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まぼろしのひつじ  作者: うしさん@似非南国
一章 名前
15/98

第12話

サブタイトルは思いつかなかったので一旦通し番号にしてあります。

 

「んで?私のところに来たってことはだ、坊主が欲しいのは何の知識だね?」


 天幕の中。所狭しと書物が積まれたり転がされたりしている空間の、人ひとりぶんちょうどしかないくらいの隙間に、相談役と相対して座る。

 ここ、いつも物が多くて座る場所の確保が最低限しかされていないから、本に触らないように気を付けるのが結構大変だ。

 数自体が少ない、四角く綴じられた本はまだいいが、巻物の山を崩すと全力で怒られるからなあ……

 文字の読みに疎い俺にはさっぱり判らないが、散らかって見えているようで、実際には厳密に分類して積み分けてあるのだそうだ。

 ぶっちゃけ何度見ても、文字の並びすらだいたい違うってのがわかるだけで、分類とやらはさっぱり判らんけど。


「うーん……ものがたり。とかかなあ?ちょっとした参考になれば、みたいな……」


 確か、本のなかにはものがたり、とか、歴史、とか、じてん、とか、いろんな種類があるらしい。というのは以前雑談で聞いた覚えがある。

 人の名前が良く出てくるのは歴史かものがたり、だったような……それにもう一つ目的を思い出したから、そっちを考えればものがたりでいい、はず。


「なるほど?話が見えるような、見えんような……まあいい、物語だな?俺の好みで戦記ものが多いというか、流石にお前さんくらいまでの、っつか子供向けのものはないなぁ」


 ごそごそと、己の背後にある巻物を何本か取り出す。相談役が街にある図書館で、自分の手で写したほうで、主に趣味のぶんがく、とか言っていたような。

 ”ぶんがく”と”ものがたり”がどう違うのかは知らないが、おおざっぱには似たようなもんだ、とはこれも前に聞いた、はず。

 仕事に必要な知識のものは集落の許可を得て買い取っているそうだけど、とんでもなく高いので、そういったものも、ある程度は写本で済まさないと破産するとかぼやいてたな。

 当然仕事に関係ない趣味のものは全部自分の財布で賄うことになるが、この天幕にある書物のほとんどはその趣味の側のだってさ。

 もしかして、相談役としての収入全部本につぎ込んでるんじゃないかこの人。


「戦記ものって女性はあんま出てこない?」

 ぱっと聞いた感じ、それも物語の一種のように思ったので訊ねてみる。


「そうでもないぞ。どれも大昔の本で、時代が違うのか、流行り廃りがあったのかは今ではもう判らんが、出てくる人物の大半が女性、などという軍記物、というのも結構あるのだよ

 ……って女性の出てくる話がいいのか?坊主よ、ついに色気づいたか?」


 全然そんなこと思ってもいないけど、って顔で煽るの止めてほしいな。

 そういうのは成人してから、もっといえば職が手についてから、だろうなあ。ぶっちゃけ現状だと、想像もつかないけど。


「そうじゃないよ。妹がさ、時々俺んとこに「むかし話をしてくれ」って話を聞きにくるんだけど、もともとそんなに知ってる話の種類がないから、なんていうか品切れでさ。

 だから、女性がよく出てくるっていうか、女の子に話しやすいのが何かないかなって」


 言い訳に聞こえないよう、言葉を選ぶ。

 実際、割と最近「そのおはなしはもう覚えちゃったなー」とか言われたんで、そういう意味でも、ここで話の種も拾っていきたいんだよなあ。

 おばさんとこの下の子とは仲いいけど、そんなにしょっちゅう遊んでるわけじゃあないし、たまにふるまい菓子を貰った時や、なにより寝る前のひと時に、妹にお話をしてやる権利は兄の俺だけのもんだからな!

 お前よく兄馬鹿って言われないかって?目の前の相談役を筆頭に、数人に何度か言われたし自覚もあるよ!


「あー、お主の妹ちゃんな、十ぐらいだっけか。っつか相変わらず兄馬鹿だなあお主。

 ……だが、だとすると戦記物は流石にないな。小さい子、それも女の子にはまだ意味が判らんだろう。

 かといって恋物語もまだ早いな……いや女の子のほうがませてるってよく聞くから丁度いいのか?」


『碧の眠りの病』の一件以来、妹は集落の他の人たちから結構注目を集めている、らしい。

 まあどっちかというと、五十人かそこらしかいない集落で、病の件が明らかになるまで、妹のことを知らない人がそこそこいたってほうにびっくりしたけど。

 うちの妹、別に家にこもりきりでもないのに、どんだけ印象が薄かったんだ。

 他所の子供に興味がない人が多いのかなあ。俺は手伝いの関係でほぼみんなと顔見知りにはなっているから、ちょっと不思議な感じだ。

 ……そりゃまあ、おばさんに言わせると、どこにでもいそうな髪色で、きょうだい揃って平凡な顔、だそうだけどさ。


 ああいや、そうじゃない。そこはちょうどよくないんだ、俺的に。


「ごめん、そういうのは俺が判んないから……」


 ……実のところ、しばらく前に一度だけ、その手合いの……女性向けに書かれたものだという、恋のどうとかいう題名の本を、子守の手伝いのついでに読み聞かせてもらったことはあるんだけど、何がどうしてどうなって、そのお話の主人公と彼氏とやらがくっつくのか、話の流れっていうかオンナゴコロの動き、だかが全然判んなかったんだよな……

 一緒に聞いてた、その時面倒を見てた年下の女の子はきゃっきゃして楽しそうに聞いてたから、妹の興味を引くって意味ではおそらく有効なんだけど、あれを俺が語るのはちょっと……。

 そこそこ内容を覚えてはいるけど、あれを興味を惹けるように話すなんて無理無理。

 そもそも、俺だと本の文字を読むんじゃなくて、頭で覚えて話すことになるから、話の流れってのをちゃんと覚えてられないと、話の繋がりを間違えたり、何をどこまで話したかったのか判らなくなりかねないからなあ。

 とにかく、本当にその時の物語は終始全然話の流れが判らなかったんで、その系統のはなかったことにしたい。


「あー。まあ、お前の年だとなあ……って、ダメだわ。そういやうちの在庫にもガチの恋物語なんぞないわ、私が興味ないからな!

 しかしそうなると、なんかあったっけなあ……小さい女の子でも理解しやすい本……?」


 読んだ書物は忘れない、などと豪語していたわりに、相談役はしかめっ面でぶつくさ言いながら、巻物を右にやり左にやりしている。

 いや、忘れてるんじゃないな。幼い子供向けの書物なんてものが本当に手元にないんだろう。

 基本自分の趣味として本を集めているって言ってたしな。いかな書物に執着していようと、女の子好みの書物を喜んで読む印象は相談役には、ちょっとない。


「遺跡でたまーに、ほとんど絵で構成されていて、文字が少ない書物が見つかることはあるそうなんだが、だいたい羊皮紙じゃない紙で作られていて、開くこともままならないくらい劣化してしまってるそうでなあ。

 そうなるとよくて死蔵品、最悪そのままゴミ扱い。まあ我々のような者が目にする機会がないわけさ」


 遺跡というのは、この辺りにあるとは聞かないし、見たことはないんだけど、時々地中を掘ると出てきて、大昔の時代の良く判らない道具のようなものや、金銀や、ごく稀に本が出てくる、大昔の建物の痕跡だそうだ。

 そういった場所を研究してる人たちが大きな街にはいくらかいて、その建物のあった頃は今よりずっとたくさん人間がいただろうって研究結果が出たって話を聞いたことがある。

 そういやこれも相談役情報だったなあ。


「羊皮紙じゃない紙?羊皮紙ってこの書物で使ってる革でできたやつだよな」


 作り方は前にこれも雑談で聞いた気がする。多分俺が一番よく話をするのは、この相談役だし、向こうからも結構マメに構ってくれるんだよな。

 暇なのかと思ってたこともあるけど、素を出さずに話してる事が殆どだったと思うから、多分結構気を使われてたんだろう、と今は思う。……なんでかは判らんけど。


「おうよ。これだってカネで買うと割といい値段なのだぞ。品質はさておき、羊皮紙ならなんとか自分で作れるから、これだけ集めることもできたがな。

 ”それ以外の材質”は……なんか植物で作ってあるんじゃないかとは言われておるが、製法が失われているのでなあ、材料まではさっぱり……お、文学というより歴史書に近いがこのへんならどうだ……?」


 やや自慢げに語りながら、巻物を積みなおしていた相談役の手が止まり、山の下のほうにあったひとつを取り出す。

 どうやら、探していた本命ではないが、それなりに使えそうと判断できる品が出てきたようだけど……


「歴史書?

 歴史ってあれ、確か、今より世界に人が沢山いたころに実際にあったことをまとめたもの、だったよな?」


 集落の人の仕事を覚える一環で、ここの書物の種類の話を聞いたときにそう教えられた覚えがある。

 まあその時1回きりで、俺はこれには向いてないなってお互い納得してしまったりもしたんだがな。



「ああ、歴史については、以前そう教えたな。よく覚えていたな、偉いぞ。

 ……こっちは、歴史かどうかは定かではない、はるか大昔の英雄譚、という分野だな。

 その話が書かれた時代に、既に語り継がれるだけの偉業をなしたり、大きな戦争で功績をあげたりした人物とその周囲の人の話。

 周囲の人物群に、主人公の恋愛関係もバンバン入っててな。

 全体の筋は複雑で、話そのものも長いものが多いが、語りやすい部分だけ覚えてみるのはアリではなかろうかね」


 うわ、なんか唐突に褒められたぞ。いやこれ褒められたのか?たぶん?


 何かのついでのように(実際ついで程度っぽい)俺のことを簡単に褒めてから、英雄譚というものの説明をしてくれる相談役。

 視線は書物に落としたまま、しゅるりと巻物を留めていた紐をほどき、薄い布を張り付けて飾られた表題の文字をなぞる。


「これが題名で……『アパルヴェージとシーリーン』……ってあーダメだこれはまだ子供にゃ早い……」


 読み上げた瞬間、なにやら相談役がしまったという顔をする。でも、それよりも。



 ≪シーリーン≫



 なんだろう……その単語を聞いた瞬間、それだ!!って思ったんだが、何がどうして、”それだ!”なんだよ、俺??

相談役は地味に気に入ってるくせに、外見設定が存在しなかったりします。

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