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1.思い出の花。







『魔王様。南の四天王リク、召喚に応じ参上いたしました』

『あぁ、急に呼び出してすまないな』



 ――魔王城、その中庭。

 陽の光があまり差し込まない魔族領の最たる場所で、そこだけには不思議な輝きが満ちていた。薄暗い空に反して、足元には淡い青の光を放つ花々。

 俺はその美しさに思わず見惚れ、目の当たりにするたびに息を呑んだ。

 それは魔王ガイアス様も同じようで、彼は事ある毎にここへ足を運んでいる。



『此度は、いかが致しましたか?』

『なに。少しお前に、訊きたいことがあってな』

『俺に、ですか……?』



 ガイアス様はそう言うと、跪く俺に立つよう促した。

 そして隣へ誘い、しばしの間を置いて問う。



『リク。お前はこのアメリアの花々を見て、どのように思う』――と。



 アメリアの花。それが、この輝く花の名だとすぐに分かった。

 だけど、俺が理解できないでいたのは魔王様の真意。ただ美しいと、素直な感想を述べることもできたが、彼の問いかけには別の意味合いが込められている気がしてしまった。

 その考えをガイアス様は見通していたのだろう。

 仮面越しにこちらを流し見て、どこか満足そうに笑った。



『そうだな。やはり、お前は面白い』

『え……?』

『そもそもとして、魔族に産まれながら審美眼に優れることは少ない。ただその中でも、リクは常に多角的に物事を捉えようとする。あるいは、私のことすら疑うといえば良いか』

『そ、そんな……! 魔王様を疑うなど――』



 思わぬ評価に俺が驚き、返そうとするのを彼は手で制する。

 そして、片膝をついてアメリアの花を撫でながら言った。



『いいや、それでいい。当たり前のことを疑い、常に考えることをやめるな。己が種族の長でさえも、その行いにまやかしがあると信ずれば行動に起こせ』

『……魔王、様?』

『さて、それでは次の問いだな』



 俺が頭を悩ませていると、魔王様はさらに続ける。



『このアメリアの花には、とても強い解毒作用がある。煎ずれば、あらゆる毒物への特効薬となるだろうな。だとすれば――』



 そこで一度、言葉を切って。

 彼は試すようにまた俺のことを見て、静かに口にした。



『リク……お前は、この中庭のアメリアの花々をどう扱う?』――と。



 きっと、それがガイアス様の訊きたかったこと。

 だとすれば俺は、答えなければならない。


 必ずしも、相手の望むことではなく。

 己で考えた先にあるものを。



『そう、ですね。だったら俺は――』








「あ、がは……!?」

「んにゃ~、もう食べられない~」



 目覚めると俺は宿の一室、その床に転がっていた。

 ここはゴーナンが用意してくれた部屋なのだが、彼は何を勘違いしたのか二人で一部屋しか用意しなかったのだ。しかもダブルベッド。

 そのため結果的に、渋々ながら泥酔したカノンを横に寝ていたのだが――。



「わ、脇腹が痛い……」



 恐ろしい寝相の彼女に、渾身の力で蹴りを入れられたらしい。

 骨こそ折れていないようだったが、見れば完璧な痣になっていた。俺は簡単な治癒魔法を施しながら、この聖剣女をどうしてやろうかと考える。

 いまから冷水を用意して、ぶっかけてやってもいい。

 だが、そこまで考えてから握り拳を解いた。



「……アホらし」



 あまりにも不毛。

 このような馬鹿に付き合うくらいなら、今日の予定でも考えるべきだった。そんなわけで、俺は大きく伸びをしながら――。



「そういや、アルディオ伯爵からの招待があったんだっけか」



 テーブルの上に置かれた手紙を見る。

 蝋による封をすでに解いた中身を取り出し、俺はそこに書かれている内容に改めて目を通した。どうやら街の水質問題を解決したこちらに、頼みたいことがあるらしい。

 断る理由もないので、ひとまずは顔を出すつもりだが……。



「そういえばあの時、魔王様――」



 ふと、俺は夢に見た記憶を反芻するのだった。



「いったい、何を伝えたかったんだろう」



 


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「平凡少年、田中くん。~暗殺者、やってます~」こちらも、よろしくお願い致します。
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