第011話 社畜、ちょっとばかし物思いに耽る
ぼけっとしている。
チクチクする草のベッドにもちょっと慣れてきた。
ふわぁとあくびがでる。
でも、眠気はこない。
けっこう寝てたみたいだからな。
若干、腹が減っているけども。
でもまぁ我慢できないほどじゃない。
鉄格子越しに見える夜空。
世界は変わっても月はあるんだな。
しらんけど。
どうやら、ヴェラに心配されたみたいだ。
そんな感じだった。
でもなぁ考えてもみてほしい。
いきなり集団転移に巻きこまれたあげく、間違いでしたとか言われて。
そんでもって今度は魔王軍に転生? したんだぜ。
しかもタマゴ生まれとか。
訳分からんって。
あれよあれよと言う間に小間使いをさせられて。
古き神だとか新しき神だとか。
なんか社畜のオレに責任負わせすぎじゃねえ?
ニンゲンとの戦争の件もあれだけど、神への信仰がどうだの、と。
ちょっとしんどいっす。
やめて、オレのヒットポイントはもうゼロよってなもんだ。
そりゃあ鑑定の能力をもらったのは嬉しかったけども。
色々あってテンションがおかしくなってな。
……反省。
気がついたら深く、重い息を吐いていた。
べつに前の世界の生活に未練があるわけじゃない。
天涯孤独の身で社畜だったし。
ちょっとしたオタクで恋人もなし。
執着するようなことはない。
でも、この世界をすべて肯定できるかっていうと話は別だ。
正直なところメシは美味くない。
トイレはアレだし。
草のベッドはチクチクするし。
魔族はニンゲンを敵視してる。
これはまぁ仕方ない。
ただなぁ気が休まらないんだよね。
いっつもどこかから見られているような感じ。
ヴェラって相棒はいるけどな。
ふぅ……。
オレって本当にニンゲンなんだろうか。
見た目は若くなったくらいで、他に変わりはないけど。
自分に鑑定したらいいじゃんって思うけどな。
ちょっと怖いんだよ。
もし、鑑定の結果がニンゲンではなかったら。
そんな可能性だってあるんだもんよ。
なにせタマゴ生まれだからな!
「ハルト……起きていますの?」
「うお!」
ビビったあ。
いきなりヴェラの声がするんだもんよ。
え? どうやって入ってきたんだ?
扉からじゃないよな?
ふわり、と微笑むヴェラ。
月明かりに照らされて、すごくきれいだ。
アッシュブロンドの髪がキラキラと光を反射している。
「おっと。驚かせてしまいましたか」
「ビビるだろうよ」
「ちょっとしたお茶目ですわ。魔人族のわたくしにとっては児戯のようなものですの」
オレの隣に腰をおろすヴェラだ。
「で、どうしたんだ?」
「様子を見にきましたの。少し疲れているように見えましたから」
「それは否定せんよ。悪かったな、ちょっとはしゃぎ過ぎた」
「いえ……あなたも大変だったのでしょう」
すっとヴェラの手がオレの額に触れた。
「な、なんだよ?」
やだ、アタイ。
ちょっとドキドキしちゃう。
「わたくしの能力を忘れましたか」
「……念話?」
「そうですわ。先ほどあなたが考えていること、全部聞こえていましたわ」
小っ恥ずかしい。
こういうの苦手なんだよ。
ってか、一線を越えるような人との付き合いってもんはな。
期待しちゃうから。
でも、結局は裏切られて……。
「わたくしに嘘は通じませんわよ」
ふぅ……。
まったく、嫌なヤツだ。
さすが悪魔っ娘。
「しばらくは仕事が続きますけど、今の案件を終わらせたら休みをもらえますから。それまでは踏ん張ってくださいな」
ヴェラがオレの頭を優しくなでる。
心地いいと思った。
だって、頭をなでられるなんて記憶にないから。
「そっか……休みか。うん、ゆっくりしたいな」
「それとこの牢屋から出られますわよ」
「え? そうなの?」
ヴェラがこくんと首を縦に振った。
「魔王様と約束してきましたので」
「……ほおん。ありがとな、ヴェラ」
シンプルに嬉しい。
今度はちゃんとしたベッドだといいな。
草のベッドは……以下略。
「いえ……どういたしまして」
ニコリと微笑むヴェラである。
うん。
かわいい。
「ところで……ハルト。話は変わるのですが」
「ん? なんかあったか?」
「ええ。ありましたとも!」
口調がちょっと変わるヴェラ。
なんだか嫌な予感しかしない。
「な、なにかな?」
「スターバのグラタンとスターバプリンの件ですの」
かぼちゃのグラタンとかぼちゃプリンのことね。
「あ、あれ……わんこ兄さんに作ってもらおうと思って」
「ほおん……わたくしに相談もなしにですか?」
優しくなでていた手に力がこもってきた。
ぐりぐりってするなよ。
「い、いや……ちょっと痛い痛い痛い」
ヴェラの手をどけようとするけど、すげー力でビクともしない。
「わたくしのために、ちゃんと作ってくださいな!」
この食い意地のはった悪魔っ娘め。
「わ、わかったから! わかったから手を放して!」
「……そういう答えが聞きたいわけではないのですわ」
「つ、作る! ちゃんと作るから!」
ちくしょう。
ほっこりした気分になってたのに最悪だぜ。
「いいでしょう。では、ハルト。よき夢を」
ぱちんと指を鳴らす音が聞こえた。
同時にオレの意識は眠りの淵に落ちていった。




