第181話 おにぎりと親と赤ちゃん
今は一応赤ちゃんだからもうしばらくは気を遣って行ったほうが良いよね?と、私達4人は目配せをし合いながら、謎のうなずきと共に、お互いの意識を共有し、今度は全力疾走で街に向かって走り始めた。
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魔クマに乗ってる最中、父と母は相変わらず顔を引きつらせていたが、少しずつ慣れてきたのか、道中は緊張しつつも景色を楽しんでいるようだった。
赤ちゃんはというと、揺れるたびに「もっと!」「はしる!」と声をあげて大はしゃぎ。侍女様と護衛騎士はその姿に目を細め、幸せそうに見守っていた。
街に着くと、久しぶりの人混みに少し圧倒された。活気あふれる市場の通り、良い匂いに、人々の喧騒。
父と母にとっては、初めての場所、初めての街。
二人は立ち止まっては屋台を興味深そうに眺め、行き交う人々の服装や持ち物をじっと観察している。賢い両親だからきっとこの地になじもうと色々と見る物があるのだろう。
私たちは冒険者という体だから今まで服装は気にしたことがあまりなかったけど、そろそろこの国の普段着などを取り入れても良いのかもしれない、と少し考え始めた。
母は屋台を重点的に見ているようで、なじみのない食材などを目を輝かせながら見ている。そして何かを話してるのだけど、言葉が通じないようで少し眉が寄っている。お金もないだろうしここは私が手助けをして、と思っていたら。スッと兄が母に寄り添って通訳のお手伝いをしているようだ。
とても嬉しそうにお店の人とやり取りしている母を見て、私の心まで温かくなる。今まで住み慣れていた故郷から私達兄妹の為に移住する決意をしてくれたんだから、思いっきり楽しんでほしい。
母は兄に
「これは何のお店なの?」
と聞きながら楽しそうにしている。兄は笑顔で一つ一つ説明していった。
父はそんな母と兄を微笑ましそうな目で見つつ私の肩をがっちりホールドして逃がさない様に、どこにも行かない様に見張っているかのように離さない。気持ちは分からないでもない、突然死んだ娘が生きていればそうなってもおかしくはないはず?でもだんだん窮屈に感じる・・・今日だけだよ?
父と母は道端で行っている大道芸を見たり、屋台でいろいろと買い物をしたりしている。
二人にはもちろん、収納巾着を渡してはあるのと、お金をたっぷり渡してあるから、何でも買えるはずだ。
最初はお金なんてもらえないと言っていた父と母だけど、私がせめてもの親孝行だと言ったら渋々受け取ってくれた。それぐらいしか今できることは思いつかないし。
ただ両親は、私たちが逃亡中だと言うことで絶対お金がないだろうと思い込んでたことも、後になって発覚したんだけどね。まぁ普通は逃亡してたらね?とある国に行って、高く売りさばいているなんて思わないよね普通はね?
両親がこんなに目を輝かせているのを見たのは久しぶりで、胸が温かくなった。生きててよかった、逃げ出して良かったと、心の底から思った。
母はパン屋の前に立ち止まり、焼き立ての香りに思わずため息をもらす。
「ああ、こんなにいい匂い・・・我慢できない!」
と言いながら、焼きたてのパンを買ってその場でかじると、子供のように目を輝かせていた。父も負けじと肉串を買い、豪快にかぶりついて
「うまい!」
と声をあげる。その姿を見て、通りの人たちが思わず笑顔になる。街の空気そのものを楽しむ二人の様子は、まるで若い恋人のようだった。
新しい世界を知った!
という表情をしている両親を見て、私の心の奥にあった罪悪感がだんだんと薄れていき、それ以上に安心感が湧き上がった。これからは両親と楽しみながら過ごせるのだと思うと、肩の荷が少し軽くなった気がした。
侍女様と護衛騎士と赤ちゃんの3人も、それぞれ市場を楽しんでいるようで、行く先々で赤ちゃんを褒められて嬉しそうにしている。
事前に赤ちゃんにはしゃべってはダメだよ?と言ってみたものの、どこまで守れるかは正直不安なところ。でもその見た目でしゃべる赤ちゃんは居ないから、最悪離れ離れに暮らすことになるかもしれないよ?とほんの少し怖いことを言っておいた。
そして、最後にお目当てのおにぎり屋さんだ!!!!!
今日は久しぶりにやってきたドリーさんのお店!お兄ちゃんの花嫁候補!それは両親に内緒にしておいて、ドリーさんの元にみんなでやってきた。
「こんにちはドリーさん!」
「ローラさんお久しぶりです!今日はまた大人数ですね?」
両親も一緒にいるからね、でももし両親だと言ってしまったら緊張してしまうだろうから、内緒にしとこうかな?そんなことを考えていたら。
「俺たちの両親なんだ!ようやく再会できたんだよ!」
と、馬鹿兄が何も考えずに発言してしまった。笑顔のままフリーズしているドリーさん。わかるよ、普通の反応はそうだよね。
でもフリーズするということは?なるほどなるほど。
このまま二人には一緒になってもらいたい!
お店のおにぎりをすべて買い取ろうとしたら、断られた・・・残念。予約をしてくれたらその分作って取り置きしておいてくれると言うので、次いつ来れるか分からないからなぁと思ってたら、兄が何やら3日後にくると約束しているので、兄に任せることにした。
両親は初めて見るおにぎりと言う物をまじまじと見ている。真っ白のつぶつぶの美しいおにぎりのフォルムを見て、これが美味しいのか?と不思議な顔をしている。
そうだよね、種類があるようで見た目ほとんど変わらないもんね?見た目は違うけど、味は塩と砂糖と卵とお魚と焼きおにぎりの5種類だと伝えた。
試しに何か1個買って、父と母で半分こしてみてはどうか?と提案してみたら、しばらく思案した後に、私に何がお勧めかと聞いてきたので、私もどれがいいのか迷ってしまったけど、どれも美味しいし、一番オーソドックスな塩を一つお勧めしてみた。
私は塩をお勧めしたけど、卵を頂く。最高に美味しい!こんな美味しい物がまた食べられるようになるなんて!!!そんな幸せな事ある!?最高だよ!と何回食べても新鮮な気持ちで思える私は幸せなのだろう。
侍女様と護衛騎士も食べている。そして赤ちゃんも食べたそうにしていたから、侍女様が何となくあげてしまったようだ。
それは早くない!?ダメじゃない!?と思ったけど何もかもが規格外の赤ちゃんだから平気かな?って思っていたら事件は起こった。
赤ちゃんがぱっと笑顔になり、大きな声で言ったのだ。
「おいしい!」
その場にいたドリーさんが固まって、赤ちゃんのことを凝視している。
幸いなことに歩いている人達は気づいていないようだ。さらに赤ちゃんは
「おいしい!もっと食べたい!サラと同じ卵食べたい!」
と言っている。私の今の名前はローラだよ・・・よ心の中でつっこみながら
「約束は?しゃべっちゃダメって・・・言ったよね?」
「だって!私もずーっと食べたかったんだもん!」
だっても、ずーっとも、無いって・・・赤ちゃん・・・無いって・・・思わず天を見上げてしまった。
ドリーさんは固まりから解けてはいるようだけど
「え、しゃべった!?今の赤ちゃんだよね!?え?赤ちゃんの名前は?あれ?生まれるの早くない?」
ってとても正常な一人大混乱を起こしているし。この生まれ変わりには人間界のルールって奴を徹底的に叩き込まないとだめだなと改めて心の中で誓った。
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