最終話
語り終えたラファエルは、深く深く頭を下げた。
「すみません……貴方には、本当に申し訳ないことをしたと思っています。それでも、それでも僕は、アンジェを取り戻せて嬉しかった……僕が毎月あの『赤いリボンの会』に参加していたのは、マリウス様のご遺族を見つけ、事のあらましを伝えたかったからです。僕にはその義務があると思ったからなのです」
「ラファエル、」
「ああサシャ、許されなくてもいい、憎まれても。本当に僕は、僕たちは……!」
崩れ落ち、座るサシャの脚に縋り付くラファエルの肩にサシャはそっと手を触れた。
ああ、なんて。
なんて兄らしい最期だったのだろうと。
「顔を上げてください。私は貴方に感謝こそすれ、憎む気持ちなどひとつもありません」
熱く湧き上がる思いが、胸の中を満たしていった。
アンジェは、ラファエルのたったひとつの希望だったに違いない。その希望を護りながら、兄は天に召されたのだ。
ブロンドの髪を持った美しい兄は、きっと最期の瞬間までも美しかったに違いない。
「そう、感謝こそすれ──」
ぽつ、と落ちたサシャの涙がラファエルの耳をかすめた。
ラファエルはおずおずと顔を上げ、覗き込むようにサシャを見つめた。サシャはラファエルに哀しく笑んだ。
「ありがとうラファエル。貴方と会えて、本当に良かった。兄は最期まで、兄らしく生きたのですね……兄はやはり、私の誇りでした。
私はそのことを知るために、あそこに通っていたのです。
ですがいつしか、私にはもう一つの目的ができていました。それは貴方に会うためです。貴方に会いたくて、毎月の15日を指折り数えて待っていたのです──そしてその気持ちは今も変わりません。いいえ今までよりも、ずっと強いものになりました」
「サシャ」
「私も、懺悔致します。許されなくてもいい、貴方を愛しています。例えそれが神に背く行為であったとしても、私は……」
続く言葉はラファエルの口づけに飲み込まれていた。
「ラ、……」
「僕の神はマリウス様と、ただ貴方だけです。サシャ」
「……ラファエル……」
「大切なマリウス様の代わりになるには、頼りないかもしれませんが……僕を貴方の側に、置いてはくれませんか」
耐えていた思いが渦を巻き、あふれ出してサシャの頰を濡らしていく。
「それは無理な願いです」
「え……」
「貴方はマリウスじゃない。代わりなどいりません、私はラファエル、貴方が欲しいのです」
「サシャ……!」
ラファエルのその温かな腕に包まれたとき、サシャは兄を失ったあの日から、初めて生きる喜びを見い出した。