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藁の動物

 温泉地を離れ、さらに西へ進んでゆく。

 ナデシコ国は山田のいた日本と酷似している。というのは現代日本と江戸時代の日本との違いに近い。

 例えば埋め立て地がナデシコ国にはまだあまり行われてないとか、火山活動による新島がないなどが挙げられる。

 また、日本がナデシコ国となっているように同じものでありながら名前が違うものが多い。

 富士山はナデシコ国でも同じ形だが、ナデシコ国では氷竜山となっている。

 地名もまた然りである。


 いつものように葵と次郎が景色を眺めていると、立派な川が見えてきた。

 海に繋がっているので下流で、その周りに集落が点在しているのが見える。

 変わった事を葵が見つけた。集落の所々に藁で作った動物が吊るされているのである。

 「兄上、あれはなんじゃろうなあ」

 「う~ん、分からない。祭りでもあるのかな」

 「姫様。それなら降りてみましょうか」良子が提案する。

 「そうじゃな。じい、集落に降りておくれ」

 「かしこまりました」

 

 屋敷が少し離れた空き地に着陸した。

 葵一行が集落に入るとあちこちに藁の動物が作られているようだ。

 「わあ、お姫様だあ。きれい~」

 と、葵の側に幼女がやってきた。

 「ふふふ。のお、こういう藁の動物はどういう意味があるのじゃ」

 「ああ、これの意味は分からないけど、大人の人が作ってるの」

 「ほほお。ならばそなたの親御も作っておるのかの」

 「うん。見に来る?」

 「是非見たい。案内しておくれ」

 幼女は見てほしかったのか、嬉しそうに前を走っていく。


 幼女の父親が出てきて挨拶をしてきた。

 「この子の父親の利兵衛です。もしや‥‥王の姫様‥‥」

 「葵じゃ。突然すまんなあ。他では見かけぬ藁の動物を見かけてのお。どういうものか知りたくて参った次第なのじゃ」

 「これはこれは遥々いらっしゃいました。そのような事でしたら、中にもございますので、狭いですがお入り下さい」

 中には利兵衛の妻がいて、お茶を淹れてくれた。

 葵は一口飲んでみた。

 「ほお!これは良いお茶じゃのお!香りも良い!兄上も飲んでたもれ」

 「有難うございます。この辺りは周辺地域に比べて高地であり、雨も定期的に降りますので意外と茶の栽培が出来るのです。お城で召し上がっておられるお茶とまた違っておりましょう」

 と、利兵衛の妻が言った。

 

 利兵衛が藁の動物をいくつか持ってきた。

 「これは牛、そして馬です。さらにこれは鷲で、こちらは熊でございます」

 「うん。どれも良くできておる。ただ、これらは一体何なのじゃ」

 「この辺りは水害が起こる事がありまして、その水害から集落を守る魔除けというわけでございます」

 「魔除けとな!」

 「はい。作る動物も大きな動物が選ばれます。また、鳥などは高い土地に逃げられるようにとの意味がございます」

 「なるほど。それならば治水はどうなっておる。本来ならそちらに力を注ぐべきじゃろう」

 「はい。何度か領主様にお願いをしているのですが‥‥」

 「動かんのか」

 「はい‥‥」

 「仔細よく分かった。すぐには出来ぬがやってみることにしよう」

 

 「良子、藤子。川の下流域に堤防を建設する!土木工事に必要な人材を集めて参れ!良子、王の印じゃ。兄上は領主が何故動かぬのか事情を探って下され!」

 三人が町へ走り出す!

 葵は集落の側にある川に行ってみた。水面に対して地面は少し上にあり、堤防というものはない。それが海まで続いているので津波にも弱い。


 良子と藤子が大量の人材を連れてきた!

 数千人単位の人海戦術で進めていける!

 川の両側に半分ずつ人員を分け、下流沿いにずらっと組ごとに並んでいく。

 お互いに競争するかのように土塁を築いていく。

 水面に対して平行だった地面が、みるみるうちに川を包んでいくように堤防が高くなっていく。

 次郎が戻ってきて報告する。

 「どうやら、この川の治水工事となると国家レベルの大規模工事になるので、予算が厳しいとの事だが、それは建前だ。賭博と女にはいくらでも金を出している」

 「ろくでもない殿方じゃのお‥‥自分のおさめておる領地には関心がないんじゃろうか」

 葵が懐から筆と紙を取り出してさらさらと書き始めた。

 「早鳥、出でよ!」

 葵が呼ぶと青い鳩のような鳥が現れた!

 葵は手紙を早鳥の足にくくりつけた。

 「行け!父上のいる城へ!」

 

 「では、兄上は藤子に代わり現場監督をお願いしたいのじゃ」

 「よし!引き受けた!」

 次郎は藤子と交代して指揮に当たる。こないだの集落の新築の家つくりや領主の不正暴きなどもそうだが、次郎は葵の元で動く事に生き甲斐を感じるようになっていた。

 弱き者を助け悪を許さない。警察官にはなれなかったが、葵といれば自ら動いて良い方向へ変える事が出来る!

 この旅は楽しい旅だけではない。世直し旅でもあったのだ。それにしても今まで箱入り娘だったとは思えない実行力に次郎は末恐ろしい姫様だと畏怖するのであった。







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