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まぼろしのひつじ  作者: うしさん@似非南国
六章 創月
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第55話

新章開幕。予定ではこれが本編最終章?

 なんでもできるって具体的にはどのくらいの話なんだろう?俺にはもう想像がつかない感じ。


「まあ君は普通の人間の子供よりちょっとものを知ってる、程度だもんねえ。

 というか、あたしこれでもそれなりにえらいカミサマだから、今このリソースの山使ってできることを全部把握してるのは、流石にあたしだけだと思うのよね」

【それはそうでしょうね。……あれ、何でもってことは、姫の本体をどうにか治療したりもできるんです?】


 ファズが思い出した、というように口にした言葉に、シャキヤさんがうっ、と詰まる。あれ、無理?


「できるっちゃできるんだけど、流石にあの損傷を即時に治すのは無理ね……結構時間が経っちゃってるし、あと根本的な問題として、リソースだけ雑にぶち込んで、はいできあがり!って訳にはいかないのよ、治癒って。

 昔作ったナノマシン技術はそういう苦手意識を取っ払いたくて権能封印状態で手がけてたんだけどさー、確かに想定した通りの機能を持たせることはできたけど、神力の取り扱いとはやっぱ別物でしたー」

 そもそも治癒系ってあたしの数少ない苦手ジャンルだしー。と、開き直ったように付け加えるシャキヤさん。


【創ると壊すは自由自在ですのに、人ならずともままならないものですね】


「そりゃ創るとぶっ壊すは創世の基本権能だからねえ、といっても新規に世界を創りなおすとかは流石に分量足りないな、やる気もないけど。

 新たに眷属ってのも、アホどものせいで、もうわざわざ要らないかな感あるし……ああ、あんたは絶対こき使ってやっから、死に急ぐの禁止ね」

【えー、嫌ですよ、姫の下ならまだしも、あなたの部下なんて】

「ええい、あんたは本来もともとそうなんだってば!何この子反抗期?今頃?」


 それはいいけど、結局どういう作業で残滓を掃除する予定なの?


「……まさかの:もはや少年からも掃除扱い。あいつって、所謂物語とかだとラスボスとかそういうのじゃない?まあ確かに本体のあたしからすりゃ家のめんどくさい黒カビ掃除あたりと変わらないってのも事実だけどさ。


 やり方としては、あたしが直接創ったものじゃないから、この元腐れ根性どものリソース化とは別の処理になるわね。リソースちょっと消費すっけど、存在するためのエネルギー的なものを素粒子以下まで分解して、全然別の、できたら魂とか入らない物に作り替えちゃえばいいのよね。

 まあ、本来物理存在でもないモノへの適用は、あたしだからできるんだけど。

 ただ、創れるものがなあ……元サイズもさることながら、年月の蓄積とかいろいろあるせいで、それなりにでかいもの作れちゃいそうなんだけど、今のリソース不足で疲弊した世界に、いきなり妙なものぶち込むのも都合があんまりよろしくないのよねえ……」


【姫の治癒にもある程度回すとして、あとできそうな大物ってありましたかねえ……】


 うーん……

 あ、そうだ、月。

 蘇らせるのは不可能って言ってたけど、新しく、創っちゃえば?意趣返しにもなりそうだし。


「うわあ、大胆な事言うわこの子……できるかできないかで言えば……うわ、できるわ。ちょっと前のよりちみっちゃくなるけど」

 ざっと計算しましたの顔でシャキヤさん。


【えぇ、今更月、ですか……いや、あるとないなら、あったほうが姫の負荷など考えると、色々楽だろうとは想像できますが】

 こちらは何やら渋い顔のファズ。え?姫さんの負荷?


「ああ、姫ちゃん、月が砕けたからって、隕石とかの始末、いちいちやってるっぽいのよねえ。あれ、月があると背面でキャッチしとけばいいから、楽なんだけど。うちの『世界』は他所よりだいぶ狭い割に密度が低くて、飛来数が少ないから、姫ちゃんの手作業でもなんとかできてるけど。

 あとそうね、潮汐力とかのやり取りが発生するから、多分南の毒沼が縮小できるわね……あそこは海で発生した淀みを集積してるせいでああなってるだけだから」

 あんな場所に置くつもりじゃなかったのに、なんでかあそこから噴き出しちゃったのよねえ、と、シャキヤさん。

 それで川も無ければ雨も降らないのに氾濫起こしてたのか、あそこ……


【その用途で後から追加するのだと、結構な天変地異が発生しますし、多分管理者が必要になりますよね?そのへんはどうするんです?流石に僕にはもう無理ですよ?それこそリソースが足りてません】

 あー、やっぱもっかい天変地異になっちゃうのか。それじゃ無理かなあ……


「それは多分あたしの本体一時的にタイミング合わせて起こせば、ある程度相殺できる気はするんだけど……姫ちゃんに秘密にできなくなっちゃうなあ」


 いやもう、いつまでも隠そう、秘密にしようってそれぞれでやってたから、今のこの現状なんじゃないの?

 もうそこだけは諦めて、ふたりともいい加減、ちゃんと姫さんとも話し合った方がいいんじゃないかな?


 ふたりとも無言で俺を見ている。間違ったことは言ってないぞ、俺。


【……そうですね。流石に即日は厳しいですが、善処します】

「えっちょっそんな速攻で諦めるのセルファ君?!転向早過ぎね?」

 ファズは思ったよりあっさり決意してくれたようだけど、シャキヤさんが何やら往生際が悪いことを言っている。


【ケスレル君のお願いなんて珍しいですから、聞かないわけにはいかないんですよねえ】

 妙に上機嫌なファズの声。ぐる、と、闇の毛玉状態のマーナガルムも肯定の唸り声。


「……あー……君ひょっとしてそれ、あれか、アルファ……少年=わんこの主=自分の主、状態だな?群れのリーダーが少年だと」

 群れ?よく知らないけど狼の習性?


「そうね、犬にもある習性だけど。混ざってるって、そういうとこに出るのかあ……そっかー」

 そのまま、暫く無言で瞑目していたシャキヤさんだったけど、はぁ、と聞えよがしな溜息をつくと、立ち上がった。


「判った。まあ少年の正論のほうが正論だけあって正しいし、腹ァ括りますか……少年先に戻すほうがいいんだっけこれ」

【こちらは短時間ならナガルに任せられますから、僕も一度送って貰えると助かりますね。都市側でバックアップを取っているはずの記録の確認もですが、ケスレル君の義体の再起動もやり直さないといけませんし】


 ん、それって。やっと動けるようになる?


【ええ、その予定です。実のところ、シャキヤが強制コマンドを雑に流したせいで、余波で君のほうまで制御プログラム本体に異常が発生したので、感覚と動作両方に一旦ロックをかけていたんです。再起動して修復できても、恐らく今までとちょっと仕様が変わってしまうと思いますので、慣れるのに時間がかかるはずですけど……】

「うっ、アレやっぱ制御失敗してたんだ?ごめん、少年、ほんとごめん。そういうことなら、こっちは久々にあたしのサブ分体も出しとくわ。監視と抑制の役くらいには立つでしょ」


 じゃあ一旦わんこ以外本体に向かって解散、と、シャキヤさんの声がして、視界が暗転した。唐突だなあもう。




 現実世界で、目を開く。そういや寝付いたところでシャキヤさんに引っ張り出されたんだっけ、今何時間経ったとこだ?

 たしたしたし、と、子狼の脚が俺を叩いている。う、爪が伸びてて、ちょっと痛い。あとで誰かに爪切り頼まなきゃ。


 見えるところに確か時計があったはず、と視線を動かすと、わあ、真夜中。

 そっか、シャキヤさんに強制的に放り込まれたから、マーナガルムの調整が効いてないのか。


(主、何があったのだ。大丈夫なのか)

 あれ、マーナガルムの本体には情報までは伝わってないのか。そりゃそうか、でなきゃもっといろいろ筒抜けだな。


「……ああ、大丈夫。ん-と、ちょっと知り合いと会ってきた?感じかな……」

 うん、シャキヤさんは現状知り合い枠でいいだろう、多分。


(随分と強引な知り合いがいたものだな?)

 子狼なマーナガルムの懐疑的な視線。暫くここで暮らしているおかげか、日常的に喋るようにはなっている、かわいい子狼の渋い声。


「そうだねえ、だいたいいつも強引だね、あの人は……」

 強引で唐突で、でもなんか憎めないひとではあるんだよね。


(まあ、何事もなかったのなら、良いのだが)

 マーナガルムが、ぺしょりと伏せの姿勢になる。胸元に掛かる息が暖かくて、ちょっとこそばゆい。


 誰もいないこの部屋で目を覚ますのって、そういえばここに来てから初めてだな。


 ああ、誰かの足音がする。大人の歩調のような、それにしては危なっかしいような。ってあれ?


(……む?これは、誰だ……?)

 マーナガルムが不審げな声。え、マーナガルムが知らない人?いやでもそうだ、普段入ってくるどちらの足音でもないな。姫さんはそもそも歩いて入ってくることがないから除外で。

 まあ、シャキヤさんあたりは、なんとなくだけど、入ってこれそうではあるけど……あの人も足音を立てない勢だ。


 普段皆が出入りしてるのとは別の、奥の方向のドアが開く微かな音とほぼ同時に、ずでん、とでもいうべきか、何とも言えない、多分転んだっぽい音。


「あ、いたた……鈍ってるってレベルじゃないですね、これは……」

 聞きなれているようで、初めて聞く声。ああ、これって……

 ……いや待って、なんで生身?ってあっそうか、本体に送るって、そういうことか。


 てっきり、前みたいに俺のとこに一緒にくるんだと思ってた!なんたる勘違い。


 ゆっくり歩く音と一緒に、なんだか、微かにではあるんだけど、ずるずるとなにかを引き摺ってる音が気になって、思い切って扉のほうを見る。


 現実世界では初めてみるけれど、ファズの顔は間違えようもなく。うん、ちゃんと覚えている。

 でもさ。


 フェイさんみたいな、どころか、地べたをずるずる這って、今も足に絡まりそうになってる、その長い髪はいったい何でまたそんなことに?

 あと着てるものというか、身に着けてるものがどうみても敷布っぽいもの一枚なんだけど?


「えーと、ファズ?なんでそんなことに?」

 思わず挨拶とか全部すっ飛ばして質問しちゃったのは、しょうがないと思うんだ。


「数年どころじゃなく、本体ほったらかしでしたからね……そのせいでもないのでしょうけど、記憶にあったより生身の部分が多くて、動かすのが一苦労です……」

 ようやっとベッドの横に置きっぱなしの椅子に辿り着いたファズだけど、息切れしてませんか。マジ大丈夫か。


 ドアが開くまで警戒していたマーナガルムは、ぽかんとした顔をしている。


「ああ、ナガルも本体は随分久し振りですね、話には聞いていましたが、また随分とかわいくなっちゃって」


(……あるじ?どうも気配の薄さは影身のようだが、ほんとうに?)


「一応?いろいろあって、ちょっと人の身体に近いものに入ってますし、そもそも君が言う通り、本体ではありませんが」

 そろり、と子狼に手を伸ばして撫でるファズ。もしかして、この人の撫で癖、マーナガルム撫でてたせいなんじゃなかろうか?


「まああまり時間もないので、再起動やっちゃいましょう。めまいを起こす可能性がありますから、目は閉じていてくださいね。【command:restart/add:01,01……】」


 ファズの手が俺の胸の上に置かれて。機械言語はやっぱり俺にはちょっと判らないな、と思ってたら、眠気がきた。なんでだ?


「眠くなるようでしたら、そのまま眠っちゃって大丈夫ですよ。ちょっとこれ、時間がかかりそうです……生身の部分がだいぶ増えてるので、バランス調整ができたら、やってみますね……」



 そっか、無理はしないでね、と返事をしたかったけど、声に出す前に、眠ってしまった。

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