表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

正義のヒーロー

作者: 若元彌々

 

 一方的な正義は気分が良い。

 正当性を持ち、倫理的に正しく、弱者を護るために握った拳は同量の金よりも価値がある。


 ――なんてことを言えば、酒の席でも他人は顔をしかめる。


 高2の夏である。女生徒から、気取って言えばボディーガード。単純な話としては、付きまとってくるストーカーに見せつける彼氏役として頼まれた。


 聞けばバイト先で話し掛けられて以来、毎日のように通いつめられ、プレゼントや手紙を押し付けて来るのだとか。

 最近はそれがエスカレートし、ついにはストーカーへと深刻化してきたとの話。


 ここまで聞いて驚いた事が3つ。

 外見クソ地味コミュ障ネクラ女のバイト先がメイド喫茶なこと。

 清楚系で人気と言いながら「小汚ない」だの「ハゲチビデブ」等の罵詈雑言がキレッキレで、同僚やオーナーへの陰口暴言中傷がストーカー問題の倍以上あったこと。

 証拠として見せられた手紙の内容が、官能小説も裸足で逃げ出す程に一方的な女とストーカー濡れ場だったこと。


 なら証拠持って警察行けとも思ったのが、親に黙ってのバイトらしく事件として目立ちたくない。

 シフトが増える夏休み前に追っ払わないと面倒事に成りかねないし、迷惑を掛けたくない。


 お金なら払うと5人の諭吉を渡されてしまえば、嫌々でも引き受けるしかなかった。







 それからの話?


 よくある三文小説。もしくは中学男子の妄想と同じ。


 人気のない夜の帰り道。


 女と寄り添い歩いていると、彼女目当てのストーカーがナイフを持って現れる。

「彼女から離れろ!」だの「愛してるのは僕なんだ!」だの「僕が救わなくちゃ駄目なんだ!」だのを気持ち悪く叫びながら切りかかってくる。

 ――が、そこはスーパー強い正義のヒーローが華麗に撃破。最後はヒロインと付き合ってエンディングって落ち。


 最後は嘘だけど。


 現実は第三者の通報でストーカーは逮捕。ヒーローは過剰防衛で怒られ、女は逃げておしまい。


 ドラマ性もなければ、夢もない。お話でしたとさ。


 え?女と付き合うみたいな武勇伝じゃないのかって?

 そりゃ退学してパパ活に走る、自称清楚系悲劇のヒロインと付き合いたいか?


 ?


 ああ、女が被害者でストーカーの妄想で襲われる話だと思っていたのか。








 早い話、全部女が仕組んだこと。


 金欲しさと歪んだ承認欲求から年齢誤魔化して、グレーなガールズバーに勤務。

 チヤホヤされたくても正攻法じゃ、どうしても上手く行かない。

 仕方がないと過激なサービスと口説き文句で得意客を量産。そしたらアフター狙いや拗れた男まで釣り上げた。


 バレる前に逃げたい。だか1人、自宅を知ってる奴がいる。ソイツだけは排除しなくては…


 でも、親も警察もオーナーでも。誰かに事情を話せば自身の違法行為がバレてしまう。


 そこで女は考えた。


「だったら力自慢のバカなヒーローを利用して鉄槌を下してやろう」


 まずはストーカーになるよう、他より愛を囁き彼氏が居ることを匂わせる。

 愛に狂い、居場所を知り、だめ押しに救ってくれと懇願し、彼氏を連れ出す計画を伝える。


 こうすれば、どうなろうと濡れ手で粟。


 ストーカーは返り討ちされたとは警察に言えない。

 仮にヒーローが怪我をしても未成年を襲った男の話は誰も信じないし、雇ったバカは金を積めば黙らせれる。

 その後に金銭を恐喝されれば、今度は訴えれば良い。だって、暴力しかないヒーローは社会の敵だもの♪


 まあ、頭の弱いバカが考えそうな。

 自分にとって都合の良い世界と掌で転がせる男たちって妄想だな。


 欲を満たすためにその場の感情で突き進んで、行き着くとこまで行っちまった。

帰り道を見失ったバカみてぇな話。


 ?


 ならこの話で誰が得したかって?









 ―――そりゃお前、ヒーローに決まってるだろ。


 ストーカーは捕まって実刑。

 女は闇に消えた。

 なら、ヒーローは?


 金をもらって自分より弱いヤツをぶちのめして、利用したと勘違いした崖っぷち女の背中を押して、世間からは騙され命の危機に直面した被害者。


 だから言ってるじゃん。


 一方的な正義は気分が良い。

人を呪わば穴二つ。負の連鎖というのは恐ろしいものです。何しろ正義を騙ったヒーローは、他人の人生を踏み台にしたのですから。

復讐を是とは申しませんが、怨恨を晴らす復讐はまさに"一方的な正義"とも言えます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 人間の欲深い側面を凝縮したかのようなお話は、多少毛色は異なるものの、生きている人間こそ一番怖いと感じずにはいられないものでしたね。 他人を陥れることで悦に入るというのもあるとは思います。が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ