第021話 社畜、ちょっとだけ魔法のことを知る
「ヴェラ! メルのところに行くか」
鑑定先生の結果を受けて、オレが弾きだした答えを告げる。
だが、ヴェラはあんまり乗り気ではなさそうだ。
表情からそれがわかる。
「んーハルト。もう一度、確認しますわよ。鑑定では炎の魔力が必要だと書かれていたのですね?」
「そうだけど」
「では、メルのところに行ってもムダですわね」
「にゃんで? 教えて、ヴェラさん」
「炎の魔法と炎の魔力ではちがうからですわ」
なにを言っているんだ、ヴェラは。
それは同じじゃないのかね?
オレが首を傾げてみせると、ヴェラがこほんと咳払いをした。
どうやら解説してくれるらしい。
「いいですか。わたくしたち魔族が持っている魔力というのは、特に属性を持っていない純粋なものなのです。だから、わたくしたち高位魔族は世界に漂う魔力を吸収できます」
ふむ。
前にもそんなこと言ってたな。
「では、炎の魔力とはなにか。魔力はその世界にある環境に影響を受けるものですわ。特に強い力を持つ物ほど影響力が強いのです。そうした場所では属性のついた魔力がありますの」
うん。
まぁなんとなくイメージできる。
例えばその辺にある魔力ってのは白紙の画用紙みたいなもんだ。
で、例えば火の側だと赤く塗られてしまうってことか。
知らんけど。
「では、炎の魔法は炎の魔力なのか。これは賛否の分かれるところもあるのですが、わたくしは別物だと考えます。なぜなら魔法を使うときには魔力を魔法に変換するからですわ」
うん。
なにやらよくわからんようになってきた。
でも、まぁ前世の知識があるオレはイメージできる。
要するにあれだ。
ゲームで魔法を使うときにマジック・ポイントが減ることだろう。
魔力ってエネルギーを魔法に変えている。
ヴェラの言いたいことがなんとなくわかった気がするぞ。
メルが使うのは炎の魔法だ。
これはメル自身が魔力を炎に変換したもの。
だから、炎の魔力ではない。
……うん。
炎晶石はこうした炎の力を吸い取って耐久力に変えるのか。
ただ内包できるエネルギーには限りがあるから、過剰な火力を受けると破損してしまう。
で、炎晶石を修復するには炎の力ではなく、炎の魔力が必要になってくると。
たぶん、こんな感じだ。
だとすると――どうやって炎の魔力を補充したらいいんだ?
「はえええ」
今、言ったのはオレじゃない。
親方だ。
「そんなんなっとったんかいな」
たぶん無自覚に魔法を使っていたんだろうな。
ってか、ヴェラはよく知ってたな、そんなこと。
オレと同時期に生まれたのに。
あ……古き神の入れ知恵か。
なるほど。
こっちの世界の知識とかは、ヴェラが持ってるんだ。
「ハルトの言いたいことはわかります。どこで魔力を補充するか、でしょう?」
異論はないので首肯する。
「では、魔王様のところに行きますわよ!」
「なんで? あのちびっ子魔王様のところに行くんよ?」
ちびっ子と聞いて、ギーガ親方がぷくくと笑っている。
ツボに入ったのか?
「いいから、ついてきなさい!」
と言うことで、オレはギーガ親方に礼を言ってから鍛冶場を後にした。
異世界の煙草が楽しみだからなぁ。
「ほおん……そうか」
オレとヴェラは謁見の間にいた。
ちびっ子魔王様は、相変わらず玉座の上であぐらをかいている。
「ええ、ですので魔王様の実家に行きたいのです」
「まぁあそこなら炎の魔力が潤沢にあろうな」
おいおい。
わかっている人同士で話すのやめて。
ここに初心者がいますよー。
置いてけぼりですよー。
「わかった。では、龍人ララゼヴィンクの名において、これを」
と、魔王様が上着の下に手を入れる。
ぺりっと音がしたかと思うと、一枚の黒い鱗を握っていた。
「いでで」
と言いながら、魔法で治癒してしまう魔王様だ。
「この鱗を持って、霊地サハルーサへ行くといい。必要ならララゼヴィンクの名をだしてもよい」
あ。ララゼヴィンクって魔王様の名前?
やだ、なんか格好いい。
「霊地サハルーサ……メテナ廃神殿の地下でしたわね」
「うむ。まぁちと遠いが、ヴェラがいるなら問題ないだろ?」
「ええ。わたくしなら往路で一日ほどですわね」
「あ、そうだ。村に帰るならこれを持っていてほしい」
ヴェラに小袋を渡す魔王様だ。
まぁなにが入っているかなんて野暮なことを聞く気はない。
オレが興味を持っているのは鱗の方だ。
「ヴェラ、ちょっとその鱗をみせて」
はい、と渡してくるヴェラ。
オレの掌よりもちょっと小さめサイズの鱗だ。
つや消しの黒曜石みたい。
ほええ。
これが龍の鱗か。
うーん。
肌触りはツルツルとざらざらの中間くらい。
どれ、匂いは?
――くんかくんか。
「は、ハルトおおおおお! なにをしているううう!」
ぐへえ。
なにがどうなったのか、わからない。
ただ、言っておこう。
ナイスパンチ!




