第031話 社畜、飯テロをする
オレも早く風呂に入りたい。
久しぶりだな。
いや、こっちの世界にきてからは初めてか。
風呂に入るの。
すぽーんと服を脱ぐ。
べつに恥ずかしがるような年齢でもないからな。
ぱぱっと脱いで、いちおうかけ湯をする。
「あ゛あ゛あ゛~~」
ちょうどいい湯加減のお湯。
足から入って、肩まで浸かる。
これはいい。
つい、変な声がでてしまう。
くすくすと二人が笑っている。
バカめ。
この声がでる感じが温泉の醍醐味なのさ!
お湯をすくって、顔を洗う。
思っていた十倍気持ちいい。
風呂って偉大だな。
前の生活ではあって当たり前だったからな。
ここまで恩恵を感じなかったかもしれん。
足を伸ばして、のびびっとする。
はぁ気持ちいい。
ぼかぁ幸せだなぁ。
「なぁなぁ石けんとか身体を洗うものってあるの?」
隣の湯船で談笑しているアヴィタさんとヴェラに声をかける。
「これを使うといい」
アヴィタさんがゴソゴソとしてから、ひゅっと音がした。
なにやら飛んできたからキャッチしようと手を伸ばす。
が――それは泥だった。
べちゃっと顔や髪に泥がつく。
「…………」
「すまぬ。わざとではないのじゃ。その泥を使えば、髪も肌もつやつやになるぞ」
「ありがとう」
そういうのは先に言ってくれんかね。
まったく。
まぁべつにいいけど。
オレもお尻のあたりをゴソゴソしてみる。
ああ、粘土質の泥だな。
これか。
手ですくって、髪につける。
肌にもつけてゴシゴシ洗ってみた。
おお?
泡立つ?
訳わからんな。
さすがファンタジー。
すっかり身ぎれいになったところで風呂をでる。
ちなみに濡れた身体は、ヴェラがぱちんと指を弾くと一瞬で乾いた。
恐るべし魔法である。
「さ、帰ってメシにしようぜ」
なんだかんだで時間は潰れたと思う。
かなりのんびりしたからな。
だって、空が明るくなり始めている。
里に戻って、地面を確認する。
手をあてると、まだあったかい。
いいぞ、この感じ。
「ヴェラ、土と石をどけてくれる? 手で触ったら火傷しそうだ」
「いいですわよ」
またもや魔法が発動して、きれいに石と土がどけられた。
葉っぱの一部は焦げている。
だけど、すごくいい匂いがしていた。
「美味そう!」
さっそくと葉っぱで包んだお肉をとりだしてみる。
ウサギ肉の香草蒸しだ。
葉っぱの包みを開けると、えもいわれぬ芳しい香りが漂う。
ほっかほかの湯気を立てて、お肉様が姿を見せた。
ぷりっぷり。
肉汁をまとってつやつやしていらっしゃる。
しかも一部は焦げていて、焼き色がしっかりついてるじゃないの。
口の中によだれがたまっちまった。
お肉のべっぴんさんだ。
べっぴんさん、べっぴんさん、ひとつ飛ばしてべっぴんさん。
なんでひとつ飛ばすねん。
までがワンセットだ。
「ほれ」
と、まずはアヴィタさんに。
年功序列なのだ。
社畜的に。
次にヴェラ。
そんで、オレ。
さらにお芋を蒸したのもとりだしてみる。
こっちはホックホクだ。
あちちとなりながら、二つに割ってみる。
中は黄色みが強い。
そして――蜜がしたたっている。
あ、これ絶対美味いヤツ。
「いいか? ハルト、もう食べてもいいんじゃな!」
「ハルト、いいですわよね?」
アヴィタさんとヴェラにゴーサインをだす。
「むっはああああ!」
「美味しいですわあああ!」
オレも肉を一口。
ぷるんとした食感で、すごく柔らかい。
ジューシーかつあっさりとしている。
塩味を強めにつけたお陰か、味がはっきりしていた。
しかも行者ニンニクみたいな香草の威力よ。
ピリッとした刺激とともに、肉の臭みをしっかり消している。
最高にいい仕事をしたな。
「ヴェラ、アヴィタさん。こっちの芋も食べてみ?」
さっきのお芋を二人に渡す。
「あばばばばば!」
痺れてるのか、アヴィタさん。
「ぴゃあああああ!」
ヴェラも負けてないな。
二人は叫ぶことしかできなかった。
それだけ美味かったんだろう。
最初の一言以外は、無言で貪っている。
オレも落ちついていただきまんもーす。
一羽分のお肉をぺろりと完食だ。
お芋も食べた。
あー幸せだ。
こっちの世界にきて、初めて満足したかも。
食事で。
満腹になったオレは行儀の悪さを発揮していた。
ごろんと横になっていたわけだ。
残るウサギは仲良く二羽ずつ分けたらしい。
芋も残っていた分、ぜんぶ食べたヴェラとアヴィタさんだ。
二人も横になっている。
そして、ふくらんだ腹をなでていた。
幸せそうな顔で。
「我ながらいい仕事をしたな」
「ハルトよ、ひとつ頼みがある」
なんですのん?
「この里におる間だけでいい。料理番になっとくれ」
「それはとってもいい考えですわ!」
まぁべつにいいけど。
オレだってなんもしないでメシを食わしてもらうのは悪いと思うからな。
「その代わり、オレにも魔法を教えてよ。生活魔法ってやつでいいから」
本当は八鍵守護神とか使いたい。
でも、たぶん無理だろうからな。
身の丈にあったものでいいのだ。
使える以上の力は身を滅ぼす。
たぶんな。
「ところでハルト」
アヴィタさんだ。
「どしたの?」
「そろそろうちの者たちが起きてくる。料理番としてがんばっとくれ」
解せぬ。
初対面の龍人を相手に料理番とな。
そこはあんたが紹介してくれよ!




