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まぼろしのひつじ  作者: うしさん@似非南国
三章 まぼろしの民
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第30話

閑話抜いて30話目になりました。書いた本人がびっくり。

 特に体の不調や不具合はないということで、着替えたらもう部屋を出てもいいよ、という話だったのだが。

 流石に今戻ると、あの怪我なのにどうしてもう治ってんだよ、って問い詰められるのが目に見える気がした。

 というわけで、今日はこの部屋に妹ともども泊めてもらうことにした。


 いやまあ今日が明日になったんでも、多分同じことなんだが、せめて言い訳するにも、最低でも一日くらい時間を置いた方がまだいいんじゃないか、と、説明したら、フェイさんも納得はしてたから……


 暖房(前回は気付かなかったけど、暖炉がある部屋だった)が効いてて、隙間風も吹かなくて、明らかに天幕より暖かいから、妹がこっちがいいって言い出したせいもあるけどな!


 乏しくなっていた食料なんかは、フェイさんたちが支援してくれたようだ。

 この枯野の草は、見た目は枯れているかのようだけれど、馬や羊が食べるぶんには、特に問題ないそうで、彼らの食事も当分は心配いらないのだそうだ。


 なんでも、この枯野の草原を歩いて東の端に徒歩で通り抜けようとすると、まる二か月はかかる、らしい。

 多少の丘はあれど、森より格段に通りやすいにも関わらず、だ。


 ここは、数百年単位で昔にあった事故のせいで、この草以外育たない場所らしい。

 放牧にはちょうどいいんだけどね、普通に旅をしたりするには、水と人の食料の補給が難しいのがね。とはフェイさんの言。


 すっかり枯草だと思ってたんだけど、これで枯れてないって聞いたのはびっくりしたけどな。カサカサいってるじゃん?

 単に、水分量を制限して放出しづらいような構造なだけだそうだ。根っこに水をため込む性質を持っていて、日当たりが良くて清潔なら、どんな場所にも育つのだとか。

 試しに1本葉っぱを見せて貰ったら、なるほど芯に近い所に、細かく細い緑色の線が入っている、生きた葉っぱだった。


 それにしても、清潔が条件の植物って初耳だな……




 そういえば、集落の人たちは最初から保護対象だったそうだけど、騎兵さんたちはどうしたのだろう。

 その辺を聞いてみたら、フェイさんからは、思いもかけない返事が返ってきた。



 集落民ではない集団など、ついてきていない。『無名の集落』の民(これには、俺と妹も含む)以外、川を渡ったものはいない。



 そんなはずはない。いや、あの匂いの件がある。

 薄れて消えたと思っていたそれが、あの隊長さんのように、隠れていただけだったなら?

 フェイさんたちは、ああいったものが通れない結界がある川だと言っていた。

 恐らく、この想像が当たっていたなら、彼らは、川を渡ることはできないのでは?

 それにしたって、フェイさんが認識していないらしいのはちょっと驚いたけど。

 俺のデータを見たなら、そこらへんも知っているはずなんだけど。あれえ?


 取り合えず、夕食(今日は山羊乳で根菜と羊肉を煮込んだ、とろみのある汁物と、柔らかい白っぽい麺麭だった。どちらもすごく美味しかった)のあと、妹にその件を聞いてみることにした。


「そうなの。おじちゃんたちはここにこれなかったの。川がわかんないって、そのままはぐれてしまったの」

 だから、一緒に来たとすら思われていないだろう。と、祖霊様が言っていたそうだ。

 なるほど、あの境界の川を認識すらできないってことは……多分浸食されていて、手遅れ、だったんだろうな……

 俺だって、祖霊様たちやナノマシンの保護がなければ、そうなっていたんだろうなあ。


 ……ほんとに、俺は運が良かったんだな。


 そういえば、騎兵たちの馬も、騎兵たちと共に、川の向こうに残ったままであるらしい。

 だよなあ、騎乗してたもんなあ、あんとき。


 ただ、騎兵さんが二人減った時から、相談役が借りっぱなしだった馬だけは、そのまま相談役と川を越えて、今じゃ前からうちの馬ですよって顔で、集落の馬たちと仲良くしているそうだ。

 外の馬の血が入るのは久し振りだと、馬見役が喜んでいたらしい。ちゃっかりしてんなあ、人も馬も。



 結局、二日ほど経ってから、傷だらけになって、鞍も装具もほとんど失った馬が一頭だけ、川を渡り切れずに倒れてもがいてるのが見つかっただけで、他の騎兵さんも馬も、それっきり現れなかった。

 傷ついた馬も、川で足を滑らせたのか、前脚を片方ぱっきりと折ってしまっていて、助からなかった。


「馬はなあ……足回りやられると、まず助けられないんだよなあ……」

 久し振りに顔を見た、相変わらず秀麗な銀色の少女が、死んだ馬を丁寧に埋葬しながら、悔しそうにそう呟いていた。



 それはさておき。


「おう、坊主、生きてたか……!あんときゃ本当に今度こそ死んだんじゃないかと思ったが」

 鍛冶屋のご隠居が、久しぶりに顔を合わせたとたん、興味があるんだかないんだか、というふうにそんなことを言う。


 結局、フェイさんたちとも相談して、集落の皆と顔を合わせるのは三日後くらい、ということで、傷ついた馬を弔った翌日になった。

 何せアレに串刺しにされた現場は、結構な人数に見られている。あれがそう簡単に治せる、とあからさまにしすぎるのはまずいだろうという判断だ。


 いや三日でも十二分に早いと思うんだけど、と聞き返したら、そのくらいの技術のほうなら開示できるから構わないという回答がきた。


 まあ、そうだよな。この地に住むなら、こちらの流儀や、最終的に新しい文明文化なんてものを覚えなくちゃいけないだろう。

 なにせここは無人の広野ではない。まる二日ほど馬で行ったあたりに、地元の民が住んでいる村があるのだそうだ。

 俺はいわばずるをして、データベースでだいたいの事情や文明レベルなんてものまで知ってしまったが、他の人はだいたいその地元の村レベルの知識を少しずつ教えていく予定なのだそうだ。


 とまあ、そんな先のことはいったん置いておいて。まずは目の前の爺さんだ。


「妹を残して死ねませんから。集落の皆は大丈夫でしたか?」

 ふと思いついて、フェイさん、いやファズの真似をして、にこっと笑って、丁寧に答えてみる。

 いやまて、それはこの筋肉爺には逆効果じゃないか俺よ?


「……まーた変な真似を覚えてきたな。

 まぁ皆に関しては、お前さんほどえげつない目に遭ったやつはいねえ、というよりあんな目に遭ったのはカンブレンとお前だけだから心配すんな。ただ、他の騎兵連中とははぐれちまったがよ」

 思ったより効果はない、というか誰かの真似なのが速攻バレたようで、ご隠居は一瞬だけ目をぱちくりさせただけで、ほぼいつも通りの態度で返事をくれた。

 カンブレンというのは、あの死んだ隊長さんの名前だ。


 が、すぐに声を潜めて、

「ワシ相手で、他に見とる者もおらんから冗談で済むが、女どもの前でそれはやるな。碌なことにならんぞ」

「あっはい」


 ガチの真顔でそんなことを言われたので、思わず直立姿勢で返事をしてしまった。なにそれこわい。

 ああでもそういえば、前に羊追いの息子にそんな話をされたような……いや、あの話は最後まで聞けてないじゃないか。

 結局あのあとも、そんな話をする雰囲気ですらなかったからなあ。

 ……まあ蒸し返して藪蛇になるのもなんだし、その件は忘れよう。


 集落の皆が集まって設営してる天幕場で、最初に鍛冶屋のご隠居に会ったのは、多分たまたま、なんだけど。

 まあ無難ではあったのだ、と思い知ったのは、その直後に相談役に捕まって、散々質問攻めにされてからだった。


 いやぁ、知らん事を知らんと答えるより、知ってることで開示できないことを喋らないようにするのが大変だった……

 ファズが開示可能かどうかの判断を手伝ってくれたから、辛うじてボロは出さずに済んだはず。



「……しかし、馬上からだったからよく見えてしまったのだが、よくあの傷で生き残ったな、お主」

 何度か繰り返された言葉を、また相談役が繰り返す。


「頭や心臓に当たってなきゃなんとかなるって治してくれた人は言ってたからな。

 あの傷が三日で歩けるようになる技術だもの、そのくらいはそこまで大変なことじゃないんだろう」


 実際は、傷の修復だけなら三時間でした。昨日、起きてきたファズが教えてくれた。

 まあ壊れ方と失血が酷くて、調整に時間がかかってまる半日寝かされてたんだそうだけど。

 ハハハ、流石に今は絶対話せねえよ、これは。


「……三日で歩けるように、とはいうが、お主それもう完全に回復しとるのだろう?傷をかばう様子すらないではないか」

 そりゃまあ、そんなとこまで演技はしていないからな。うん、試しにやってみたら、大袈裟だからやめとけって姫様に言われました!

 俺に演技の才能はないってのだけハッキリしたってか……


「完全ってほどじゃないよ。まだ血が足りてない感があるから」

 これは半分くらい本当だ。実は、走ったり激しい運動はまだするなとも言われてる。

 マッチングが不完全だから再調整が必要、らしい。補充されたパーツが予備の予備で、あまり状態が良くなかったのが原因だ。

 ついでに、増産もしばらく難しいから、これ以上怪我はするなと重ねて念を押された。


 いや、別にね、俺だって怪我したくてしたわけじゃないからな?!




 まだ会わなきゃいけない人がいるから、と、なんとか相談役のところを出て、今度こそ長老の婆様のところだ。今度は妹も一緒だ。

 まあ、こちらでは本当に無事の挨拶だけで、特に質問らしい質問もなかった。

 そして祖霊様との相談ごとがたくさんあるから手伝え、と、妹だけが付き合わされることになって、俺だけ外にぽいっと出された。


 もともと、祖霊様関連はさっぱり、感じ取れすらしないうえに、今の俺は、フェイさんとほぼ同じ、霊的素養絶無体質、らしい。

 いやほんとに、前から全然判らないから、現状、実感自体がないんだよ。

 ……そりゃ役には立たんよな。そもそも祖霊様関連は女性しか判らんそうだしさ。


【あ、それなんですけど、限定的にであれば、判るようにできるかもしれません】


 突然、ファズがそんなことを言い出したのにはびっくりしたけど。どういうことだ?

……逆三途の川。

あと主人公、君のあの傷は十二分に大変だったほうです。(ファズさん談


Q:体の大半ナノマシン義体なのに食事って必要なんですか?

A:健全な精神のためにも、生身の脳のためにも、絶対必要ですが何か?

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