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まぼろしのひつじ  作者: うしさん@似非南国
一章 名前
21/98

第18話

この章はここまで。作中時間では即次章ですけれども。

 幸い、婆様はちょっと出血が多かったものの、命は取り留めた。

 ……いや本当になのましん様様だ。こいつらがいなかったら毒で仕留め切られてたはずだもん。そもそも、毒のことは、俺しか知らないけど。


 おばさん?妹が言う通り気絶してただけだったから、あの後目を覚ましたところで婆様の治療の助手をしてもらったよ。

 血が乾きかけてこびりついてたから、お湯沸かしてきてもらったりとか、傷口に巻く布の準備とか、やることはいっぱいあったんで。



 ……うん、結局俺が見様見真似で縫う羽目になったっていうね。そういやこの集落、薬師はいるけど医者はいなかったっけ……


 縫う、といっても、服を作るのに布地を縫うのとはやり方が違うからね……お裁縫が得意勢(ほぼ女性陣だ)にやらせるわけにいかなくって。

 いや、似た縫い方はあるんだけど、女性にやらせる気かって怒られた。

 いや、子供にやらせるのはいいのかよ?!

 子供のころに現場を見たことはあるっつっても、綺麗にしとかないといけない親父の仕事場に、そんなしょっちゅう子供がいたことないから!

 記憶なんてわずかなもんなんだが?!と抵抗したが、それでも見たことがあるだけマシだろ、と押し切られたっていうね。


 そもそもなんで子供なのにそんな現場見てるんだって?

 患者のおっさんらにたまに頼まれたんだよ。縫うの痛いけど、我慢するために気を紛らわせたいから、治療中抱っこさせろとか撫でさせろとか。

 今も昔も普通の顔だけど、幼児当時だったから、割り増しでかわいいとか言われたことあるんだよな。

 ……今思うと地味に失礼な話だな?

 いや、妹が言われたわけじゃない。言われたのはあくまで俺だ。そして俺がかわいくなくても誰も困らんから、そこはいい。


 話がそれた。


 結局、傷の縫合は、なのましんがちょっとだけ知識があるっていうから、こっそり教えてもらいながら縫ったよ。ギリギリ及第点くらい、らしいよ。

 跡はだいぶ派手に残ってしまうことになるだろうけど、年寄りだからしょうがないよねってことにしてもらった。

 というか、縫い終わるまで、婆様気を失ったままだったから、確認もへったくれもないんだけど。


 そのなのましんは今は休眠中?だ。人助けするのは結構疲れる?らしい。

 俺の身体の制御とやらは自前の脳みそがちゃんとやっているから問題ないんだってさ。

 ……実は、もっといろいろ細かく説明されたけど、ぶっちゃけそのくらいしか判らなかった。

 頭良くないんだってば、ってぼやいたら、【けすれる どのは頭が悪いのではなく、単なる知識不足です。】って断言されたけど。


 どっちかというと、一緒に教えてもらった妹の現状のほうがまずい。


『癒し手』というのは、人間に稀に現れる異能、とやらであるらしい。

 何らかの力を以て、他人の傷や病を癒す力なんだそうだが、その使う力に問題が大あり。


 曰く、この世界の人間は『魔法』を使えない。むしろ、この世界に魔法は本来存在しないもの。

 俺もおとぎ話とかで魔法という単語自体は知ってるけど、実際に使えるやつがいる、なんて話、聞いたこともないし。

 そう言われてみれば、俺の知ってるおとぎ話で魔法を使うのは、妖精とか妖魔とかカミサマとか、人でないものばかりだったな。

 ちなみに幽霊や悪霊が出てくる話もあったけど、呪いはしても魔法は使わない。意外と徹底してる。


 ああ、そういや、儀式のアレまですっかり忘れていたけど、ひとり。

 目の前であからさまに魔法らしきものを使った子いましたね。

 ……いや、自称人じゃない、だったから除外でいいか。


 東の話は置いといて、『癒し手』の力は魔法に近いが、但し完全な魔法とは恐らくちょっと違うもの。

 魔力の存在しないこの世界で、癒し手の力の源は己の寿命、もしくはりそーす。


 で、なのましん達の話にちょいちょい出てくるりそーすってなんだよ、と聞いたら、


【先刻の治療行為で近似な概念を収集:魂】


 と、返ってきた。


 魂ってなんだ、と思ったら、祖霊様がたが、その魂の集合体なんじゃないかといわれた。なのましんには名称と機能は知っていても存在を検知できないから推測だそうだが。

 うん、俺も祖霊様は見えないし聞こえないから確認のしようは今のところないな。


 ともかくだ。

 妹が誰かのけがを治そうとしたら妹の寿命とか存在とか、そういうものがゴリゴリ削れるのが『癒し手』って異能らしい。なんだそれ呪いか?


 ん?……呪い?


『碧の眠りの病』を、呪いって表現されたことがあるけれど……

 まさかね?



 ひとりでぐるぐる考えていても俺の頭じゃ進展はしない。しょうがない。

 一旦疑問を無理やり打ち消し、何故かひとりで婆様を看病している妹のところに様子見に行ったのだが。



「あ、おにいちゃん。おばあちゃまはもうだいじょうぶよ。

 それでね、あのね、きずをなおすやつはあとであたしがこまるからつかっちゃだめだよっておねえちゃんたちがいうのよ。

 あたしがおねえちゃんたちといっしょになるのはずっとずーっと先でいいんだって」


 おいおいおいおい、また爆弾発言ですか妹よ?!なんすかそれ、祖霊様合流確約ってこと??

 あまりのことに、呪いがどうたらどころじゃなくなった。どうなってるんだこれ。っというか祖霊様が異能をうまく使わないほうに説明してくれたん?いやそれよりいっしょって


 びっくりして固まっていたら、妹がこてん、と首を傾げた。かわいいなもう!


「あれ、おにいちゃんはきいてるとおもってた。エスロおねえちゃんとラクレおねえちゃん、そばにいるけど、きいてない?」


 はい????????エスロさんは前に婆様に聞いてたけど、増えてる??????


「聞いてない……にいちゃん、祖霊様は見えないし聞こえないから……」


 ついでにいうと、まったく存在を感じることもない。なので、守護されてるといっても、全然実感がないままなんだよなあ。

 ってか、確か婆様の話だと、祖霊様の話を聞けるのは女性だけって聞いたぞ?俺男だし、元々声聞くのは無理では?


「え、でもおにいちゃんも、見えないだれかとおはなししてるよね?あれはだあれ?」



 な ん で も う バ レ て る ん だ ?



 いやいやいやいや、どうなってるのうちの妹。かわいいうえに天才か?じゃなくて!!!


「あー、なんていえばいいか俺も良く判らんのだけど。俺の中に、俺を助けてくれる奴がいるとだけ思っとけばいい」


 諦めの境地で、最低限の真実だけ話す。こうなったら妹に嘘は通じない。まだ眠ってるけど、婆様にも。


「ふーん?たすけてくれるならいいひとね。よかったね」


 幸い、妹はそれでよしとしてくれたようだ。


 取り合えず話も一段落ついたので、改めて眠る婆様を見る。

 薄暗い天幕の中ではあるが、血を結構失ってしまったので、顔色はあまりよくないことが見て取れる。

 とはいえ寝息は安定していて、当面は問題なさそうだな、と思ったところで。


「……坊よ」


 突然目をカッと開いたかと思ったら俺に声をかけてくる婆様。血も足りないだろうに、どんだけ寝覚めいいの老人!

 って、痛いそぶりさえ見せないの!麻酔ないけど大丈夫かってなのましんが心配する程度に痛いんでは?!


「はい」


 でも、呼ばれたからには返事をする。養われている身なので当然だ。

 というか、婆様はこの集落の長老なので、呼ばれて返事しない奴は集落にはいない。

 喋れないくらい小さい子供もいないしな、今。


「時間がない。祖霊様のお告げを今すぐ皆に伝えよ。……この地を離れねばならん、早急にじゃ」


 え、この季節に?婆様怪我してるのに?


 当惑する俺の横で、妹までもがうんうんと頷く。


「おばあちゃまをきずつけたやつのなかまがくるの。だからにげないといけないのですって」


 そういえば、眠りの病から覚めてから、妹の婆様の呼び方がおばあちゃまに変わって、婆様もそれに文句を言わなかったのは。

 あのときには、もう二人とも祖霊様の繋がりをお互いに知っていたのか?

 そして、集落から隠すような新しいうちの天幕の配置。これもそのうち聞かなきゃと思ってたけど。


 移動するならそれどころじゃないな。


「判った、伝えてくる。夜明けは待たないですぐ始めたほうがいいのか?」


「うむ、できるならそのほうが良い。行く先は……東じゃ。お主が先導することになるじゃろう、心せい」


 うわあ、まさかの大役?!ってか東?あの東の森をどうやって抜けるつもりなんだ??



 天幕を出たら、まだ夕方になりかけたところだった。

 夕飯の支度時だというのに、出てきた天幕からほんの少し離れたところに、おばさんと鍛冶屋のご隠居が座っている。


「おう、坊主、長老様はどうだ」


 ぶっきらぼうに、ご隠居が聞いてくる。


「今さっき目を覚ました。けどすぐにお告げがきたんで、伝えて来いって追い出されたとこ。


 ――今すぐ天幕を畳んで東の森に向かって移動しろって。さっきの奴の仲間が襲ってくる?らしい」


 俺の言葉に、ふたりが目を見開く。


「……あのバケモンが数で来るとなると、確かに集落の人数では逃げるしかねえな……わかった、皆にも伝えてこよう」


 鍛冶屋のご隠居はそう言うと、さっさと立ち上がって集落の中央のほうに向かっていった。

 おばさんのほうは、それでも少しの間固まっていたが、ややあって、


「ああ、じゃあ、わたしが一旦伯母さまの面倒はみるから、お前は妹と自分の荷物をまとめておいで。急ぐなら全部持っていくのは無理だろうけど」


 と、返事をして、こちらは婆様の天幕のほうに入っていった。


 この集落に生まれ育った人は、祖霊様のお告げには決して逆らわない。

 逆らったものはみな焼け死んだから、と婆様が自嘲するように漏らしたことがある。

 俺は、そういうものなのか、とだけ思って、そういう部分は基本聞き流していた。


 そして今回だ。

 今度も命を救われて、ますます祖霊様への敬愛は強まるのだろうか。それとも。

 そうなったとき、そして、妹がその声を聴けるとばれた時には……?


 ……いや、とりあえず今は準備だ。できるだけのことはしなくちゃ。


 できる限りのものは持っていきたいけど、どうなるかな。

 山羊ならともかく、羊は森を歩くのにはあまり向いてないよなあ、多少の荷物は持ってくれるだろうけど。


 おばさんと交代して、天幕から出てきた妹が、おばさんの旦那と子供たちに伝言があるというので、おばさんの天幕に立ち寄ってから、自分たちの寝床に戻って支度をすることにした。

 伝言ついでに夕飯代わりにふかふかの蒸したて饅頭を貰ったので、晩飯はそれで済ます。あったかいのはいいことだ。

 饅頭は生地を作るのに結構力が要るので、おばさんではなく旦那さんが作るのが常なのだ。

 それで晩飯の支度どきなのにおばさんが表にいたのか……。


 徐々に、集落の中でざわめきが大きくなる。多分皆支度をはじめたのだろう。

 うちも少ないなりにちゃんと片付けて、荷物をまとめなきゃだ。

次章はまだ予約投稿時点では冒頭しか書けていないので、少し時間が空くかもしれません。

とか言ってたらなんとまあ書き終わりました。引き続き更新されます。


ストーリー自体はその次の章まではいちおう決まっておりまする。

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