表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まぼろしのひつじ  作者: うしさん@似非南国
補遺:新しい月の下で。
91/98

補遺1.大団円のそのあとで

今回より三話ほど、後日談を。まずは61話の直後から。

「いやあ、ちょっと相性問題で冷や汗かいたけど、結果としてはパーフェクトだわ!素晴らしい!」


 靄と本体を撤収して、地下都市の跡地と姫さんの本体が居た場所に余った海水を詰め込んで、本体の仮構築のために引かせた海水が勢いで溢れ出さないよう、ゆっくり戻せるよう処理したシャキヤさんが戻ってきた。


「天変地異になるべき揺り戻しが、侵入者駆除のついでで相手方に擦り付けできた分、殆どなかったですからね、上手い事やったものです」

 ファズが頷きながら答えている。なるほど、相手方の世界が天変地異か。当該世界の一般民には悪いけど、悪質な侵略者側に向ける憐憫の在庫はないな。


(ふぅ、幾歳か振りによう喰ろうた。大した質でもない端切れどもとはいえ、それなりに腹はくちるのう)

 吹き散らしていたと思ったら、それなりに侵入者を食ってもいたらしいマーナガルムも、満足気だ。

 今は舞台の上をまるごと埋める大きさになって、俺とファズと妹をくるんで丸くなっている。

 現実世界でもこれができるとは!ああ、至福の毛皮に包まれる幸福。


「おおおおお、気持ちいーい、それにあったかーい。フェンリルだとどっちかというとさらさらだけど、この子ほんとにふっかふかねえ」

 妹が初の感触に満足気だ。ご機嫌でかわいいねえ。


 姫さんはとみれば、舞台からはみ出した、マーナガルムの尻尾に無言で埋まって、僅かに手でもふもふしている。

 御両親は、あらあらまあまあ、などと言いながら、小さな映写機を取り出してそれを撮影している。


「これであとのあたしの仕事は、祖霊ちゃんたちの解放だけかなー。姫ちゃん、進捗早まったから、来週くらいには破片纏めて返せるわよ」

「えー、もう戻るのか、量的にはどんなもん?」

 もふっと埋まったまま、声だけ返ってくる。どんだけ気に入ったんだ?ここまで物理的にぐだる姫さん、というか、姫さんが生きものに触ってるところ、初めて見た。

 ファズも信じられない、という顔で凝視してるから、多分相当珍しいことだ。恐るべし、マーナガルムの尻尾。


「うーん、どうだろう、あたしは君が龍化したとこ、実は見たことないんだよね、吹き飛んだ時にはちょうど死んでたからねえ。

 まあでも推定だけど、吹き飛んだ分の半分にもならないような気はしてるわ」

 一応前に掠め取らせた分の紺青とかも拾ってはあるけどー、と、シャキヤさん。


「あ、紺青で思い出した。クタラの御姫ちゃんどうするか決めなきゃ」

 へ?クタラの?ってあの赤い目のおねーさん?


「どうとは?前にあの子食われたつってなかったっけ?」

「それがさー、あの子とあの一族のうちの二人くらい、生身まるっと石化状態で食われてて、仮死状態判定のままだから、生きて戻せちゃうのよ。どういう条件か判らないけど、他にも二人くらいそんな感じ?まあ他の二人は古すぎて自我が怪しいから再生までは無理そうだけど」


(条件は知らぬが、確かに幾人か死亡判定になっておらぬなあ。我が分体で保護中になっておる)

 マーナガルムも重々しく頷く。残滓は欠片も残さずリソース化して、新しい月の外殻素材にしてしまったけど、それ以外の、食われてしまった存在は、まとめてマーナガルムが保管中だ。順次分別して、壊れちゃって再生できないものは、ある程度浄化してから輪廻システムに戻すそうだ。


 今回新しく創った月は、放つ光に聖性を持たせて、そのシステムへの負荷を下げる効果も付加してある。これはメルフィさんの提案だ。

 太陽よりずっと近い場所で、空から遍く地を照らす月なら、そういった力を付加しやすいし、運用しやすいだろうと言われて、皆でなるほどなあ、と感心した。前の月は防衛機能と潮汐力の調整しか想定してなかったから、考えてもみなかったそうだ。

 この世界の輪廻システムは世界を維持するための根幹だから、大事に扱わないとね。


「まあ最終的には本人に聞くしかないんじゃないの?前に遭遇したときは、すごくおっとりした人に感じたから、そのまま世間に放り出すのは無理じゃないかなって気がするし」

 以前、魂だけの状態で会ったけど、ほんわかふわんとした雰囲気で、ゆっくり喋る、本当に深窓の御姫様、って感じの人だったからなあ。


 《それだが、もし彼女を地上に還すなら、クレクが付いていくと言っている。血筋の者だから保護したいと》

 俺の肩に止まった紫紺色の小鳥から、ラクレさんの声。


「そうねえ、それはアリだけど。君たち輪廻に戻ってもいいのよ?むしろ全員残られるのちょっと困るんだけど、君たち経時リソース結構増大してるし」


 《居残り希望は私とエスロとクレクくらい。あとは今の長老の寿命が来たら解散でいいと》

 流石に、もう我らの声を聴く者は産まれそうにないし、東方なら祖霊様なしでもやっていけるだろう、といって、ラクレさんは沈黙した。


「いやあ、居残りつってもエスロちゃんは無理でしょ。君、新入りだから世界にその状態で存在するための経時リソース足りないよ?」

 シャキヤさんの言葉に、その肩に乗っていたエスロさんの人形ががっくり。



 結局その場で御姫様を呼び出して再生して、話を聞くことになった。こんな場所だけど、いいの?深窓の姫君、びっくりしちゃわない?



「……まあ、ふしぎなところですのね。かみさまがたが、たくさん。はじめまして、クタラのミアストレーシャともうします」

 動じることなく、さらりとゆったりと。流石、前世もお姫様な、年季の入った姫君、格が違った。

 俺と目が合うと、にっこり微笑む。ああ、覚えられてる。あの時は俺、確かファズに偽装させられてた幼児姿だったはずだけど。


「ふしぎなことばかりですのね。いぜんおあいしたときは、ひとのこどもでありましたのに」

 前に会った時に欠けていた耳も、腕も、きれいなものだ。そういえば、時が至れば戻るって本人も言っていたな。


「そんなことも、たまにはあるさ」

「そうそうあって貰っちゃ困りますー!」

 返事をしたら、被せるようにシャキヤさんが叫んだ。確かにそうかも。


「まあ創世でもないのに、神格がいきなりふたりも増えるとか、そうないですよねえ」

 ファズがくすくす笑いながら、俺の肩を引き寄せる。


「あんたも補助役とはいえ神格復活したから実質三柱よ!なんでリソース足りたのかわかんないレベル!」

「そりゃあたしとお兄ちゃんの分は、あたしの自前だもーん。教授に余分な負荷かけるだなんてそんなそんな」

 妹がそう言いながら、俺の腹あたりにしがみつく。流石にちょっと暑いけど、妹のためだしがまんがまん。


 人間辞めたといいつつ、そんなところは、以前とさほど変わらない。慣れたら不快感のカットとかもできるとは聞いているけど、今の熱は、心地よい、皆と一緒にいるって実感だから、不快なんかじゃない。


 いろいろ質疑応答の結果、姫君は地上に戻ることになった。クレクさんの同行も許可された。

 それとは別に、一族の人が二人復活できて、これも姫君のお供として、一緒に生活することになったそうだ。


 ただ、彼女の白髪紅眼はとても目立つ。一計を案じたクレクさんが、自分と繋がりを追加して、彼女の彩を載せて偽装することにしたそうだ。

 一瞬で、黒髪藍目に変わる姫君。なるほど、顔かたちは変わらないのに、だいぶ印象が違う。


「おー、その色だとクレクさんともやっぱ似てるねえ」

 クレクさんの顔立ちも知ってる妹が感心している。


「そうですか。これはなかなか新鮮ですね。あら、言葉の発音もなんだかすっきりしたような」

 鏡を見ていたミアストレーシャ姫が、首を傾げる。確かに、急に流暢になった気がする。


 《あのままでは、口調で出自などばれるであろう故な、ちと補正できないかと試してみたのだが、なかなか良いようだ。当面はこれでゆこうぞ》

 人の頃には聞き取れなかった、祖霊様の言葉も、今は普通に聞こえる。ファズは今も聞こえないそうなので、これは個人差ってやつだろうか。いや人じゃないけどさ、今の俺たち。


 姫君は当面クタラには戻らないけれど、西側に近い方に住みたいそうなので、安全になった西黒森暮らしを希望して、そのまま地上に残っていたメルフィさんが暫く生活を手伝うことになった。

 そこから先は、一族のふたりと相談して決めるそうだ。姫君、意外としっかり者だった。




 全部なにもかも、だいたい片付いて、新しい日常。

 新しい月は、持ってきた都市の機能全部を、だいたい数十年動かせる程度のエネルギーが毎日供給できるんだけど、そこまで広い範囲は必要ないので、普段は俺たちが日常で使う部分と、万一の非常時に使う機能だけが生きている。余りという名の大半の分はリソースの活性化に使ったり、非常用のエネルギー源としてある程度蓄積している。


 姫さんの御両親は暫く月から地上を眺めて暮らして、飽きたらまた眠るそうだ。


 もうちょい落ち着いたら、ハルムレクに会いに行かなくちゃいけないな、とは思うんだけど、どうやればいいんだっけ。

 人間辞めたてだから、まだ分体とかは作れないんだよなあ、俺。


「ああ、月夜でよければ、僕が送迎しますから、そこは気にしなくていいですよ。ゆっくりしていらっしゃい。合図をくれたら迎えにゆきますから」

 タスク待ちの暇つぶしに、マーナガルムに背を預けて、久しぶりに編み物なんかしている俺の横で、都市にあった古い本を読んでいたファズが、にっこり笑う。

 おいこらいきなり心を読むんじゃない。確かに月の創造以来、繋がりが以前よりずっと強くなってはいるけど。


「ふふ、すみません、つい。でもまあ、ある程度人っぽいうちに会っておく方がいいでしょうね。ハル君に畏敬されたくはないでしょう?」

「あー、昔姫さんに会ってた時のあれか。確かに、それは嫌かも」

 きちんと、声に出して答える。癖をつけておかないと、喋るのを忘れそうだ。


「それにしても、ハル君も引っ張りこもう、とかは言わないんですね」

 意外だ、というようにファズが続ける。いやまってそれは流石に無理だろう?

「できなくはないんですよ。ナガルが持ってきたリソース、天変地異の発生が抑えられたおかげで、結構余っていますから」

 いっぺんに世界にバラ撒くわけにもいきませんしね、と、小首をかしげて見せる。何の誘惑だそれは。あと、言ってる傍から心を読むなと。

 いや、これ、俺が自分で隠蔽を覚えなきゃだめなやつだ。妹が得意そうだから頼もう。ファズ?得意には決まってるだろうけど、絶対はぐらかされる光景しか見えない。


「いや、ハルムの性格的に、絶対それは無理。あいつがそういう他力で持ち上げられることを選択するなんて、ありえない」

 ……自力で上がってこようとする可能性のほうは、否定しきれないけど。


「それよりあいつ、管理すべき場所がなくなったぶん、どうするんだろう。国境管理はまだあるにしても」

「それは個人ではなく、国が決めることですからねえ。まあ管理は継続で、今度は湖の管理が追加されるのでは?あれ、海と実は直結していますし、あの国は絶対製塩やりたいでしょうし」

 どういうことかと思ったら、姫さんの本体が眠っていた北方の海のほうから、地下都市跡に、新しく地下水脈を創って海水を流しいれているんだそうだ。

 流石創世神、やることのスケールがでかい。

 それも潤沢にリソースがあってこそ、なんだそうだけど。



 まあそれは俺には関係のない事だし、取り合えず、ハルムに会う予定を立てなきゃな。

少年、相変わらずマイペースである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ