第007話 社畜、魔王様から次なる試練を言い渡される
「もぐもぐ……」
魔王城にある謁見の間。
ここにくるのは二回目だな。
一回目はタマゴから生まれて、すぐにラミア姉さんにつれてこられた。
あのときは余裕がなかったけど、今はけっこう余裕だ。
なんたって、メスガキ魔王様はコロッケに夢中だからな。
「はぐはぐ……」
石かレンガかよくわからん壁と床。
天井にはなんか豪華な照明器具。
そして、床にはふっかふかの黒色の絨毯が敷かれている。
いちばん奥には魔王様の玉座だ。
なんだか禍々しい感じのする漆黒の椅子。
その上にちょこんと座っている魔王様。
見た目は小学校の高学年から中学生くらい。
左右の耳上あたりに巻き角が一本ずつ。
龍人って話だけど、他に特徴は見当たらない。
たぶん、ヴェラと一緒で翼とかは自由に出し入れできるんだろう。
しかし、この魔王様。
あんまり威厳はないな。
まぁメスガキ魔王様だから仕方ない。
玉座の上であぐらを組んで、一心不乱にコロッケを食べておる。
「……ということですわ。まとめるとスターバの球根には毒があり、その解毒方法を知らずに調理していたことが原因ですの」
ぺこりと頭を下げるヴェラ。
さすがにポンコツお嬢様キャラだ。
こういうところは堂に入っている。
「ふむ……」
ヴェラが報告を終わったタイミングだ。
魔王様がクワッと目を開いた。
「おかわりだ!」
そっちかい!
話聞いてたんか、この魔王様は。
見てみ。
ヴェラがポカンとしちまってるだろ。
「……ぬぬ。……おかわりだ!」
二回目も言ったな。
そんなに重要なことか。
まぁべつにいいんだけどね。
こういうこともあろうかと、ちゃんと用意はしてるんだ。
魔王様の目の前に隠し持っていた皿をだす。
かぼちゃコロッケ、もとい、スターバコロッケだ。
サッと手を伸ばしてきたから、皿を引っこめる。
「ええい。はようよこせ!」
「魔王様。ちゃんと報告を聞いてましたか?」
魔王様がグルルと喉を鳴らしている。
怖いけど、ここは我慢のしどころだ。
「ぬ! 聞いておったぞ! その……あれだ。ゴブリンのゴブリンによるゴブリンのためのゴブリンなのだろう!」
まさかのゴブリン建国宣言!
ひとつもオレの報告が耳に入ってない!
メスガキ!
これぞ、メスガキ!
「ヴェラ」
相棒にむかって皿をさしだす。
お上品にひとつ抓んで、口に持っていく。
ほわぁとなるヴェラだ。
「ぐぬぬ……ズルい! ズルいぞ! ハルト!」
「じゃあ、ちゃんと報告を聞いてってば。こっちだってがんばってきたんだからさ」
「聞いたら食べさせてくれるのかえ?」
「もちろんだ!」
「なら、聞こうではないか!」
さぁ、出番ですよ、ヴェラさ……ん?
ほっぺたがリスみたいに膨らんでますけど。
あ……食べたんですね。
はい。
「もぐもぐ……ということでですね」
ちゃんと飲みこんでから報告をするヴェラだった。
「なるほど……そういうことだったのか。ぬーん。ならば、スターバの毒抜きと同時に、この調理方法を料理人たちに下げ渡せばいいのだな?」
「そういうことですわ」
「委細承知した。早速、魔王の権限をもって対処しよう」
ありがとうございます、と二人で頭を下げる。
これで一段落といったところかな。
「では、失礼します」
と、魔王様のちっさい手がオレの腕を掴んでいた。
なにこの伝わってくる力。
「約束……コロッケだ」
「わかってますよ」
魔王様の前に皿をだす。
三分の一くらいは減っている。
あの隙間時間で詰めこんだのか。
ヴェラは。
「じゃあ、そういうことで」
踵を返そうとしたところで、魔王様が口を開いた。
「もぐもぐ……次は鍛冶場へ行ってくれ。親方から困ったことになったと報告があがっておるのよ。その鑑定眼、見事役立ててみよ!」
「……鍛冶場ですか。承知しましたわ」
「うむ、任せた」
魔王様が満面の笑みで見送ってくれた。
たぶんコロッケを独り占めできるのが嬉しいんだろう。
「ハルト、どうします? 今から鍛冶場へ行きますか?」
「いんや、行かない。今日はもう店じまいだ」
「いいのですか?」
ヴェラがきょとんとしている。
悪魔っ娘のくせに、心の機微がわからんとは情けない。
「いいか、ヴェラ。オレたち二人はいい仕事をしたよな?」
ここはちゃんとわからせてやらないといけない。
だって、オレの方が中の人は年上だからね。
「そうですわね。体調不良の原因を解決しました」
「だろ? おまけにコロッケを開発したんだ。魔王様の期待以上の仕事をしたってわけ」
「そこに異論はありませんわ」
うんうんと頷くヴェラだ。
だろう。
こういうときは、ちゃんと労わないといけないのだ。
身も心も潰れてしまう前に。
社畜のセルフケアってやつだ。
「だから、今日はもう休み。仕事はまた明後日からにしよう。それが健全な生活ってもんだ」
「しれっと明後日にしているのですか。わたくしは誤魔化されませんわよ」
もう。
ヴェラは真面目なんだから。
「そうか。明日はかぼちゃ……じゃなかったスターバを使った新しい料理を作ろうと思ってたんだけどな。ヴェラがそういうんじゃ仕方ない」
諦めるよ、と言おうと思ってたんだけどね。
その前にヴェラがオレの肩を握りしめてきた。
「……そういうことはもっと早く仰るべきですわね。いいでしょう。わたくしの権限をもって、明日はスターバ祭りといきます!」
いや、話変わってますけど。
おーい、ヴェラさん。
ふんす、ふんすと鼻息を荒くしてるけど。
キミ、そんな権限持ってるの?