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まぼろしのひつじ  作者: うしさん@似非南国
六章 創月
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第59話

お久しぶりの人たち。

 肝心の管理者案件だけがどうにも決まらないまま、気が付いたらハルムレクが帰ってくる日になっていた。


 新しい月の核に地下都市を使うほうはさっくり決まったんだけど。

 姫さん曰く、どうせ両親は一年の九割寝てるんだから、どこで寝てても多分一緒よー、あの人たちお互いが居ればどこでも満足だし。だそうだ。


 当然ながら、年の大半寝てる人に管理者なんて無理ですよねー。とシャキヤさんはまたもアテが外れ。


「なんでそう行き当たりばったりなのよ。案自体が悪いとは思わないけど、言い出しっぺに責任取らせちゃえば?誰か知らないけど」

 と、姫さんに呆れられた。


「言い出しっぺ、ですか……」

 口ごもるファズ、眼を逸らすシャキヤさん。妹はきょとんとしている。そうだ、本体に戻る前の話だから知らないんだっけ。


「……俺でーす」

 やけになって、挙手しながら自白したら、虚を突かれた顔の姫さん。


「うわ宇宙猫」

「っ。……このタイミングで笑わそうとしないでくれるかなあ?」

 呟く妹、吹きそうになったのか、口元を押さえながら文句を言うシャキヤさん。

 う、うちゅうねこ?なんだそれは。


「……全然関係ないのですけど、そういえば猫って見かけませんね。もういないんです?」

 ファズは平常進行かと思えば、ふと思い出した、というように誰にともなくそんなことを訊ねる。


 ねこ、ってなんだ?口ぶりからして、昔は一般的だった生き物のような感じだけど。


「そういえばいないわね?まあ、鼠も見ないから気にしてなかったけど」

 妹はねこを知っている様子。あれ、この面子だとひょっとしなくても、知らないの俺だけでは。


「あれ?猫はいるはずなんだけど。見かけない?全然?」

 シャキヤさんが首を傾げる。


「猫と呼べない程度にでかいのなら北方にいるけど、言われてみれば、それ以外見ないわね……」

 姫さんもそんなことを言ってる。


「それ普通虎とか言わない?……あ、いかん、今度はおにいちゃんが宇宙猫だ」

 だからそのねこってなに!?

 虎は文字を覚える時に読んだこっちの教科書に載ってたから見た目は知ってるけど。でっかくて黄色と黒のしましまの肉食の獣、だったはず。


 見かねたファズが簡単な絵を描いて教えてくれたけど、なんかあまり大きくない、虎の子をちっちゃくしたくらいの可愛い生き物らしい。

 西でも東でも見たことないし、確か幻理国の教科書にも載ってなかった気がするぞ?


「あれえ、教科書にもない?じゃあマジで、少なくとも大陸東側にはいないんだ、猫……」

 どうやらシャキヤさんは猫というのが存在してるのは確信していたらしい。不思議そうな顔になったままだ。



 だいたいこんな感じで話がすぐ脱線するのもあって、管理者問題はまるで解決のめどが立たない。

 反逆勢一掃したせいで人手不足ならぬ神様手不足とか、笑えねえ。




 結局何も解決しないまま、ハルムレクが帰ってきたんだけど。


「……ケスレル!?動けるようになったのか!!!」

 俺の顔を見るなりびっくりより先に満面の笑みのハルムレクが眩しい。なんか、ここ数日の徒労感が癒されるというか。


「うん、なんとかね。おかえり、ハルム……ってあれ?」

 挨拶をしてから気が付いたんだけど、ハルムには連れがいた。


「なんだ、動けないと聞いていたが、随分元気そうではないか……む?」

 随分久し振りに顔を見る相談役。相変わらずひょろりとして、ちょっと無精ひげが点々と見える、見覚えしかない姿。

 しいて言えば、俺がハルムの名を呼んでも妙な反応をしなくなっているな。

 何やら首を傾げているけど、多分俺の見た目が、三年も経った割にまるで変わってないからだろう。

 いやまあ、正直、中身も変わっちゃいないんだけどさ。なにせ三年、ほぼ寝てただけだもん。


「……お久しぶりです。ええと、以前はごめんなさいね」

 こちらも全く見た感じの変わっていない『見るもの』、ことメルフィさん。ちょっと何かに驚いたような顔。

 まあ二人のほうはとっくに大人だから、三年くらいじゃそこまで変わらないよね。相談役も相変わらず髭を伸ばすつもりはなさそうだし。


「お久しぶりです。最近やっと動けるようになったとこだよ。妹に背が追い付かれそう」

 取り合えず愛想笑いで答えておく。まあ別に細かいことを聞かれることもないだろう。いや相談役は無理か……?

 ここまで連れてくる決断をしたハルムが、ある程度説明してくれてることを祈ろう、うん。



 立ち話もなんだから、と家の中、応接室へ。

 彼等と面識がないファズとシャキヤさん、それにマーナガルムは下に行ってもらってる。

 特にファズ、表情はともかく、基本の顔立ちがフェイさんと同一だから、めんどくさいことになる予感しかしないよねって。


「ところで、相談役たちはどうしてこっちに?集落の引っ越しは聞いてるけど、何かあったの?」

 まあこの二人なら直球で質問でいいだろう、と、応接室で着席も早々に話を始める。ハルムはお茶を入れにいっている。


「……いや、私はただの見舞いと付き添いだが?どうやら見舞いのほうは快気祝いになりそうだな?」

 思ってもみなかった返事。お見舞い?俺に?


「移転先の生活諸々がようやく落ち着きましたので、一度正式に連絡を、と長老様が。ちょっと、個人的に気になることもあったのですが……」

『見るもの』のほう(仕事の顔してるし、役職で呼ぶことにする。相談役は名前知らないはずだしね)は、なにやら思案顔だ。どうやら、俺の事以外で何か気になることがあるらしい?


 そこに、たしたしと小さな爪が床を叩く足音。あれ、マーナガルム、なんでこっちに?下にいたんじゃ。


「おや、犬……ではないな、狼の仔?実物は初めて見るが、お主が飼い始めたのかね?」

 相談役が興味深そうに覗き込むのには見向きもせず、マーナガルムは『見るもの』のところまでいって、ふんふんと匂いを確認している。


「お客さんだから、だめだよ」

 ひょい、と抱き上げると、じたじたと暴れる。抵抗するとは珍しいな。

 言葉を話さないのは、相談役がいるからか?

 微かに肯定の意思だけ返ってきたので、そこは合っているらしい。


「おにーちゃん、わんここっちに……わあやっぱり来てた!あっ相談役さん、みるひとさんお久しぶりですっ!」

 おいこら妹よ、未だに『見るもの』の役職名ちゃんと覚えてないのか!かわいいけど!自重!

 昔は舌ったらずなせいだと思ってたけど、これ完全に間違えて覚えてる奴だ!


 ぷふっと『見るもの』が小さく吹き出す。相談役は呆れ顔。


「集落に居らぬからまだいいが、役職名はきちんと覚えるべきだぞ?流石に舌の回らぬ歳でもなかろう」

 相談役に窘められて、あちゃ、という顔で口元を押さえる妹。いやだからかわいいんだけど反省して?

 洗濯兄ちゃん、の件もそうだけど、妹は一度相手の呼び名を決めてしまうと、ついそのまま使ってしまう傾向があるなあ。兄としては要修正な気がする。


「まあ、私は構わないのですけど……そうね、他の方の前ではやめておきましょうね?」

 年長者らしく優しく窘める『見るもの』。


「はぁい、ごめんなさい」

 しおらしく謝ってるけど、何か、なんだろう。ひっかかりを感じるのはなんだ?

 いやまあ、多分大したことじゃないんだけど。


「それにしても狼の仔ですか、随分と愛らし……」

 子狼に改めて視線を向けた『見るもの』が、言葉の途中で固まる。


「む?いかがなされた?」

 相談役が首を傾げて、『見るもの』と子狼を見比べる。


「えっ、あの、あの……そちらもしや、子狼、ではなく、天狼様、では……」

 なんだか、見るからにものすごく動揺している『見るもの』。頭に被った肩掛けの布が不自然な動き。あの長い耳、動くのか……

 いやそうじゃない、そこじゃなくて、なんで天狼族を知ってるんだ、彼女。


「む?天狼様、とは?」

 こちらはこちらで、初耳の単語に反応する相談役。なんというか、相変わらずぶれないなあ。

 妹のほうを見ると、どうしようか、という視線と目が合った。どうしような、こうなると相談役は下手にあしらえないぞ?


「てんろーさま?うちのわんこですが?」

 おいこら、ごまかす気か妹よ。流石に強引にもほどがあるだろう。


 流石に無理筋だろう、と口を挟もうとしたところで、紫がかった、見覚えのある靄。

 すっと部屋を覆い、音もなく消える。

 あとには、すやぁ、と眠る相談役。


「おお、流石は砂姫屋教授、ナイス」

「その呼び方は恥ずかしいからやめてー!あたしもちょっと話に混ざりたかったから、丁度いいんで寝かせちゃった」

 入り口からシャキヤさんが顔を出している。ハルムが持ってくる予定だったお茶を手にしているようだけど。


「ハルムは?」

「わんこの事は大丈夫だけど、そっちのエルフちゃんの事は知らなくてもよさげだろ、って姫ちゃんが引っ張り出してる。厩舎かな。というわけでわんこ、もう喋っていいわよ」


(だから我は犬ではないと!)

 鼻先に皺寄せてマーナガルムが唸るが、子狼の姿なので、残念ながらかわいいだけだ。

 取り合えず飼い犬?のふりはさせなくてよくなったし、床に降ろしてやる。


 あっけにとられた顔のまま固まってる『見るもの』に、改めてマーナガルムが近づく。

(……そなたは……エルフィス族のものであったか?生憎今の我は記憶がいくらか欠けておって、確とは言えぬのだが)


「あっはい、そうです、お久しぶりでございます、天狼様。貴方に救われた、最後のエルフィスですわ。それにしても、なんてお小さい姿に……」

 我にかえって、席を立つと、マーナガルムの前に膝をつく『見るもの』。

 へえ、彼女の種族はエルフィスというのか。そして、前にも匂わされた記憶はあるけど、最後のひとり。


(どこぞの結界を突き破った挙句、力を失うてこの様よ。そなたとも、その時にはぐれたのではあろうが、無事であったようで何よりだ)


 あれ、知り合いではあるようだけど、お互いの名前は知らない感じなのか?

 と思ったら、マーナガルムから、声に出さずに、種族的に主と己以外の他人の名には興味がない、と返事が来た。

 そもそも、個人じゃなくて種族の用事での訪問だったから、個別の名は聞いても居ない、そうだ。なるほどな?



 しかし、以前、天狼は世界を渡ることもある、と聞いた記憶はあるけど、そんな風に、用事があるから、とほいほい世界を渡り歩いてるとは思わなかったよね……


※髭を伸ばす=集落でも東方諸国でも結婚すること。男性は既婚者だけ髭を伸ばします。スタイルは様々。


あと、ねこはいます。

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