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温泉

 彭丈園は清島からさらに西にある。

 空から見たナデシコ国はほとんどが山や森が多く町は少ない。道も整備されていない場所が多く、川も堤防作りが一部しかされていない。

 「兄上、ナデシコにはまだまだやらなければならない事が多くて困るのお」

 「その小さな体で一人でなんでもやるつもりか。やるにしても、コツコツと出きることを少しずつやることになるだろうな」

 「う~ん。それはそうなのじゃが‥‥時間が欲しいのお‥‥」

 時間て、たしかに国家レベルの大工事となると人も費用も時間も相当掛かるが、七歳の姫が気にする事か、と次郎は可笑しく思った。小さい子供が背伸びして大人びる遊びのように見えたのだ。

 

 「姫様。彭丈園はまだ先でございます。少しいい場所に寄り道しましょうかな」と雲じいが言うと葵が急にワクワクしだした。

 「おお!雲じい、どこじゃ、どこに行くのじゃ」

 「ふおふおふお。着いてからのお楽しみです」

 「なんじゃ、もったいぶるのお。どこじゃろうなあ。兄上、どこじゃろう」

 「いやあ、オレもこの辺りの地域はよく分からないからなあ」

 「姫様。見えてきましたぞ」

 おお!と葵と次郎が景色を見る。

 町が所々あり、それぞれから蒸気が出ているのが見える。ただ、二人にはそれが何なのかは分からないようであった。

 

 町の手前にだだっ広い場所があり、そこに着陸する。葵一行が屋敷から降りると微かに硫黄の臭いが鼻をかすめる。

 「なるほど、温泉か」

 次郎が当ててみせると、葵は興味津々に聞いてきた。

 「兄上!温泉は言葉は聞いたことがあるのじゃが、お風呂ではないのか」

 「まあ、お風呂だけど、腰痛とか怪我に効果があるといった色んな成分が入ったお風呂っていうのかな」

 「ほお!それは良い!じい、良い場所に降りたものじゃ。えらいぞ!」

 「ははあっ!」

 

 早速葵は色んな温泉の効能を見て回る。

 「お!じい、この温泉は腰痛に効くようじゃ。ずっと腰が痛いと言うておったじゃろう。入ってくるがよい」

 「はっ。では行って参ります」

 「お!藤子、良子、この温泉は美容に良いようじゃ。入ってくるがよい」

 「かしこまりました」

 「兄上、この温泉は皮膚病に効くようじゃ。是非入ってくだされ」

 次郎は驚いた。自分が皮膚病になっているとは思ってなかったからだ。

 実はこの世界に来てから違和感があり、かゆみを抱えるようになっていた。だが原因が分からずそのままにしていたのだが‥‥

 「何故オレが皮膚病だと‥‥」

 「兄上は盗賊でしょう。しかも、時折痒そうにされておる。もしや、鎖かたびら等の金属が原因なのではと思うたのです」

 

 なるほどそうかもしれない‥‥

 万が一戦闘になった時にと防具として着こんでいたのだが‥‥

 葵は、よく観てくれているのだな‥‥

 

 「分かった。入ってくるよ」

 と次郎は温泉に向かって行った。

 残りは葵と与平になり、さらに見て回る。

 なかなか目当ての効能が見つからなかったが、結局は全ての効能を試してみることにした。

 

 温泉をそれぞれ楽しみ、屋敷に戻ってくる。雲じいが今日は運転しない、と温泉に浸かりながら酒を呑んできたようだ。

 良子と藤子はお互いの肌を褒めあって、スベスベね~と言いあっている。

 次郎は温泉が効いたのか、顔色も良くなって体調が良さそうだ。

 葵と与平はかなり遅く帰ってきて、朝頃入りに来たのに夕方に戻ってきた。

 勿論、連続で温泉に入ると湯あたりを起こすので十分間隔を空けたようだが、「七ヵ所ほど試してみたぞ。どれも違って気持ちが良かったのお」

 と、大丈夫なようだ。そのために医師の与平をつけていたらしい。

 

 「食事の用意が出来ました」

 藤子が声を掛ける。

 「おお!これは海の幸山の幸と豪勢じゃのお!さすがじゃ、藤子!頑張ったのお!」

 「有難うございます」

 良子はその間、葵の髪を綺麗に纏めていた。

 「姫様、出来ましたよ」

 と、鏡を葵に見せる。

 「おお!温泉効果もあってか、盛れておるのお!良子、良い出来じゃ!」 

 「有難うございます」

 「では、頂くとしよう」

 テーブルには初鰹とアジの刺身、春しらす丼、新じゃがのじゃがバター、春キャベツの漬物、ポトフなど様々な旬な料理が並ぶ。


 「おお!刺身がまた美味じゃのお!しらすも活きがいいのお!兄上、どんどん食べてたもれ」

 葵は本当に美味しそうに食べて、見てる方も幸せにしてくれる。

 しかし、いつものように一口ずつ食べて満足して、それ以上は食べない。体型維持も王族として行っているのだろうか。

 「葵もたくさん食べた方がいいんじゃないか。大きくなれないぞ」と優しく聞いてみた。

 「わらわは胃が小さいようでなあ。すぐお腹いっぱいになるのじゃ」

 「そうだったのか‥‥これは済まぬ‥‥」

 「ふふふ、わらわはの事は気になさらず、食べてたもれ」

 「そ、そういや、温泉なんだが、効果があったようだ。痒みが治まっている。有難う、葵」

 「それはようございましたなあ!たしかに血色もよくなられておる!」

 「じいも腰の調子が良くなりましたぞ。足も元気でいくらでも歩けそうですじゃ」

 「いつも操縦で疲れていたのじゃろう。今日はゆっくりしておくれ」

 良子と藤子も肌を少し見せて「私たちも肌がスベスベになりました!外だけではなく内側にも効果があるようで食べ物がさらに美味しく感じます」

 「それは余程お腹が空いていたのではないかえ」

 と言われ笑いが起きる。

 

 温泉は葵たちにこれからの旅の活力を与えてくれたようだ。

 次の地にはどのような事が起きるのか、この時はまだ誰も分からないのであった。







 

 

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