第009話 社畜、鍛冶場の問題点を整理する
ギーガ親方が鉱石を持って帰ってきた。
この鉱石は魔族の間だと、一般的に使われているものらしい。
その名を――魔鉱石。
べったべたの名前だな。
わかりやすくていいけど、もうちょっとなんかあるだろう。
オリハルコンとかそういうの。
ファンタジーっぽいやつな。
まぁそれはいい。
親方の話によると、だ。
どうにも最近は武器を作っても脆くなっているらしい。
以前ほど、武器が長持ちしない。
それは職人として許せない、と。
なにせ鍛冶場で作られる武器や防具は魔族たちの命に直結する。
そりゃあ責任重大だって話だろうよ。
さて、と。
じゃあ、やりますかね。
まずは新しい方の魔鉱石から手に持つ。
だいたい掌大の大きさで、オレの力だとずっしりくる感じだ。
「くわぁんてぃぃえぃ!」
ちょっと張り切ってみた。
それでもちゃんと仕事をしてくれる鑑定先生だ。
氏名:なし
種族:魔鉱石
性別:なし
状態:微弱な劣化
備考:魔族内で一般的に使われている鉱石。若干だが成分が変性してしまっている。そのせいで微弱な劣化が起こった。
うわぁ。
一発で答えが出ちゃったよ。
さすが鑑定先生!
念のために古い方の魔鉱石も確認してみた。
氏名:なし
種族:魔鉱石
性別:なし
状態:良好
備考:良好な状態が保たれた魔鉱石。
うはぁ。
やっぱりそうじゃん。
ってことは、あれか。
こりゃ魔鉱石を扱っている商人のせいか。
とは言え、だ。
この新しい魔鉱石も使えるようにしないと。
親方の責任が問われるかもしれん。
鑑定先生!
お願いします!
なんとかなりませんか!
氏名:なし
種族:魔鉱石
性別:なし
状態:微弱な劣化
備考:やれやれ。通常の魔鉱石よりも高い火力を使って精錬すれば、なんとかなるんじゃないかな。
先生!
マジですか!
ありがとうございます!
いや、もうマジで足をむけて寝れませんわ!
鑑定先生最高!
氏名:なし
種族:魔鉱石
性別:なし
状態:微弱な劣化
備考:具体的には通常の魔鉱石よりも二倍以上の温度で精錬すべし! もっとちょうだい!
先生!
愛してます!
すげー貴重な情報、あざっす!
「ちょっとハルト。あなた、誰に頭を下げていますの?」
「だまらっしゃい。オレは今、偉大なる鑑定先生に誠意をもってお礼している! 邪魔は許さないぞ!」
「鑑定先生って……ただのスキルでしょうに」
ふん。
ヴェラめ、わかっていないな。
リクエストに応えてくれる先生なんてチートの中のチートぞ?
「で、なにかわかったのですか?」
若干だが、呆れたような顔になっているヴェラだ。
バカめ。
鑑定先生の偉大さをわからぬ愚か者が。
「もちろんだ。解説しようじゃないか!」
ギーガ親方に向き直って、オレは古い魔鉱石を指さす。
「まずは親方。聞いてほしい。こっちの今まで使ってた方の魔鉱石なんだけど、状態が良好なものなのね」
「……なるほど」
素直にうんうんと頷く親方がなんだか愛らしい。
「で、魔鉱石としては問題なく使えるわけ。で、こっちの新しい方の魔鉱石なんだけど、微弱な劣化状態なんだってさ」
「いや、オラには同じにしか見えんだぎゃ」
「まぁほんの少し成分が変わっているみたいなんだよ」
んーむと腕組みしている親方だ。
「で、通常の魔鉱石と同じように精錬しちゃうとね、劣化状態が強くでちゃうらしいよ」
「ほんなら、使えんってことか。それは困るんだけどさ」
そこでオレは声を張り上げた。
ここからが本番だ。
「ノンノンノン!」
人差し指を立てて、横に振る。
ついでに立ち上がって、腰の後ろに手を回して組んでみた。
「ギーガ親方が心配するのは当然のこと。既に仕入れた魔鉱石があるんですからね。これが全部使えないとなると、もっと大きな問題を引き起こしてしまいます!」
「そのとおりだぎゃ」
「親方に伺いましょう。次に商人がくるのはいつの話ですか?」
「ええと……」
指折り数えているギーガ親方だ。
「次にくるのは八日後だぎゃ」
「では、その時に持ってくる魔鉱石もまた同じく、劣化した品質の物であるとするのなら、さらに次の機会まで待たなくてはいけません。それはとっても困りますよね?」
大きく首を縦に振る。
素直でいいな、この親方は。
見てみ?
ヴェラなんて実に怪しげなものを見る目つきをしている。
「そこで! 鑑定先生は教えてくれました。いいですか、通常の二倍以上の火力で精錬すれば、劣化を起こさずにすむ、と!」
どどーんと大発表してみた。
親方がパチパチと拍手をしてくれる。
「ハルト、通常の二倍の火力はどうやってだしますの?」
「……親方、どうぞ。この無知蒙昧な小娘に言ったんさい!」
「誰が無知蒙昧な小娘ですか!」
「いや、それはオラも聞きたいんだわ」
なんだってー。
どういうことだ。
クッ。
ここは鑑定先生の出番。
お願いします、鑑定先生。
どうかこの私めに、新たなる知識を!
氏名:なし
種族:魔鉱石
性別:なし
状態:微弱な劣化
備考:しらんがな
ははは……ご冗談を。
もっと褒めろってことですかね。
いいでしょう。
では、改めまして。
氏名:なし
種族:魔鉱石
性別:なし
状態:微弱な劣化
備考:しらんがな
てめぇ、ふざんけじゃねえぞ、こらぁ!
なにが、しらんがな、だ。
「ちょ、ちょっとハルト! 情緒が不安定過ぎますわよ」
「ふぅ! ふぅ! ヴェラ! 鑑定先生がオレを弄ぶんだ! 純情なオレの心はもうさっきから、バラバラ……だ?」
ずむ、とヴェラの拳がオレの腹に突き刺さっていた。
「ハルト……あなた、疲れているのよ。少し休みなさい」
クっ……ヴェラのやつめ……。