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第001話 社畜、斜め上の方向でひねった転生をする


 集団転移なんてのはもう流行らないよって考えていたんだけどな。

 まさかの当時者になるなんて、どうなってんの?

 しかも、この捻りのない感じ。

 

 真っ白な空間で神様らしき存在がいてさ。

 一人ずつ名前を呼ばれて、転移していくの。

 

 いや、べつにいいんだけどさ。

 オレくらいの玄人になってくると、もう少し捻りが欲しい。

 いや、ありきたりが悪いんじゃない。

 

 わかりやすさって点じゃいいんだけどね。

 そうじゃなくて、こう。

 もうちょっとあるだろう的な。

 

 アホなことを考えていると、最後に残ってしまった。

 名前を呼ばれなかったんだから仕方ない。

 

 ようやくチートをもらえますか。

 って言うか、バトル系のチートは勘弁だ。


 あんなものは十代まで。

 三十歳のおじさんは、のんびり暮らせるチートで十分でござんす。

 

「ふぅ……さっきの方で終わりですね。一度にこんなに召喚があるなんて大丈夫なのかな?」


 え? いま、なんつった?

 この神様っぽい人。

 

「女神様に報告しなきゃ……あれ? おかしいな?」


 ちょっと待って。

 オレ、オレ。

 オレまだ残ってるんだけど!


「空間が閉じない……なんで……え?」


 神様っぽい人と目があった。

 そうそう。

 オレ、オレ。

 忘れちゃダメよ。


「あなた……どうやってここに紛れこんだのです?」


「ちょっと待った。それって酷くねーですか?」


「あ、いや。そうですね。確かに、うん。すみませんでした」


 素直に頭を下げるとは偉いな神様だな。

 

「あ、いえこちらこそ。言葉が過ぎました」


 オレも頭を下げる社畜だもの。

 お互い様ってやつさ。

 

「ええと……あなたのお名前を伺っても?」


「私、秋尉(あきのじょう)ハルトと申します」


 いつもなら名刺を渡すところだな。

 でも、なんも持ってないから頭を下げておく。


「あきのじょうさん……ううーん。やはり名前がありませんね」


「な、名前がない……」


 いや、ひねった方向でとは思った。

 だけど、それはちょっと斜め上過ぎないか。

 だって、これって転移失敗パターンじゃん。

 

「そうなんですよね。今回、ちょっとした理由で集団で召喚魔法が使われてしまいましてね。その対象者の名前はここに記載されているはずなんですが……」


 なんだか申し訳なさそうな顔をしている神様っぽい人。

 

「ええと……じゃあ、なにかの手違いってことですかね?」


「でしょうね。ただ……大変申し訳ないのですが、私の力では勝手に被召喚者を増やしたりはできないのです」


「じゃあ、私はどうなるのでしょう?」


 神様っぽい人が顔をしかめた。

 あら、これってとってもヤバいパターン?

 

「ちょっと上司に確認してきますね。申し訳ないですが、しばらくお待ちください」


 ふわっと羽ばたく神様っぽい人。

 それを見て、オレは盛大にあせった。

 こういう態度は何度も見てきたからだ。


「ちょ、ちょっと!」


 オレは走った。

 

 そして、神様っぽい人の足に飛びついた。

 飛んで逃げようたって、そうはいかないぜ。

 

「離してくださいよ」


「い、嫌だ。だって離したら、もう二度と戻ってこない気でしょう?」


「そ、そそそそ、そんなことは考えてませんってば」


「嘘だ! ……がふ」


 ちくしょう。

 蹴りやがった。

 うっかり手を離してしまったじゃないか。

 

 ふわふわと飛んでいく神様っぽい人にむかって叫ぶ。


「これで終わりだと思うなよ!」


 クッ。

 こんな言葉しか出てこない語彙力が恨めしい。

 

『……それでいい』


『……あなたはこちら』


『……あちらに行かれては困る』


『……我らの計画』


『……達成してもらうぞ』


 え? ちょっと。

 誰? 誰もいないのに声だけ聞こえるなんて。

 怪談じゃないの。

 

 気がついたら、オレは真っ暗な場所にいた。

 なんだここ、マジでなんも見えない。

 いったい何が起こってるんだ?

 

 とりあえず閉じこめられているのがわかる。

 三角座りの姿勢で、狭い場所にいる感じ。

 だから、天井の部分に手をついてみた。

 

 あら? これ思ったよりも薄い?

 なんとかなるかもしれん。

 

「どっせええええええい!」


 力一杯、天井を押してみた。

 すると意外とすんなりとパカッと蓋が開いたみたいだ。

 

 そう某国民的アニメのオープニング。

 白い猫がミカンを割ってでてくると似たような構図じゃなかろうか。

 パカッといったもの。

 

 ちょっと暗めの洞窟っぽい場所だ。

 常夜灯くらいの明るさはある。

 

 周りにはタマゴがたくさん。

 白地に紫の水玉模様のタマゴだ。

 

 ちなみにオレはすっぽんぽん。

 ぶらりとしたアレが見えた。

 

 ぐるりと辺りを見回して声がでる。

 

「え?」

 

「え?」


 同時だったと思う。

 オレの目には下半身がヘビのラミアのお姉さんが映っていた。

 

 大きい。

 たぶん五メートルくらいの高さのところに頭がある。

 

「ええと……あなたニンゲンじゃない?」


 ラミアのお姉さんが恐る恐るといった感じで声をかけてきた。

 

「ええと……たぶん?」


 だって確証はないんだもの。

 オレはそれなりに異世界物は詳しい。

 だけど、このオープニングは見た記憶がないんだもの。

 

 人外ものでもない、タマゴから生まれたくせに人間のまま。

 

 もう、なんなの?

 マジで意味がわからん。

 

 オレはいったい何に巻きこまれているんだ?

 

「とりあえず……その……姿を見てみる?」


 ラミアのお姉さんの提案に頷いてみた。

 すると、水鏡が目の前にでてくる。

 

「うん……若返ってる?」


 これって転生でいいのかな。

 あと、黒目だったのが緋色の目になっているくらいか。

 

 うー。

 タチの悪い盗賊団に狙われなきゃいいけど。

 

 いや、それよりも気になるのは、だ。

 

「なんで、オレの姿のままなんだよ!」


「そんなこと言われても」


 いや、お姉さんに言ってないから。

 せっかく転生したんだからイケメンになりたかった。


 地味で目つきがちょっと悪い。

 若かりし頃のオレにむかって言ったのだ。

 

 ただ、今度はラミアのお姉さんを見て言う。

 

「やり直しましょう!」


「できるわけないでしょうが!」 


 思い切り怒られてしまった。

 ……残念。


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