表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まぼろしのひつじ  作者: うしさん@似非南国
序章 まぼろしのひつじ
6/98

第六話

 「あ、そうだ。私はフェ**ぃー*というんだ。聞き取りにくいようならフェイと呼んでくれればよい。資格を取得した職業医師ではないけど医療技術者だよ」


 男はそう名乗った。なるほど、名前が半分くらいしか聞き取れないな。なんでだろう。あと資格はともかく、しょくぎょういしとかぎじゅつしゃとか、なんのことだろう?

 たぶん話の流れ的に職の話かな?とは思うんだけどうーん?


 「助けてくれてありがとう。俺は……えーと……」


 困ったな、対外的な名前貰ってねえぞ俺。流石に『真名』は名乗っちゃだめだよな……


 「む、まさか記憶に欠落があったりするのかね?だとしたらちょっと検査を」


 「あ、いや、そうじゃない、そうじゃないんだが」


 慌てたようにささっと近付いて俺の顔を覗き込む(そしてその動作に一切物音が伴わない)男からちょっと逃げるように壁際に寄る。

 どんなにきれいな顔してようと、俺が子供(といっても再来年くらいに大人扱いになるんだけど、確か)だろうと、男にくっつくほど近付かれるのはちょっと嫌だ。

 あれ、この男眼も青いな。そういう人が西方にいるって聞いたことはあったけど、実物は初めて見た。あれでもここたぶん東方だよな?

 

 なお俺本人はごく普通のどこにでもいそうな茶髪に、茶色と緑を混ぜたような目の色だ。目の色だけはちょっと珍しいってよく言われるが、顔は普通の平凡な顔なんだってさ。

 生まれた土地でも、集落でも、近所の人ほぼみんなそう言ってたから、世間の基準からするとそんなもんのはずだ。


 「……あ。もしかして君、西黒森を出たとこにある集落の子かい?だとしたら名を尋ねるのは失礼だった、すまない」


 ん?ああ、俺たちが東の森って言ってる場所はこの人たちからしたら西で、西黒森って呼んでいるのか。なるほどな。

 そんでもって、森を越えた先のことも結構正確に知っているっぽいな?


 「あー、集落のこと、それなりに知ってるんだ?そう、そこから来たんだ。俺の生まれ自体はそこからもっと南西なんだけど……」


 

 『真名』を家族以外の他人に知られると障りがある、って信仰があるから、集落の中で生きてる人の名前を呼ぶことは禁じられている。

 火事で亡くなったエスロさん、みたいに、既に亡くなってる人の名前はその人の話をするときになら、呼んでも大丈夫。何の脈絡もなく呼んだらやっぱり怒られるけど。

 つまり、生きてる人の名前を家族以外の人が呼ぶのは死人と同じって侮辱したことになる。こわいこわい。


 もちろん、名前を呼べないってのは不便だから、その代わりになるものはある。

 基本的に集落の住人は、手に付けた職や、集落での立ち位置で呼ばれる。そういったものがない場合は、家族のそれを基準にして、例えば羊追いの子、薬師の下の弟、などと呼ばれるのだ。兄弟が三人以上いる家なんてほとんどなかったが。うちも妹とふたりだけだしな。

 俺はまだ成人してもいなければ職を持ってもいないから、基本的に婆様んとこの小僧、とだけ呼ばれていた。

 なお妹は婆様んとこのちび、だ。この呼び方を俺がするとぶんむくれるから俺は使わないけど。

 集落の人数が少なくて、余裕で全員の顔を覚えてらえるからそれでやっていけてるけど、もっと人が増えたらこんがらがるんじゃないかってたまに思う。

 まあ実際は山火事に巻きこまれてごっそり人数が減ってから、それ以上減りこそしてないけど、増えてもいないんだそうだけど。



 ……あれ?でもそうか。俺もともとあの集落の人間じゃないし、ここに集落の人間が来ることも流石にないだろうから、別に名乗っちゃってもいいんじゃないか?



 「そういや俺、集落生まれじゃないし、ここは集落じゃないからたぶん名乗っても大丈夫なんじゃないかな。俺の名は」


 「ちょっと待ったああああああああああああああああああああああああ!!!!!」





 ……はい?

用もないのに呼ぶとどうなる?

叱られるで済めばいいね、って脅かされるんですよ。


だいたいその手のことで叱られるのは子供ですとも。

というわけで多分実害が出たことは今のところないんです。この世界の祖霊様たちは優しいので。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ