僕のちょっと非日常な一日
初小説です。ですので多分どっか変です。
あと、これは半分自己満足で出来ており、半分試し書きです。
どこかで見たような?と感じても、それは多分正しいです。ありきたりな設定ですから。
それでもよければ読んでやってください。
僕の名前は昴。苗字はない、ただの昴だ。
見た目は至って平凡、だと思う。
黒髪、碧眼、髪は肩にかかるぐらいで少し長いが、おしゃれとかでなく、ただ伸び放題なだけだ。
特にかっこいいわけじゃないが、それほど変な顔もしてないと思う。
特徴といえば平均より背が高く、ひょろ長いということぐらい。
「ガァァァァ!!」
そんな僕は今、翼の生えた狼におっかけられてる。
絶体絶命のピンチってやつだ。
さて、いきなりこんなこと言われても、わけが分からないと思う。
どうしてこうなったのか、今から僕の置かれてる状況を説明しよう。
☆☆☆☆☆
あれはいつも通り、ギルド(僕はここで主に受付、たまに現場の仕事をしてるんだ)に行って仕事を始めようと思っていた時のことだ。
いきなりギルドの扉を開け放ち、厳つい顔した男が飛び込んできた。って、この厳つい顔の男って僕の知り合いなんだけどね。
小さいころからの腐れ縁、凱だ。
真っ赤な髪の毛を短く刈り込み、がっしりとした身体をプレートアーマーで包んでいる。
まぁそれは兎も角、ソイツが飛び込んできて、あわてたようにカウンターに寄ってくるなり、いきなりまくし立てた。
「おい!大変だ!新種の魔物が現れやがった!見た目はウルフに近いんだが……あんな魔物、今まで見たことも聞いたこともねぇ。ソイツがウルフの群を統率して、街道まで出てきてるんだ!」
「なんだって?見間違いじゃないのかい?もしくはウルフの個体差の目立つ固体だったとか……」
「いや!そんなはずはない。ウルフは青みがかった灰色の毛をしてるはずだが……アイツは漆黒だった。それだけなら確かに個体差かもしれねぇが……額に角も生えてたし、何より翼があった。ウルフが空を飛ぶなんて、聞いたことねぇよ!」
それは確かに聞いたことがない……。
これは本当にコイツの言うとおり新種なのだろうか?
いや、それは今はいい。問題は街道まで出てきてるってことだ。
「それは確かに新種かもしれないな……。まぁそんなことはいい、それより街道に出てきてるってのは問題だね。とはいえ、見たこともない魔物にどの程度の戦力をぶつければ良いのか分からないのも問題だ…。どうしたものかな」
「とりあえず今は時間がはえぇし被害は出てないみたいだが……。このままじゃ、あそこを通る商隊が襲われるのも時間の問題だぞ。兎に角、誰でも良いから手が空いてるやつかき集めて向かうべきじゃねぇか?」
ガイに言われて気付いた。
確かに……。相手の強さが分からないからといって、このままじっとしてたんじゃ被害が出てしまう。
戦力とか考えてる場合じゃないな。
とりあえず対策を立てようと、ガイに質問する。
「そうだね……。今は何か対策を考えないとか。ガイ、君の知り合いで今から動けそうなのはいるかい?ギルドに登録してる人間はこっちで当たってみるよ」
「そうだな……。今、街にいるフリー連中で暇そうなのは、菖蒲と鶺鴒だけだな。他は所用やらなんやらで出てるか、いても忙しいやつばっかりだ」
2人だけか。まぁギルドのほうでも何人か出られるだろうし、なんとかなるかな?
その2人に協力を頼んでもらうために、ガイの返答にに応える。
「ふむ……朝の時間帯とはいえ、仕事の内容によっちゃそんなこと関係ないからな。2人いただけでもいいほうか。それじゃガイ、今からその2人に事情を説明して、協力を頼んできてもらえるか?」
「分かった。他にもいけそうなやつがいたら声掛けてくる」
「ああ、頼むよ」
そういってガイは外に出て行った。
さて、こっちもギルドの傭兵に当たらないとだな。
今、呼び出してこられそうな傭兵は5人。
そのうち1人は怪我で休養中だから、きたとして戦力には数えられない。
となると実質4人、ガイが2人を連れてきたとして7人か。
新種をやるには少し心許ないが、まぁ贅沢を言っていられる状況でもないし。
しかしなぁ……。呼び出せそうな傭兵は見事に前衛ばかり、後衛が1人もいないときた。
ガイに頼んだ2人も前衛、よくてアヤメが中衛といったところだ。
「ほんとにどうしたものかな……。これは僕も出るしかないか?久々で勘が鈍ってなきゃいいけどなぁ」
長いこと現場に出てないから不安はあるものの、現状後衛が僕しかいないのも事実だ。
とりあえず傭兵に連絡しないと。
全員こられるといいんだけどな。
そんなこんなで傭兵に連絡して回ってるとき、ガイが帰ってきた。
「おい!2人とも連れてきたぞ!」
ガイのほうは何とか捕まったようだ。
こっちは思いのほか状況がよろしくない、4人中2人に断られ、今最後の1人に連絡しようとしてるところだ。
「そうか。2人ともきてくれてよかった。こっちはどうにも難航しててね……1人は何とかこられるそうなんだが、2人に断られた。残るあてはあと1人、だ」
「そうか……。じゃ、ソイツがこられたとして5人か」
「いや、今回は後衛が1人もいなくてね。僕が出ようと思ってる。だから6人かな」
「へぇ。お前が現場に出るなんて久々じゃねぇか。勘が鈍ってなきゃいいけどなぁ?」
「まぁアヤメもフォローに回れるし、なんとかなるでしょ。というかならなきゃ困るんだけどね」
ほんとにならなきゃ困る。
新種をやるには心許ない、とさっきは言ったが、このメンバーは割と実力者ぞろいなのだ。
これでなんともならないような敵なら、最悪の場合この街は終わりだ。
「おう、それより2人は外で待たせてるからな。中に入れていいか?」
ガイにそう聞かれる。そういえば外で待たせたままってのもダメだよな。
「ああ、かまわないよ。もう1人が捕まったとして、一旦集まって作戦会議もしないとだしね」
「だな。おーい!2人とも入って来いってよ」
その声に反応して、2人の女性が入ってくる。
いや、女性というよりは少女、女の子、そんな表現が似合う2人だ。
1人は薄い紫色の髪を、背中の中ほどまで無造作にたらしている、切れ長の瞳も髪と同じ薄紫の美人さん、アヤメだ。
もう1人は、肩ほどまでの茶色の髪に、これまた茶色の瞳がつぶらで可愛いセキレイ。
どちらも小柄で、思わず守ってあげたくなるような可愛い女の子である。
「お久しぶりですスバルさん。普段はあまり仕事で会うことはありませんが、今回はよろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします。ギルドの方と一緒に仕事をするのは初めてなので、色々と教えてください」
そう挨拶をされた。
ああ、そういえば顔見知りだからすっかり馴染んでたけど、仕事を一緒にするのはほとんどなかったっけ。
アヤメとは時たま仕事が被ることがあったから、何度か一緒に仕事したことはあるけど、セキレイとは初めてだったな。
「ああ、こちらこそよろしく。アヤメは何度か一緒になったけど、セキレイは初めてだったね。まぁギルドと共同って言っても、フリー同士協力するのとあんまり変わらないから。いつも通りで大丈夫だよ」
「そうなんですか……。分かりました」
そう言うとセキレイは少しほっとしたようだった。
まぁ何事も初めてというのは緊張するものだからね。
「それで、新種の魔物が街道まで出てきたと聞いたのですけれど、群ごと退治する、ということでよろしいのでしょうか?」
アヤメが尋ねてくる。
「そうだね。最悪群のボスだけでもやれたらいいけど、出来れば群ごと掃討できればそれに越したことはないかな。それと、そろそろその言葉遣いもやめていいんだよ?僕のほうが年上とはいえ、それほど差があるわけでもないんだし」
そうなんだよね。知り合ってから割と経つんだけど、2人とも口調が固いままなんだよ。
やっぱり友達にはかしこまった態度は取ってほしくないしね。この際口調だけでも変えてもらおうかな。
「はぁ……。わかったわ。それじゃ普通に話すわね。」
「あ、はい……。でも私はこれが普通ですから。その、嫌だったら変えますけど……」
「ああいや、嫌ってわけではないよ。それが普通だって言うならそれでかまわないよ」
うん、やっぱり自然体が一番だ。これでまた少し仲良くなった気がする。
「おい、世間話もいいんだけどよ、もう1人ってのは連絡しないでいいのか?」
ガイに言われて思い出した。
そうだった。連絡しようとしたところでガイが戻ってきたもんで、すっかり忘れてた。
「そうだった……。とりあえず連絡して、傭兵が来るまでは特にできることもないから。適当にくつろいでてよ」
そう3人に言って、最後の1人に連絡する。きてくれるといいんだけどな……。
★★★★★
ガイに協力を頼まれてきたギルド。
そこでは今、スバルさんがギルドの傭兵に連絡している。
ほんとは私たちだけで十分だと思うのだけど、スバルさんに文句を言うわけにもいかない。
こんなことで嫌われるわけにはいかないもの。
新種の魔物が出たという話だったけど、そんなに強いのかしらね。
自分で言うのもなんだけど、これでも結構な実力を持ってると思うわ。
ガイもセキレイも実力は十分だし、スバルさんは実は隠れた実力者。
正直、このメンバーで負ける敵というのが想像できないわね。
「ああ、こられますか?良かった。今はどういうわけだか、みんな外に仕事に出てしまっていて、連絡がつく人が少なかったんですよ。助かります」
そんなことを考えてるうちに、連絡がついたみたい。
何人になるのかは聞いてないけど、少なくとも私たち以外に1人は来るようね。
とりあえず気になった、人数について聞いてみる。
「それで?結局何人で行くのかしら?」
「言ってなかったかな?言ってなかったね。さっきの人ともう1人来ることになってるから、6人だね。後衛がいないから、今回は僕も参加することになるよ」
今回はスバルさんも参加するらしい。
スバルさんが参加するのなら、勝ちは決まったようなものね。
さっきも言ったけど、スバルさんは隠れた実力者。
そこらの上級魔物じゃ、相手にもならないわ。
「人数はまぁ心許ないとはいえ、それなりに集まったんだけど。後衛が僕1人しかいないんだよね。だからアヤメには、フォローに回ってもらうことになると思うよ」
ここは弓使いとして本領発揮ね!がんばらないと!
「わかったわ。じゃ弓の準備をしておくわね」
そんな会話をしていると、セキレイがおずおずと入ってきた。
「あの、回復でしたら私も少しはできます」
「へぇ?それじゃセキレイにもフォローを頼もうかな。回復役が増えるなら結構楽になりそうだ」
スバルさんは、回復役が増えたことに喜んでいるようだ。
む……セキレイが頼りにされてるのが、ちょっと悔しいわね。
私も回復魔法、覚えておけばよかったかしら?
そんなことを話してるうちに傭兵が到着した。
これから軽く打ち合わせをして、すぐに討伐に向かうみたいね。
良い所見せて、もっとスバルさんにアピールしないといけないわ!
★★★★★
さて、傭兵の2人も到着したし、打ち合わせだ。
「さて、それじゃガイ、街道で見たっていう魔物の特徴をもう一回お願いするよ」
まずは敵の特徴等、出来るだけ知っておかないといけないからね。
新種だから詳しい情報はないだろうけど、少なくとも何も聞かないよりはマシだろう。
「ああ。ぱっと見た感じはウルフに似た感じだな。でも漆黒の毛に額の角、翼を持ってるからすぐ分かるはずだ。似てはいるが、明らかに違うからな。オレは実際に飛ぶところを見たわけじゃねぇが、翼の大きさから見て、飛ぶと思ったほうがいいだろうな。街道から割と近いところまで出てきてたから、ありゃ獲物を物色してたんじゃねぇかな?多分ほっといたら商隊が襲われて大変なことになると思うぜ」
「それに関しては僕も同意見だね。だからこそ迅速に対応しなくちゃいけない」
そこで、今まで黙って聞いていた傭兵から質問が出た。
「それで?ボスは分かったが、群は何匹ぐらいいたんだ?」
この人は最後に呼んだ傭兵。
身の丈ほどもある巨大な剣を振るう大剣使いだ。
もう1人は、これまた身の丈ほどのハンマーを振り回す大槌使い。
ちなみに、僕は杖を媒介にした魔術と、護身用のナイフ術を使う魔術師。
ガイは片手剣と盾で壁を勤める騎士だ。
アヤメはナイフと弓を主に使う狩人、セキレイはガイと同じく片手剣と盾を使うんだけど、回復魔法も使えるらしいから、聖騎士ってところかな?
あ、職業は僕が勝手に当てはめただけだから、実際は職業名があるわけじゃないよ。
「群は10匹ぐらいだな。ボスは厄介そうだったが、構成してるのはただのウルフだ。まぁオレ達の敵じゃねぇと思うぜ」
10匹か。確かにみんな戦い慣れてるし、この人数ならウルフの10匹ぐらい大した相手でもないだろうな。
「そうなると、ボスを押さえてる間にウルフの群を掃討、全員でボスにかかるのがいいかな」
「そうだな。それで、ボスを抑える役は誰がやるんだ?俺は大剣だから掃討に回ると思うが」
「盾はガイに頼もうかと思う。セキレイと2人がかりでもいいんだけど、回復魔法が使えるセキレイは、後ろに下がってたほうがいいからね」
ほんとは盾2人で抑えたほうが安全確実なんだろうけど、回復役を危険に晒すのも避けたいところだ。
「おう!まぁいくら空飛ぶって言っても、普段は地上にいるみたいだからな。抑えるだけならオレ1人でなんとでもなるぜ」
なんとも頼もしいことだ。大いに期待することにしよう。
「よし、それじゃ作戦も決まったことだし、早速出発しよう」
「おう!とりあえず最初に見た場所に案内するぜ」
ということで、街道の安全を脅かす魔物退治に出発だ。
☆☆☆☆☆
と、まぁ出発までは良かったわけだけど、いや、敵を見つけたところまでは良かったんだけど。
戦闘開始した直後にボスはなぜか僕をロックオン、猛烈に攻撃を仕掛けてきた。
そして冒頭の追いかけっこにつながるわけである。
しかし、何でいきなり僕を狙ってきたんだ?
特に敵対行動をしたわけじゃない、というかガイが思いっきり挑発してたはずだ。
まさか僕が魔術師だと分かって……なんてことはないか、所詮は獣ではあるわけだし。
まぁいい、囮がガイから僕に変わっただけだ。
大まかにやることは変わらない。
「僕は気にしないで!群の掃討を頼む!そっちが片付けばこっちは全員でかかれるんだし!」
攻撃を避けながらそう叫ぶと、ガイ達が応えてくる。
「おう!しっかり囮しとけよ!オレが速攻片付けてやるからよ!」
「スバルさん!すぐに援護に向かうから、少しの間がんばって!」
「オォォォオオ!!」
そんなやり取りの間にも、大槌使いが猛然とウルフに踊りかかる。
ここに来るまでは無口だと思ったけど、戦闘になると気合がみなぎってる感じだな。
「グルアァァ!!」
「っと!あっぶねぇ!」
そんなことを考えてたら爪が掠った!
僕は魔術師なんだし、最近はデスクワークばっかりで体が鈍ってたんだ。
余計なこと考えてると、これは死ねるな……。
★★★★★
最初はオレが囮のはずだったんだが、なぜかボスがスバルのほうに行っちまった。
まぁ囮がオレからスバルに変わっただけだし、大まかにやることはかわらねぇんだけどな!
アイツは魔術師だが、身のこなしも中々のモンだ。
オレ達がウルフを片付けてる間ぐらいなんとかなるだろ。
「っらあ!」
兎に角、今はウルフに集中だ!
オレは大槌使いのあとに続いて、群に突っ込んで、群を分断する。
何匹もかかってくるが、所詮雑魚、剣捌きと盾のガードで凌ぐ!
左右に分断された群の片方に、アヤメとセキレイが向かったみたいだ。
もう片方は、最初に突っ込んだ大槌使いと大剣使いが向かう。
オレはここで踏みとどまって、分断した群が合流しないように防ぐ!
群は10匹ほどかと思ったが、実際は8匹だったらしい。
アヤメ、セキレイのほうに3匹。大槌使いと大剣使いのほうに5匹だ。
アヤメとセキレイはさすがにコンビが長いからな。コンビネーションで瞬く間に片付けていく。
今もアヤメが放った矢が、セキレイと押し合ってたウルフの横っ面に突き刺さった。
残る2匹もアヤメが一時足止め、セキレイが突っ込んで、1匹を袈裟斬りに斬り捨てる!
こっちは大丈夫そうだな……大槌使いのほうに5匹行ったから、少し大変そうだ。
オレはあっちに加勢に行くことにする。
さて、加勢にきたは良いが、こっちも殲滅がはえぇな。
もう2匹減って3匹にやってやがる。
さすがにハンマーみたいな大物じゃウルフは捕らえにくいらしいが、そこはうまく使って大剣使いがばっさりやれるように誘導してやがる。
大剣使いも隙を逃さず、ハンマーを回避して空中に跳んだウルフに大剣をたたきつける!
さすが大物、当たっただけでウルフがボロ屑みたいに吹っ飛んでいく。
「っせあぁ!」
「ギャンッ!?」
オレもじっとしてるわけにはいかねぇぜ!
大槌使いの隙を突いて、背後から襲いかかろうとしていたウルフに、盾を構えて突っ込む。
ウルフが弾き飛ばされて初めて、大槌使いは危なかったことに気付いたようだ。
「すまんな!動きが素早いので、他にかまいすぎた!」
「気にすんねぇ!コイツはオレがやっとくからよ、もう1匹ちゃっちゃと片付けてくれや!」
「了解した!」
そう言って大槌使いは残り1匹を追い込んでいく。
オレも弾き飛ばしたウルフに追いすがり、タイマンに持ち込む。
だがウルフ程度じゃ、オレとタイマン張るには役者不足だ!
「っしゃ!」
様子を伺うウルフに正面から斬りかかる。
ウルフはひらりと空中に回避するが、それは隙を作るだけだ!
「っせい!りゃ!」
「ガゥッ!」
跳びあがったウルフに盾を叩き付け、地面に落とし、そのまま首に剣を突き刺す!
「いっちょあがりだな」
どうやらコイツで最後らしい。
ウルフを片付けたアヤメ達と合流して、スバルの援護に行くとするかな!
★★★★★
これは厄介だ。
なにがってウルフの数倍すばしっこい上に、やっぱり空を飛んでくる!
どうやら、長時間の飛行は出来ないようなのが救いといえば救いだが、滑空してくるだけでも十分脅威だ!
必死に攻撃を捌き、避けるが、やはり鈍った体じゃ中々厳しい。
「っどあ!?」
今も掠った。
掠っただけで魔術強化してある戦闘衣を切り裂くのだから、直撃したら即死しそうだ。
「くそっ!ガイ達はまだ片付かないのか?そろそろ死ぬぞ!ほんとに!」
そうボヤいていると、向こうは片付いたらしく駆けつけて来た。
「っしゃぁ!こっちは片付いたぜ!なんだ、ぼろぼろじゃねぇか。やっぱだーいぶ鈍ってんじゃねぇか?」
「うるさいな!最近デスクワークばっかりで、仕方なかったんだよ!」
軽く言い合いをして後ろに下がる。
やっときたか。
正直もうダメかと思ってた。
まぁ、これで少しはゆっくり出来そうだ……。
「スバルさん!大丈夫!?……っ!傷だらけじゃないの!」
アヤメも追いついてきた。僕の惨状を見て目を見張る。
「ああ、まぁ見た目は酷いけど、怪我自体は大したことないよ。全部掠っただけだしね」
「すぐ回復しますね!≪癒すべきは小病≫」
セキレイも到着したようだ。
軽い治療ぐらいなら、手が空いた今なら自分でも出来るんだけど、折角なので治療してもらうことにする。
「ありがとう。うしっ、んじゃここからは予定通り、後衛に専念するかな」
怪我が治り余裕も出てきたので、相手を観察する。
ボスもさすがに、前衛3人相手にしてこっちにくる余裕はないようだ。
とはいえさすが新種、というべきか、かなりの実力者3人を相手にしても傷一つ負ってない。
まぁ、内2人が大物で当てにくいってのもあるみたいだけどね。
「ん、あれならゆっくり詠唱できそうだ。今から魔術を撃ち込むから!合図したら左右に散会して!」
巻き込むと大変なので、忘れず意思疎通をしておかないとね。
「おう!」
「わかった!」
「む!」
了解したのを確認して詠唱を始める。
とりあえず中級から試してみよう。
「すばしっこいし、とりあえず風かな……。我は呼ぶ そは新緑の風!舞い上がりて巻き起こせ 葉刃の嵐!いまだ!」
「おう!」
散開したのを見て、最後の言葉を唱える!
「≪葉は鋭い刃なり≫!」
そう唱えた瞬間、どこからともなく葉が舞い上がり渦巻く!
中に見える葉は全て敵を切り裂く鋭い刃、これに巻き込まれたらただではすまないはず!
リーフ・ストームはそのままものすごいスピードでボスに向かう。
いくらすばしっこくても、このスピードでこの規模の魔術なら、そう簡単には避けれないはずだ!
「ギャゥアアアアァァァァァア!」
よし!手ごたえあったか!?
っ!?なんだって……。
「グルゥゥゥゥ……」
確かにリーフ・ストームは直撃したし、ボスの悲鳴も聞こえた。
しかし風が収まったあとに見えたのは、無傷のボスだった……。
「なんだ……中級魔術の直撃でも傷一つ付かないのか?反則だろ……」
結果を見て愕然としていると、後ろからセキレイに声を掛けられた。
「いえ……多分、ですけど傷は負ってました。でも風が収まり始めると、見る見る回復していったみたいです」
「ん?さっきの中が見えたの?」
「あ、いえ、私は多少なら、相手の状態なども感知できますから……確証があるほどじゃないですけど」
どうやら感覚で分かるらしい。便利そうだし、僕も機会があれば覚えてみようかな……。
「なるほど……効いてないってわけではないのか。それなら属性を変えてもう一発だ!もう一回撃つから、さっきの要領で頼むよ!」
そう声をかけ、次の魔術をどうするか考える。
そうしている間にも、ボスはまた前衛3人とやりあっている。
相変わらず傷一つ負ってないみたいだ、予想以上だなこれは。
「ガァァアアア!」
「っと!?簡単に言ってくれるぜ……。コイツは思ったよりつえぇしなぁ。早くしろよ!?」
「わかってる!……我は呼ぶ そは荒野の雷!束なりて撃ち落せ 陣雷の鉄槌!≪全ては雷に裁かれる≫!」
ガイの催促に応え、なるたけ早く詠唱する。
そして、幾筋もの雷がボスめがけて降り注ぐ!これなら!
「ギャグガガガガガ!!!!」
よし!直撃!
さっきよりも効いてる……!?
今度は無傷とは行かず、かなり効いているようだ。
傷が回復する気配も、今のところない。
「グル…ガ…ガガ……」
なんだ?もしかして、風属性だったのがいけなかったのだろうか?
いや、それよりも今はボスを倒すのが先決だ。
「今のうちに総攻撃だ!また回復するかもしれない!」
「おう!っしゃぁぁぁ!」
「ぬりゃぁぁ!!」
「ふん!」
「っせい!」
僕の声に応えて、ガイ、大剣使い、大槌使い、アヤメがそれぞれ攻撃を仕掛ける!
アタッカー陣の総攻撃により、剣に刻まれ、大剣に吹き飛ばされ、ハンマーに叩き潰され、矢に串刺しにされるボス。
「ギャゥアァァァァァアア!……ギャグ」
これはさすがにたまらないようだ。
もはや瀕死で、立ち上がることも出来ないようだし…止めだ!
追い討ちのジャッジ・ボルトを撃ち込む。
「……~~ ~~ もう一発!≪全ては雷に裁かれる≫!」
「ギャァァァァァァァ!!!!!……ァ…アァ…」
ボスの声は弱弱しく、やがて悲鳴も上がらなくなった。
今度こそやったか……!?
「……」
動く気配はない。
やったみたいだな。ふぅ……。
「なんとかやったみたいだね。しかし……なんだったんだろうなコイツは」
そんな疑問が口をついて出るが、ガイの答えはあっさりしていた。
「さてなぁ。こんなやつ今まで噂にもなってなかったしなぁ。こんだけ強けりゃ噂の一つや二つ聞いてもよさそうなモンだが」
そうなんだよね。正直最初はここまでとは思ってなかった。
精々、突然変異で生まれたちょっと強いウルフだろう、程度だったんだ。
でもふたを開けてみれば、というやつだ。
このレベルの魔物となると、国が兵を派遣して討伐するクラスだ。
それが生まれて今まで噂も耳にしないと言うのは……少し不思議な気はする。
「まぁ考えても始まらないか。兎に角、大きな被害が出る前に討伐できたんだから、それでよしとしよう」
「そうね。思ったより強かったけど、結局怪我人らしい怪我人も出なかったわけだし。上等じゃないかしら?」
「そうですね。大きな怪我はまだ治せないので…良かったです」
アヤメとセキレイが同意してくる。ま、確かに怪我人がないのが一番何よりだね。
「貴重な経験も出来たしな。結果的には大満足だな、俺としては!」
「うむ、私も概ね同意だな」
「そーだな!確かに!」
脳筋sはそれで満足らしい。戦闘狂共め。
まぁ兎に角仕事は終わったんだ。
今日はもう家に帰ってゆっくりのんびり休みたい気分だよ……。
こうして、その日の日常とはちょっと違う非日常は終わりを告げたわけだけど。
まさか、これが非日常が当たり前へとずれていく始まりだとは……思いもよらなかったよ、ほんとに!
続きがあるような終わりですが、終わりです。
正確には、「この短編は」終わりです。
話自体は続けようと思えば続けれるようには書いてます。
面白いかは別ですが……。
ですので、感想などで続き要望があれば、もしかしたら連載という形で書くかもしれません。
では、ここまで読んでくださってありがとうございました。