬間跡形もなく払拭された。光源の知れない光がリィを包み、一瞬にして二十六歳あたりの完熟したぼでぃーに魔法の名前通りに肉体を変身していた。因みに服の方はデフォルトでサイズが変わるらしい。
俺は恥ずかしげもなしに声高々に言い放った、「うん、いいねっ!」と。対面のリィはというと…多少の複雑な表情を浮かべていた。
「では、協力してくれるのだ「いや、別にしないけど」な…は」漫画風に表現するならぱぁぁと顔を綻ばせているところにキツイ一言って構図だな。いや、ねぇ。えろぼでぃーに成った位で協力とかマジあり得なくね。
「まず…って言っただろ。次はそうだな――…服を…、ゴホンッ、コスチュームを「おい、言い直す方逆だろ―」変えてもらおうか。そのパーカーにミニスカート、二―ソックスって格好も好みだけど、水着になれ」
「お前…ファンタジーが嫌いなんじゃなかったのか」「何を言うか、魔女は水着にローブが基本だろう。友が言ってた」
「では《ガーメ「色は赤一択だからな」ン…ガーメント》!!トランスフォームの時と同じく、光に包まれ赤の水着(流石に俺が言わなくても通じていたのか際どいビキニだった)で黒のローブを纏っていた。…おい、「黒のローブなんて注文はしていない、ただちに外せ――馬鹿野郎っ」
「でもさっき水着にローブって」「ソレは基本だ、俺は応用する男だ」「ぐ…それは退化とか後退とかいうものではないのか…」
「さっさとしろ!」
何故か俺はテンションが高い。いや、なんでだろ。楽しいんだが。
リィはばさぁとローブを肩から外す。すると、ローブはファアと無数の黒の粒子に成り景色に消えた。「これで「その次だ」…まだかぁ」
中略、これが体感時間で一時間ほど続いたので。
最終的にはOLスーツ姿で落ち着いたことをここに記そう。
「はぁーー、これで話を聞いてくれるのだな」「もちのろんだ」感慨深しく息を吐くリィ。
「では、聞いてほしい。予想ではあと数時間中にも対戦が開始される。なので、お前にはその戦いに勝利してほしい」
「えらくあっさりと、且つすっきりしている内容だな。それで、対戦って具体的には何をするんだ?」
「……殺し合い」
「よしきた」「ええっ!」
「どうした?俺は了承したぞ」「普通は否定するなりするモノなんだが…」
「俺はある家庭用オンラインゲームにはまっていてな…」「既知の事実だな。なんたって私はそれ関連の依頼でお前を殺そうとしたんだからな」おい、今こいつサラッと凄いこと言いやがったぞ。てか、ようやく話が戻った…?のか。
「学陰学園の生徒会長に魔法陣で呼ばれて、殺しを依頼されて、殺そうとしたらもう殺されていた」「あー、もういい、後は想像できる範囲じゃないが長く刈りそうなんで後で聞く」「あら。そう」
「で、私のメンツが掛かっているからこの戦いで勝利してほしい。もちろん、相手は殺してほしい」言い分は理解はしていた。していた…筈なのに、どうしても享受できないでいる自分を自分で見つめる。対戦者…駒は互いに二つ。だとすると、こちらは俺にもう一人。向こうは二人。当然だ。だが、駒がリィの殺した人間の魂であるならば、あとの三人は俺の友人に位置する人間の可能性が高い、友。乙夜。咲良。この三人である可能性が。先程は簡単に殺すと断言したが、本当に殺せるのか。友を。友達を。
「なんだ、やっぱり迷っているんじゃないか。それでこその人間だな。
私はてっきりこのままスッパリと割り箸のように割り切って戦いに臨むものだと思っていたぞ、もう一人の方と同じ反応だなんて、新鮮味に欠けるな。
ん?
もう一人が誰だって?知らんよ。私はアイツには興味が無い。
『無い』だけにな。「どういう事だ?」
そんな個人一人の感情を汲み上げる余裕は私にはないから簡単に説明するぞ。
この戦いはサバイバルゲームだ。どちらかの全滅――絶滅でゲームの幕は閉じる。お前は相手――二駒を壊せばいいだけだ。
手首に嵌っているソレは私が授けた。んまぁ、ソレが在れば速攻楽勝で惨殺できる筈だ。まぁ、――――――――――がんばってくれたまえ」
「私は魂を魔術師に攫われた時、《お前の魂だけ》は死守した。それほど…お前の《病気》に期待しているという事だ」
「…そこまで知っているのか、いや、知られているのか」
突如世界が歪む。魔法使いの姿は明確には見えなかったが、口元には笑みが刻まれていただろう。唇を釣り上げ、嬉しそうに――にやける残酷な笑みが。
お客だ。そう聞こえたら視界は反転していた。
反転したのは色なのだが、黒が――白。白が――黒へと。真逆の位置に位置する色に変換していた。
今まで空には鈍重な雲のみが存在していた。今は薄らと《青い太陽》が見え始めていた。太陽光は普通に青じゃないんだな。これも、因果律から外れた世界だから出来るってことか。
「やぁやぁ、これはこれは、偉大な愚か者の魔法使い――リィ、この度は私の勝負事に乗っていただいて感謝に感謝を重ねても足りないほど感謝してるぞ。こちらの駒は十全に最強を獲得しているんだがぁ、そっちはどうだ?」
「いやいや、落ち着きなー、小物の中の小物の魔術師――オォ。今回はまた面倒で発案者の脳のレベルが丸分かりな程阿呆な勝負を持ちかけてくれて前回同様私にこうも簡単にカモらせに来てくれてアリガトウ。こちらは手心を加えに加え、加え切った上になにの知識も与えずに駒を遊ばせていたよ。最弱を獲得さえもできないんじゃないだろうかな、それでよければ、相手をするよ」
どうやら互いに互いを売り言葉に買い言葉で安い挑発をしあっている様子だった。少し離れた場所に立っていたのは黒いローブを着た長身の赤い目が特徴の髪を肩辺りで切りそろえた綺麗な顔立ちをした魔女だった。いや、魔術師だった。
そして――――――――――――――――、




