折り紙のバラ
時は少し遡り、次郎が屋敷を出て大和城に向かった後のこと。
雲じいが民の合掌が全て終わった事を確認して深い溜め息をつく。
「姫様‥‥これで全て終わりました‥‥最後にご覧いただきたい場所がございます‥‥まずはそこまで参りましょう‥‥」
雲じいは操縦席に座り、魔力を作動する。
屋敷が空高く舞い上がる。
東に進路を取り、ゆっくりした速度で進んで行く。
「わあああ!」
子供の声に雲じいが驚く!
「誰じゃ、誰か乗っていたのか!」
「おじいさん、わたし、テオ。葵にお花をあげにきた」
「誰ももういないと思っておったが、困ったな。今、海の上を飛んでいてな。着水するまで少し待ってくれ」
「分かった」
屋敷がゆっくり降りていき海の上に着水して屋敷を浮かべた。
「ふい~。テオよ、どこに隠れていたのじゃ」
「この家広いから色々見てた。そしたら突然飛んだからわたし慌てた」
「まあ、わしも部屋全部確認してなかったからのお‥‥テオ、姫様にあげる花は」
「これ。折り紙で作ったバラなの。色は青しかないけど、丁寧に作ったよ」
「ほお。器用に出来たものじゃな。姫様もお喜びになるじゃろう」
「うん!」
テオが折り紙の青いバラを葵の胸の上に乗せて手を合わせる。
すると!
葵の全身に刻まれた禍々しい模様が光り始める!
テオも雲じいも驚きながら見守っていると、禍々しい模様は浄化されるように消えていく!
「こ、これは!‥‥」
「葵!死ぬが生きるになるよ!」
葵から模様が全て消え去る!
心臓が動き始める!脈が流れ始める!呼吸をしている!
葵がゆっくり目を覚ます!
「葵!葵い~!」
テオが葵に抱きつく!
雲じいは腰を抜かして尻もちをつく!
「奇跡じゃ‥‥姫様‥‥奇跡ですじゃ!」
「テオか‥‥じいもおるのお‥‥お腹空いたのお」
葵が生き返った!
葵自身も確かに自分は死んだはずだが何故と思っている。
雲じいが即席でお茶漬けを用意すると、テオもお腹が空いていたらしく、素早くお茶漬けにありつく。葵も行こうと起き上がると床に折り紙の青いバラが落ちる。
「これは青いバラ‥‥」
葵は思い出す。青いバラの花言葉は不可能だと。それは青いバラを作ることが出来なかったからだが、その後研究が進み作ることが可能になった。
そこから花言葉に「不可能を可能に」が加わったのだと。
やはり、わらわは一度死に、生き返るのは本来不可能じゃったが、民の皆の祈りが集まり、青いバラが奇跡を起こしたのじゃな‥‥
終わったはずの人生をまた歩ませてもらえる‥‥
有難いのお‥‥
葵がお茶漬けを食べる。
今まで一口しか食べる事が出来なかった。
二口食べる。
三口食べる。
美味しい‥‥
まさに五臓六腑に染み渡るような感覚‥‥
美味しい物をお腹いっぱい食べられる幸せ‥‥
呪いは本当に消え去ったという実感‥‥
「そういやじい、他の者は皆大和城へ戻ったのかの」
「はい‥‥与平以外は‥‥」
「与平はどうしたのじゃ!」
「恐山へ向かいました‥‥」
「恐山じゃと‥‥何をしに行ったのじゃ!」
「そこは霊山と呼ばれていまして‥‥姫様に呪いを掛けた安親を術者に降ろし、話すことが出来るようで‥‥」
「呪いを解きに行ったのかえ!」
「はい‥‥そして与平は姫様の呪いを自分に移し、呪い殺されました‥‥」
「そうであったか‥‥わらわが召される前、憑き物が取れたような気がしておった‥‥既に与平が呪いを引き受けていたのじゃな‥‥」
葵は与平を思い涙を流す。
「与平は‥‥わらわが呪われてから全ての時間を解く事だけに費やしておった‥‥最後の最後に呪い殺されたじゃと‥‥」
「姫様‥‥与平は主人の為に死ぬ覚悟は常に持っておった‥‥呪い殺されるのも、姫様の為ならば本望でございましょう‥‥姫様の一番の忠臣とお褒め下され‥‥」
「与平の忠義は‥‥日々痛いほど分かっておるわえ‥‥与平がおったから、わらわはここまで生き長らえたのじゃからな‥‥」
しんみりした雰囲気を壊すようにテオが割って入る。
「おじいさん、おかわり、いい?」
「おお‥‥いっぱいお食べ」
「じい。わらわにもおかわりをおくれ。漸く人並みに食べる事が出来て身体が喜んでおるのじゃ」
食事を終え、景色を見る。
360度海にいる!
空は快晴。波は穏やか。四月の爽やかな風が吹いている。
「陸が見えぬとは‥‥これは、良い場所じゃ‥‥じい、えらいぞ!‥世界は広いのじゃなあ」
「ははあっ!」
「海!テオも海好き!」
「姫様。海は世界の七割を占めます。未来では世界中から飛行物や船が行き交う事になるでしょう」
「他の国はどういう暮らしをしておるのかのお」
「姫様、興味がありますかね」
「もし、良い国であれば見習うところもあろう。悪い国があれば警戒する事も出来る」
「さすがでございます、姫様」
「葵、頭いい!」
「ところでテオは帰らねばならぬじゃろ」
「う~ん、そうだね‥‥」
「じい。まずは先住民の村へ行こう。その後、大和城に帰ろうぞ」
「承知いたしました!」
先住民の村に到着し、テオと別れ際に葵は折り紙の青いバラを渡した。
「テオよ。このバラはそなたに持って欲しい。この花には不可能を可能に、という花言葉があるのじゃ。絶滅を待つだけだった先住民の集落に、こちらから人を送り絶滅は免れたとは思う。じゃが、元々文明が違う人種同士、不安もある。この青いバラを持ち、末代まで子孫を守るのじゃ。わらわもその手伝いをさせてもらうぞ」
「難しい話しは分からない‥‥でも大丈夫!任せてよ!」
「そ、そうか‥‥まあ、わらわがついておる!」
「わたしは葵生きてる、それが嬉しい!」
「テオ、感謝しておる。テオがわらわに奇跡をくれたのじゃ‥‥」
屋敷が飛び立つ!
北東へ進路を取る!
「じい。他の国は行った事あるのかえ」
「じいも行った事はございません。もし行くのならば楽しみですなあ」
次郎が空を見上げて、葵のお陰だ、と思っているところに何かが近づくのが見える!
近づくにつれ、屋敷だとはっきり分かってくる!
「何故、屋敷が来るんだ!海に行ったのではなかったのか!」
「どうした次郎」
「葵姫が召されたので雲さんは姫ごと屋敷を海に沈めると言っていたのだ!」
庭にいる次郎と太助の近くに屋敷が着陸する!
屋敷から雲じいが降りる!
続いて葵が降りる!
「葵!生きてる!どうして!良かった!‥‥」
「ふふふ。旅のお供、ご苦労であったなあ。正真正銘、葵の兄上になられましたかえ」
「ああ!オレのやりたい職にも着けた!葵のお陰だ!有り難う!有り難う!」
「つもる話しもありましょう。続きはお城の中で。さ、兄上。参りましょう」
こうして葵と次郎たちの一年に渡る旅は終わった。
その後の活躍は新調完治の小説に記載されていくのであった。
『完』




