第179話 侍女様と子
母も私の顔を見て泣いている
何も言わず3人で抱きしめ合いながら泣いた
その横で兄はふにゃふにゃの赤ちゃんを抱っこしながら羨ましそうにこちらを見ていた
父と母にこれまでの経緯を話た
王宮に監禁されていたこと
先ほど出産した侍女様と護衛騎士が逃げるのを黙認してくれたこと
父と母を連れてきてくれた人は、私のストーカーみたいな人だということ
逃げ出した後、家族の安否が心配で隠れてこっそり様子を見に行ったら兄に見つかってしまったということ
王族の手から逃れるために国を出てなるべく遠くに来たこと
それらのことを伝えた
前世の記憶や女神さまの愛し子のことは今はまだ話さないでおく。必要になったら話すし、今はまだ必要ないかなと思う。もし言わなきゃいけない状況になったら言うつもり。これ以上心配はかけたくない。
しばらく母に抱きしめられてながら沢山話した。私も母に会えて嬉しいし自分が生きてると言うことを伝えられてとても嬉しかった。
「お母さんこの土地で一緒に住まない?それともヴェルト国に戻りたい?」
「いいえ、お母さんはお父さんが帰りたいと言ってもこの地に残るは、ここには私の可愛い子供二人もいるんだもの、あなたたちが居る場所が私の居場所よ」
「俺もここにいるぞ、母さんと離れるなんて考えられないしな」
父は変らず母親が大好きでよかったなと思うと同時に、砂糖たっぷりの紅茶を飲んだ気分になる、変わらず激甘だ。
「街で住むのもいいけど、この土地に住んでもいいんだよ、むしろこの土地に住んでくれた方が安全面で安心できるんだけど」
「ここだけが緑で周りが砂漠で土地もそこまで多くなさそうだし・・・」
「そこは大丈夫緑の場所を増やせばいいから!」
「どうやって増やすの?こんなに木が大きくなるのには結構時間がかかると思うよ?」
どうやってごまかそうかな・・・本当のことを言うかいきなり、それとも適当に嘘をついちゃうか・・・父母には嘘をつきたくないし隠れスキルのことを言ってしまうか?
やっぱり適当にごまかそう。もし親に何かあった時に何も知らない方がいい。もしもが無ければいいけど、可能性が0パーセントではない限りは知らない方がいいことが沢山ある。私の隠れスキルのことは一生黙っておこうと決めた。
「この土地はとても不思議でね?周りはどこも砂漠のように荒廃してるのにここだけ緑の地で潤ってるでしょ?人の住む数が増えるとなぜか土地も広がるんだよ、だから大丈夫だよ2日後ぐらいには緑の土地が増えてるんじゃないかなぁ?」
誰がそんなことを信じるんだ?と言うぐらいにスルスルと口から嘘が出てくる・・・しかもとても信じられるような内容ではない・・・それに嘘をついてる相手は親だ・・・騙されてくれないかな・・・きっと私の嘘なんてばれてると思う、でも騙されて欲しい。
後ろの方で兄がそわそわしている。ダメだ兄がウソつけないタイプだ!これはバレる!と思ったけど母が何かを察したかのような眼差しで私を見ながら
「わかった、ここに住むね」
と言ってくれた。形はどうであれ一応まとまったと思ってもいいかな・・・?何か起こった時にまた考えればいいか。
「あとねここは私とお兄ちゃんと侍女様と護衛騎士が許した人しか入れないような不思議な土地になってるの、もし街に行って仲の良い人が出来たとしても、どこに住んでるってことは言わないで欲しい、お父さんとお母さんには危険な目に合ってほしくないの」
これも余分な事かと思ったけど一応言っておく。親は馬鹿では無いから一言いえば解ってくれるだろうという楽観的な考えだけどね。
父親も母親もうなずいてくれている。何も聞かないでくれてありがとう。大好きだよと心の中で呟いておく。
少し疲れたからひと眠りと言いたいところだけど、新し命が可愛くて寝るどころじゃない。ずーっと見てられるけど、ふにゃふにゃ泣きそうになるとさっと母が赤ちゃんを抱っこしてあやしてしまう。私だって抱っこしたいのに・・・・・
護衛騎士は侍女様の側にいて赤ちゃんを抱っこしている母親を羨ましそうに見ている。護衛騎士の手にはしっかりと侍女様の手が握られていてまだ身動きが取れないみたい。
赤ちゃんの両親ですらちゃんとまだ赤ちゃんを抱っこしていないのに私が抱っこするわけにもいかないか?と考えを改めて母親が赤ちゃんをあやしたりしているのを見ている。
お昼を過ぎたころ侍女様が目を覚ました。赤ちゃんが寝ている間はずーっと侍女様の横で寝ていたから目を覚ました侍女様はすぐさま赤ちゃんを見てとても嬉しそうな顔をしている。
その笑顔は今まで見た中で一番美しい笑顔だった。さっそく母親に抱っこの仕方やコツなどを教わって愛おし気に赤ちゃんを抱っこしている。抱き上げられた赤ちゃんも目を覚ましお腹が空いていたのだろうふにゃふにゃと泣き始めた。
母が侍女様にお腹が空いてるだろうからお乳をあげましょうと言う。初めて授乳タイムだ。
侍女様は少し緊張した面持ちまったけど、赤ちゃんから目を離すことは無い。
母がそっと布を用意し、侍女様の胸元を隠すように整える。
父と兄はさりげなくその様子を見ない様にどこかに行ってしまった。胸元を布で隠してるとは言え、何となく遠慮したのだろう。
母が赤ちゃんを侍女様の胸元に連れて行く。若干不安そうな顔をしている侍女様。初めてのことだし、緊張もするだろう。
「大丈夫よ。赤ちゃんはちゃんと分かっているから。」
母が優しく声をかける。その言葉に侍女様の表情が少し和らいだ。赤ちゃんは小さな声で泣いていたが、口元が見つかると自然に吸いつき、泣き声が止まった。
その瞬間の侍女様の顔は一生忘れないだろう。幸福に満ち足りた顔をしている、初めて見た顔だった。
侍女様自ら胸元の布を少しずらし、護衛騎士にも見れるようにしてあげている。
護衛騎士もとても幸福そうな顔になりつつも、やや羨ましそうな顔をしているのは観なかったことにする。
護衛騎士が侍女様の肩にそっと手を添えて寄り添っている姿は、教会に飾られているステンドグラスのような神々しさを感じて私は思わず目を細めてしまう。とても美しい光景だった。
私は胸がいっぱいになり、この小さな命の重みを改めて感じる。
「おめでとう……本当に良かったね」
私が声をかけると、侍女様は笑顔でうなずき、赤ちゃんを抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。その様子はまるで、世界で一番大切な宝物を守るよう。
授乳の間、静かで温かい空気に包まれていた。父と兄は外で何やら作業をしているのか、木を切る音や話し声がかすかに聞こえる。
今この緑の地はとても穏やかで平和な世界になっている。
何からか解らないけど、絶対に守り抜くぞと言う強い心が芽生えてきた。
しばらくして、赤ちゃんは満足したのか、ふわりと小さなあくびをして侍女様の胸で眠り始めた。侍女様はその寝顔をじっと見つめ、女神さまが居たらきっと今の侍女様のような顔をしているのだろうなっていう顔をしている。
眠ってしまった赤ちゃんを母親が引き取る。もっと抱っこしていたそうだった侍女様の顔がほんの少し残念そうになるが
「今は一杯寝て体力回復して頂戴、その後嫌と言うほどお世話しなきゃいけないのよ?」
と、ちらっと私の方を見ながら侍女様に一言声をかける。
侍女様が私の方を見て、一瞬何かを考えたのか、うなずいて寝ることにしたらしい。解せぬ。
母は護衛騎士を引き連れて、赤ちゃんの抱っこの仕方を教えようとしている。怖いといってなかなか抱っこしなさそうな護衛騎士のお尻を蹴り飛ばしている母を見て、母ってそんなタイプだったっけ?って少し思ってしまった。
母の厳しい指導が聞こえてくるけど、今後の為にも頑張ってほしいなと思って私は侍女様の側で少しのんびりすることにした。
長い間開いてしまいました
のんびり再会いたします
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