第五話
かつてラファエルには、二人の弟がいた。
しかし度重なる父の暴力の果てに母が家を追われると、ラファエルはその後を追った。
幼い弟たちのことは心配だったが、病弱な母は身籠っていたのだ。
叔父のもとに身を寄せ、ラファエルは母の回復を待った。だが母は出産に耐え切れず、死産だった妹とともにこの世を去った──。
失意のまま家に戻ったラファエルが見たものは、がらんどうの家の中で酒浸りになる父の姿だった。
母とラファエルが家を出るとすぐ金に困った父は、容姿の美しかった弟たちを次々に富豪の男に売ってしまったのだ。
あまりのことに目の前が暗くなるラファエルに、更なる訃報が届く。
先に売られていた上の弟が、反革命の手引きをした咎でギロチンに掛けられたというのだ。まだほんの16だったというのに──。
父が弟たちを売った富豪の男は、荒々しい反革命家でもあった。弟たちは夜の奉仕のかたわら、その男の手足となって、諜報員として使われていたという。
弟の訃報が届いた夜、父は僅かな金を握りしめ賭場に向かった。そしてそれきり二度と帰ることはなかった。
このままでは末の弟も危ない。分かっていても、ラファエルにはどうすることもできなかった。
ラファエルは祈った。朝となく昼となく、末の弟──アンジェの命を、ただひたすらに祈った。