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ギロチン 〜Ruban rouge〜  作者: 凪緒
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第四話

**


 二日後の夕べ、パリ郊外に佇む牧歌的な木の家に迎え入れられたサシャは、家庭的な雰囲気のする室内に案内された。促されるままに椅子に腰掛ける。


 ここまでは緊張のあまりろくに彼の顔も見られなかったが、


「改めまして、ようこそ我が家へ。といっても、何もない家だけれど」


 恥ずかしそうに頰を掻く素顔のラファエルは、サシャの想像以上に精悍で、健康的な色気があった。

 何より驚いたのは、


「に、……さま……、」


 亡くした兄に雰囲気が似ている。

 どこをどうと言われても答えようがないが、身にまとう空気が、存在が似ていた。


 我知らず溢れた涙がボロボロとこぼれ落ちていく。サシャはそんな自分に驚き、口もとを押さえた。


「サシャ、どうか?」


 ラファエルが心配そうに眉を下げた。その仕草も、労わりの眼差しもやはり似ている。まるで乗り移っているかのように。


「すみません、兄に……よく似ているのです、貴方が」


「お兄様に? 僕が……?」


 少し考える仕草をしてから、ラファエルは思い切ったように口を開いた。


「サシャ、貴方のお兄様のことを聞いても良いだろうか? 僕は貴方のことを、もっと知りたい」


「……」


「幸いここには僕と君しかいません。外に漏れる心配はありません」


 確かにそうかもしれなかった。

 サシャはこっくりと頷いた。


「……革命当時、私は親元を離れ母の実家に住んでおりましたが──私の兄は、ブローニュの森近くの教会で、神父をしていました……」


「え……? ブローニュ、──神父ですって!?」


 ラファエルは大きく目を見開いた、


「サシャ、もしかしてその方はマリウスといつ名ではありませんか!?」


 懐かしいその名が彼の口から飛び出したことに、サシャは心臓が止まるほど動揺した。


「どうして知っているのです、……」


「ああ、やはり、それじゃ君が、君こそが……!」


 突然にサシャの手を握りしめたラファエル。その目もとにはなぜか、込み上げるものが浮かんでいた。


「ラファエル?」


「すみません、君がマリウス様のご遺族かと思うと──」


「ラファエル、あ……貴方はいったい、いったい誰なのです!」


 サシャは歓喜とも恐怖ともつかない感情に追い立てられた。


「驚かせてすみません。……僕が弟をギロチンで亡くしたことは、以前にもお話ししましたよね」


「え、ええ……」


「実はその後にも、僕は末の弟を亡くしかけたのです。お救い下さったのは、マリウス様でした」


「どういうことです」


「僕の弟たちはかつて、ブルジョワの富豪の男に金で買われました。そう、慰み者として──」


「ラファエル、それは……?」


「サシャ」


 ヘーゼルの瞳が語ったのは、こうだった。


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