第008話 社畜、鍛冶場へ赴いてなにを見る
「まったく! まったく! まったく! ですわ!」
ヴェラがぷんすこ怒っている。
なんでかって?
スターバ祭りを開催しようとして怒られたからだ。
魔王様に。
そんな余裕なんてねぇ! って。
「ぜんぶハルトが悪いのです。甘言を弄してわたくしを騙したのですわ!」
矛先がこっちに向いてきた。
魔王様にはあんまり言いにくいんだろうな。
まぁべつにいいけど。
「ヴェラさんや、ちょっとお聞きなさい」
ここはひとつ社畜のセルフケアを語ってやろうじゃないの。
貫禄ってやつを見せてやんよ。
「いいですか。組織というものは理不尽なものなのですよ。時には個人よりも組織を優先しなくてはならない。どれだけ個人が傷つくことがあってもね。その代わり、魔王軍という組織が維持されるのです。あとは言わなくてもわかるね?」
「ハルト……何を言っているのかさっぱりですわ!」
ガクッときたが、まぁそんなもんだろう。
ヴェラに聞いたんだけど、実は魔王軍って歴史はかなり浅い。
だって、ニンゲンが攻めてくるようになって作られたものだから。
そもそも魔族は種族や氏族単位で生活していたわけ。
もちろん交流はあるんだけど、一緒には暮らしていなかった。
一部はそういうこともあっただろうけど。
まぁ一般的じゃないわけ。
で、ニンゲンたちの猛威にさらされて結成したのが魔王軍。
とにかく魔族の中でも、突出して強い魔王様を担ぎだして、なんとか組織という形を作っただけ。
そりゃ色々と問題でてくるわなぁ。
「で、鍛冶場ってこっちでいいんかな」
ホテホテと魔王城を歩いているオレたち。
行く先はもちろん鍛冶場だ。
魔王様から指示があったからね。
「あっていますわよ。お城の外にある離れに鍛冶場があります」
ヴェラに案内されながら離れに行く。
なんか想像していた離れという雰囲気じゃない。
なんかサイズがでかいんだもん。
建物の規模もそうだけど、入り口とか五メートル近くありそうだ。
「お邪魔しますわよ!」
ヴェラがふぬぬと力を入れて扉を開いた。
中に入ってもびっくりだ。
椅子とかテーブルとかもでかい。
オレの身長よりも大きいんだもんよ。
むわっとした空気に、なんとも言えない臭い。
これが鍛冶場か。
なんて思っていると、にゅうと顔をだした人がいた。
思わず叫びそうになっちまったじゃねえか。
単眼の巨人、サイクロプスだったから。
青白い肌に黒色の瞳。
赤銅色の髪。
頭頂部には小さな角。
筋骨隆々の巨人だ。
「おお! あんたらが魔王様が言っとった人らかね! 鍛冶士のギーガだ。よろしく」
全身が見えた。
でかいなぁ。
四メートルくらいはありそう。
ローマ風の肩をだした服か。
足下はサンダル。
うへぇ。
こんなんとケンカしてるって、こっちのニンゲンは正気かよ?
「そうですわ。なんでも鍛冶場でお困りごとがあるとか」
「そうなんだわ、いま、えらい困っとってな。魔王様に相談したら、あんたらを紹介してくれたってわけよ」
「その困りごとを教えてくださいな」
その前に、と。
サイクロプス親方は、頭部にある小さな角をこすった。
すると、しゅるしゅるっと身体が小さくなっていく。
だいたい二メートルくらい。
これで落ちついて話せるな。
「ついてきやあ」
サイクロプス親方に案内された先は、このサイズ用の部屋だった。
ふつうに座れる椅子とテーブルだ。
オレの分まで白湯まで用意してくれる心遣いが嬉しい。
「どっから話しゃあいいかわからんだけど、最近オラが作る武器の質がよう落ちとるんだわ。このままじゃ魔王軍の武器として出せんのだわ」
名古屋弁っぽいのはいいとして、だ。
まぁ要するに品質が落ちてしまった、と。
見たところ、親方の腕が鈍ったってわけじゃなさそうだ。
だったら変わったのは鉱石の方かな。
この鍛冶場の道具が劣化したって方向性もあるな。
「と言うことは、なぜ品質が劣化したのかの原因ですわね。ハルト、なにか思い当たりますか?」
ヴェラがこっちに話を振ってきた。
だから、さっき考えたことを言ってみる。
「んー鍛冶場の道具は劣化しとらんわ。オラが毎日ちゃんと面倒みとるでね。異変があったらすぐわかるんだわ」
だろうね。
そう思った。
なら、鉱石の方かな。
「鉱石の方はどうなっていますの?」
「鉱石も変わったようには思わんのだけどさ」
だろうね。
きっちりとしてるっぽいもの。
「さっぱりですわね。ハルト、出番ですわよ!」
はいはい、と腰をあげた。
最初は従者とか言ってたくせに、もうなんかオレの方が従者だな。
ま、建前としてヴェラの奴隷だからべつにいいけど。
「ギーガ親方、鉱石の仕入れが変わったとか、そういうのはないかな?」
「仕入れ? いっつも魔王城に来る商人から買っとるだけだから、詳しいことまではようわからんのだわ」
「前に使ってた鉱石は残ってる?」
「余りもんやったら」
「じゃあ、悪いんだけど鉱石を見せてもらっていいかな? 前に使ってたのと今使ってるの両方」
ふふ……鑑定先生の出番だぜ。
「ほんなら、とってくるわ」
ドスドスと音を立てて部屋を出て行く親方だ。
「ハルト……今日はなんだかやる気ですわね」
「ふっ……おだててもなんもでてこんよ」
「ちっ。スターバの新しい料理がでてくると思いましたのに」
あら。
意外と食い意地が張ってるのね。
食事はしない魔族だと言ってたのが懐かしいよ。




