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まぼろしのひつじ  作者: うしさん@似非南国
四章 喪われしモノの影
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第42話

今回も説明回。

 リソースってのは、前にもどこかで聞いた気がするけど、人間が言うところの魂が持つ、一種の力、らしい。まあ一種類ではないんだけどね、とはシャキヤさんの弁。


 で、西の敵とやらがなんで世界の敵なのかというと、そのリソースを無駄に、しかも大量に消費している、と。

 具体的にいうと、魂が解放されないような殺され方をしている人間がたくさんいたのだと。今もそうしているのだと。

 まあ簡単に言えば『食われた』。俺が食われそうになったアレと似たような感じだというが。

 そういえば、あの国は入国ができたとしても、出国は一切できない、って話があったな。

 ……いや待って?今凄く怖い考えになったんだけど。あの国に、人間残ってるか?それ。


 《まあ無理じゃないかなー。魂食ってガワだけゴーレムとして使役してるっぽい?話ではあるけど》

 そういや騎兵さんの話で、人さらいもしてるってのもあったな……。あと、クタラの御領主一家も連れ去られたって話だった。

 街の人もいくらか連れていかれたとも。


【恐らく、国内に生きた人間が居なくなって、飢えた結果でしょうか。わざわざ遠方の地に手を伸ばしている理由が気になりますが】

 それは、警戒心の問題じゃなかろうか。クタラからこっちは辺境呼ばわりで、東の森の化け物の噂とも相まってか、小国同士の小競り合いとも縁がなかったからさ。


 《東のっていうと、こっちでいう西黒森?

 それで思い出したけど、西黒森のアレの本体、坊やが食われそうになった時よりは前だと思うんだけど、いないっぽいのよねぇ。お散歩行くようなモンでもないのにさあ。

 姫ちゃんも見つけてないっぽいけど、あの子はこの世界だと自分のエネルギーが突出して高すぎて、そういう検知系がびっくりするくらい苦手だからしょーがないかなって☆》

 まじかよ、あれで本体じゃなかったのかよ……二回めのが最初のより小さかったのは確かだけ……ど……あれ?


 《いくらふたりも守護つけてても、本体だったら流石に途中でもぐもぐごっくんだったと思うわ……分体でもあれだけ後れを取ったし……》

 想定が甘すぎましたごめんなさい、と本気で謝られたけど、流石にもう終わったことだし、実際ふたりの祖霊様がいなかったら、その初回だって多分助かってなかったろうことは、なんとなく判ったから、大丈夫ですって言っておいた。

 ファズがまたなんか胡乱な目でこっちを見たけど、だって今生きてるんだしいいじゃないか。


 それより今気が付いたんだけど、二回目に俺と騎兵の隊長さんがやられたあれって、どっちだった……?


《【どっち、とは?】》


 最初の旅の時のは、元から森にいたアレの端っこ、とかだったらしいけどさ。

 二回目のアレ、挙動自体は確かに同じだけど、なんで隊長さんから出てきたのか。地表のどこかから狙われるほうがまだ納得がいく。

 妹じゃなくて、俺だけを真っすぐに狙ってきていたから、アレなのは確かだ、と今まで思ってたけど……

 そういえば、旅の最初のほうでは、騎兵さんたちが関わったぶんは、エルロムスから持ち込まれた何かって認識してなかったろうか?

 いや、多分その認識自体は合ってるんだよな。そっちは妹狙いだったわけだし。


 《むう、おーい、ラクレちゃんいるー?ちょっと確認したいことあんだけどー》

【……残っているデータを比較検証します。少しお待ちくださいね】


 大人二人が、それぞれに反応をくれる。


 《呼び出しは想定外。何用でございますか、はじめの御方よ》

 つややかで真っ直ぐな紫紺の髪と同色の瞳の、綺麗な少女がぼんやりと現れる。俺についてくれてるっていう祖霊様の片方だっけか。


 《あーそういう敬語はいいのよぅって言ってるじゃーん。きみ、確か最初の旅からずっとこの子についてるよねえ?初回と二回目の襲撃にどのくらい違いがあったか教えて?》

 シャキヤさんは、もう完全に何かが違うと断定しているような口調だ。


 《最初のは強大だったけど、実体はほぼなかった故、我らでも対抗できた。やや力及ばず、それなりに奪われてしまったけど。

 だが、二度目のアレは極度に物理に偏っていて、エスロ共々、殆ど手も足も出なかった。ナノマシン……いえ、そこな御仁がおらねば間に合わかった、はず》

 やっぱそうだよなあ。隊長さんを食ったから物理に寄ったのかとも思ったけど、そもそも初回はそういう感じでもなかった?

 初回は気が付いたら全部終わってたから、全然覚えてないんだよな……


 《……ああ、違う。初回のアレは、食われたというより、何処か虚無へと失われるかのように見えた。二度目は、普通に食って吸収して己を構成するものに変換しているように感じたな》

 ラクレさんが頷く。そして、最初のあれは覚えていないほうが良かろうから、気にするな、とも言われた。ってことは、相当酷かったんだな……


【そうですね、初回は治療時のデータしかありませんが、食われるというより、喪失しているというほうがしっくりくる。二度目は物理で食い破られてますね……】


 《ごめんラクレちゃん、ちょっと直接覗かせてね……うげ》

 そう言いながらラクレさんに軽く触れる仕草をしたシャキヤさんだが、奇声と共に固まった。なんだ?


 《うっわあ……これどう考えても姫ちゃんに報告案件!でも誰が龍のしっぽ踏む役したらいいのよこれぇ……


 ……西黒森のアレ、これ、西の馬鹿に食われて取り込まれてるぅ……》



 ……はい?

【は?】


 反応がかぶったのはしょうがないと思う。西の馬鹿って例の敵のことか?


 《ああいっけない、そこを説明するところからよね!

 ぶっちゃけちゃうと、西のエルロムスに巣食ってんのは、喪われた月の怨念、しかもその影みたいなもの。

 月神本体はとっくに去っちゃってたんだけど、月が壊れる時に破壊の衝撃が微妙に本体に伝わっちゃったらしくて、その時の反応の……残留思念っていうのかなあ。変なのが生えちゃったのよねー。

 本体とは別の、神でもなければ生き物ですらない何かになっちゃった、まあ怨霊か妖怪のカミサマモドキ版?みたいなもんね。

 破壊に対する反応だけでできてるから、常に苦痛を抱えてる。おまけに、存在するための力が本来あるべきじゃないものだから、いつも飢えてるっつーね。

 はた迷惑な置き土産もあったもんよ!といっても、本神が居る時に月が壊れてたら、最悪月神本体が堕ちてたから、それよりはマシね!》


 ん?月が壊れたのは戦争の時で、戦争の結果を見て神が去ったと説明された気がするんだけど。


 《神々も全員一斉に動いたわけじゃないのよぉ。行先もバラっバラ。

 月神は戦争の流れを見た段階で諦めて去った、最初のグループにいたっぽいのね。

 ちなみに余談になるけど、最後に去ったのは深海を統べる方。深海は流石に被害が他所より少なかったから、海の生き物はかなりその方に救われているの。おかげで海に面した場所のほうが今も栄えてるわねえ》


 成程?まあ神様の話だから、その時間差も百年単位だったりとか、ありそう感はあるよね。


 《そこまでじゃなかったかなー。戦争になるぞって流れから実際やらかすまであんまり時間なかったからねー。

 当時の人間ってほんっとおバカ☆……まあシャキヤちゃんも反対こそしたけどその一員ではあったんだけどねー。

 まあ一員だったぶんは、当時の身体ぷちっと潰れちゃったぶんでノーカンでいいよね!

 神々的には数年単位なんてほぼ同時なんじゃね、って話のほうなら、そうかもねって思うけど、流石にシャキヤちゃん神様じゃないからそこまではわかんないなー》

【神々にも成し得なかったことを易々としてのけた方の台詞じゃありませんね……あと言い方……】

 ファズがため息とともにそう呟くように言う。


 《えー、そりゃああんなヒトの技術依存系の権能持ってる神なんていなかったんだから、シャキヤちゃんが先駆者になっちゃうのはとうぜーん!まあそれは今する話じゃないからほっとくとして!

 うーん、ラクレちゃんたちから話して貰うのが一番いいかなあ、両方に触ってるデータ持ってるのキミたちだけだし……

 それにしたって、まさかあの馬鹿影野郎が、アレを食い尽くせるような能力があったのにびっくりだわよぉ》


 食ってるっていうか、逆に中から食い返されたりしてないだろうな?もしくはくっついて別物に変異……はしてそうだなあ……?


 《嫌なご指摘ありがとう!というかそうよね、変異したから二度目のアレになってるのよね、多分。

 それに、前と同じ性質の分体が湧いてるってことは、元のアレの性質もある程度は確定で残ってるのよねえ……?》


 ええと、纏めると、エルロムスにいるのは月だったものの怨霊っぽいなにかで、常時リソース不足で飢えてて、森のアレもいつの間にか食っちゃう程度に消化能力も高い……?いや、消化はしきれてないんだっけ?


 いやでもどうやって食いに来たんだ。エルロムスから東の、いや西黒森って、だいぶんどころじゃなく遠いぞ?


 《……そういやそうね?アレは確か、この世界に定着できてなくて、あの森からは動けない存在だったよねえ?

 ってことは、まさか奴が食いに来たの?どうやって?あいつこそエルロムスからは出たことないはずじゃ?

 そもそもそれっていつの事?》

 うーん、月……


【……あっ、ロアール……】


 ん?誰だっけそれ……あ、相談役を鶴呼ばわりした偽名の男か!

 ……そうか。あの時ファズが言ってた、失われたものの名って、月のこと?


【そうです。ロアールもマーニンも、どちらも前時代の、とても古い言語で天体としての月を指す言葉だったはずです。

 この世界の現在の言語に『月』は存在していなかったので、明言はしなかったのですが……】


 《……いや待って?ってなに?まさか、西の馬鹿影野郎、少なくとも端末として動かせる実体を持ってるってこと?》

 シャキヤさんから、おちゃらけた口調が消えたので、よほど衝撃的な話だったらしい。


 《っていうか、あんな飢えきった、そもそも自我もあるかどうか判らない存在が、ヒトに擬態するのは無理だし、だいたいがところ、あんな存在に耐えられるヒトの体なんて……》


【ないはずですよね。少なくとも、今の人類ではどう頑張っても浸食されてしまいますから、無理でしょう。

 思えば、最初に集落を襲ったリビングゴーレムが脆弱な不良品のようだったのも、中身を食われた抜け殻に、動力として組み込んだモノに浸食されてだんだん使い物にならなくなった結果だと、今の話なら納得がいきますし】


 そう言われてみれば、あいつら中身真っ黒だったな。程度の差はあったけど。


 《えっと……坊や、ちょっとお願い。

その話したのって相談役くんだっけ、彼がそいつの容貌とか覚えてたら教えて貰ってきてくれないかな?

多分、あんなもんに耐えられる物質自体がそうそうないはずだから、身バレ程度で身体をチェンジする、とかは難しそうだし、ツラが判るだけでも警戒の仕方が変わるっしょ》


 おっと、やることが増えた。まあ相談役とは明日から暫く顔突き合せるから、その時でいいかな?



やっとラスボス情報が。


あとようやっとシリーズタイトルが表に出せるっすね。

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