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私、呪われましたの。なんだか楽しいですわ!

作者: 白雪なこ

内容がないような、おはなし。

 

 艶々と輝く金色の髪に、宝石のような緑の瞳が美しい令嬢。


 小さな淑女だった頃から、順調に育っておられる。

 将来が楽しみだ。

 きっとそれはそれは美しく育ち、有力貴族どころか、王族に嫁ぐ可能性もあるのではないか。

 こんなご令嬢が我が家にもいれば。


 大人たちはシルフィーヌをそう褒め称える。


 だけど、同世代の少女たちの意見はちょっと違う。


「綺麗だけど、なんだか人形みたいで、怖いですわ」


「礼儀作法の先生が、シルフィーヌ様は淑女の笑みをちゃんとできていると褒めていらしたけれど、私、あんな顔で笑う方とお友達になるのは嫌ですわ」


「淑女の笑みって、何を考えているか相手に悟らせず、弱みを見せない、優雅な笑みでしょう?お友達同士で必要かしら、淑女の笑みって」


「お母様のお茶会では、皆様、淑女の笑みでしたわ。私、我が家のお庭で行われたティーパーティを窓から見ていたのですけれど、あまり楽しそうではなかったですわ」


「‥‥‥お母様たちの淑女の笑みって、基本的に怖いような‥‥‥」


「わかりますわ!ご機嫌な時じゃない時の笑い方というかっ!」


「そうそう!きっと怒ってらっしゃるんだわと思っている時に、微笑みを浮かべられると‥‥‥何も言えなくなりますわ!」


「私は、礼儀作法は大事だと思いますけど、お友達とは楽しく笑ってお話したいですわ」


「そうよ!れいぎさほうができていても、おもしろくないのはいけないわ」


「ルリーナ、お姉さまはお友達とお話ししているのです。ルリーナもお友達のテーブルにお行きなさい」


「いやですわ、れにーなおねえさま。あちらのてーぶるは、ちいさなこどもようなので、もうだいぶおおきい、るりーなはこちらにまいりましたの」


「ルリーナ様、私の妹はまだ幼いので、ルリーナ様に付き添いをお願いしても?」


「あら?まあ!ええ、ありあなさま、よくってよ。そうね、まりーあんなさまは、ちいさいから、もうだいぶおおきいわたくしがまもってあげなくては。おねえさま、わたくし、ちょっとせきをはずしますわね」


「ええ、行ってらっしゃい、ルリーナ様をよろしくね」

「はい!」




「貴女のお兄様とシルフィーヌ様の婚約話が出ていると聞きましたわ」


「お兄様は少し年齢が離れすぎているのではと仰っていましたわ。お母様は成人する頃には気にならなくなると仰っていましたけれど。お兄様はもう13歳ですもの。私と同い年の婚約者なんて、話を合わすだけでも大変な気がすると、あまり乗り気でない様子でしたわ」


「確かに、私のお兄様はもう少し近い11歳ですけれど、最近は馬の話と剣術の話ばかりで、私とはあまり話しませんわ」


「弟は8歳ですけど、会話はある程度できますわ。でも、護衛騎士のマネをしたいらしく、家庭教師がいる時間と食事と睡眠の時間以外、屋敷の中にいませんの。訓練場や庭で、走り回っているそうですわ。弟と同い年の婚約者なんて……私なら……子守を押し付けられたような気持ちになるかもしれませんわ」


「そうですわね。でも、シルフィーヌ様の場合、同い年で話の合う方なんていらっしゃるかしら?」


「そもそも、話が合うってどういうことなのでしょう?お勉強のお話をすれば良いのかしら?それとも刺繍の話?可愛いドレスのお話?」


「去年婚約された一番上のお姉様は、最初は話題がなくて、領地から送られてきた美味しい果物のお話とか、お土産のお菓子のお話ばかりされていたとか」


「婚約するって、大変ですのねぇ」


「私、まだ婚約なんてしたくありませんわ」


「でも、従兄弟のお兄様なんて、嫌がって逃げてらしたから、大人になって婚約者を作ろうとしたら、お相手が見つからず、困ってしまったとか」


「まあ。したくても婚約できないとかあるのですか?」


「ああ!だからですわ!人形みたいなシルフィーヌ様が、大人になった時、婚約できないと困るから、婚約を急がれているのだわ!」


「え?どういうことですの?」


「今なら、まだ子供ですもの。将来に期待できますでしょ?大人はシルフィーヌ様を褒めてますし」


「ああ、なるほど。ご両親が大人になってもこのままだったらどうしようと心配されていたとしても、今なら、きっと大人になれば、楽しくお話しできるようになりますわって、言えますものね」


「そうですわ。このまま婚約せずに。大人になってしまえば、幾ら凄く綺麗でも、人形と婚約は難しいでしょう?だから、シルフィーヌ様の将来を期待できるうちに、婚約させたいに違いありませんわ!」


「まあ、見事な推理ですわ!」


「凄いですわね!私たち、きっと情報通(?)ですわね!」


 5歳児の乱入はあったが、9歳の少女たちは、貴婦人になったような顔をして、お茶会では必須な「最新の話題」を取り上げた会話を繰り広げていた。




 そんな「最新の話題」に盛り込まれていた当人、シルフィーヌはといえば。




「まあ、しるふぃーぬさま、もういちど、おっしゃって?」


「このお菓子、美味しいのにゃ。ルリーナ様も食べるのにゃ」


「ふふふ!おかしいぃ!しるふぃーぬさま、おもしろいですわ。れにーなおねえさまにあとでおしえてさしあげなくてはっ」


「面白いにゃか、よかったにゃ。マリーアンナ様、尻尾は引っ張りゃないで欲しいのにゃ」


「まりーあんなさまは、しっぽがおすきなの?るりーなは、おみみがかわいいとおもいますわ。あっ!ぴこぴこうごきましたわ!」


「ふふふん、自慢の尻尾と耳ですにゃ」



 お茶会会場に到着してすぐ、婚約者候補と同い年ぐらいのお姉さまに「呪われた」シルフィーヌは、ご機嫌でちびっ子テーブルに紛れ込んでいた。


 少しお高いけれど、貴族の子女のお小遣いで買えるその「呪いアイテム」の効果は精々1時間。1時間耐えれば、子供騙しの呪いは解ける。1時間ぐらいなら、馬車で待機するか、控え室を借りるかすれば良いだけ。


 だけど、厳しく育てられているシルフィーヌにとっては、夢のような1時間。部屋に隠れるように篭るなんてそんな勿体無いことができようか。いや、できない。


 だから、頭に大きな耳を、お尻に長い尻尾を生やした、猫人間シルフィーヌは、嬉々として、お茶会に参加した。


 呪いで生えた不思議な尻尾は、何故かドレスを貫通しているので、勝手にドレスに穴をあけたとあとで怒られることなく、お披露目できる。


 流石に仲良しでもない同い年の令嬢のテーブルにはつけず、可愛い幼児たちのテーブルを選んでしまったが。結果オーライ。



 猫ちゃんシルフィーヌは、幼女たちに大人気。


 淑女の顔でも真顔でも、可愛い猫耳と尻尾があれば、大人気。


 ついでに、喋る言葉も、ニャーニャー語で、面白いと大人気。


 年上の少女の嫉妬で呪われたとか、もはやどうでも良く。


 呪ってくれて有り難う、これからもどんどん呪ってください。

 呪いウエルカム、呪い最高!



 と、にゃーにゃー言いながら、シルフィーヌは今日だけは大好評で大人気な淑女の笑顔を振り撒いていたのだった。



 おしまい。






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