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桜吹雪

 集落を放置した領主の池田秀則は王の城である大和城から来たお目付け役、石川成国にこってり搾られていた。

 「‥‥さらに、集落の斉藤家の藤兵衛は三年前の六月三日に家族から引き離した上、炭鉱掘りを一日十八時間労働させておきながら、ろくに休憩も与えず、休暇は一日もなかった‥‥真であるな」

 「はい‥‥その通りでございます‥‥」

 「中島殿、如何でござる」

 「始めこそ一日十八時間でしたが、二年前の五月からは二十時間労働をさせておるようでござります」

 「池田‥‥この期に及んでまだ嘘があるではないか。三回ではなく、倍の六回棒を打て!」

 「ひいっ!お許しを!ぎゃああっ!」

 集落は十二世帯あり、一世帯ずつ照らし合わせて、真なら三回、嘘なら六回棒を打つ罰を与えていた。


 「また、斉藤家に残された藤兵衛の妻イネとその娘ぎんに対して相当な保護を約束したそうだが、いかほど保護したのだ」

 「こ、小判‥‥」

 「まだ嘘を重ねるなら、三倍にしよう」

 「ひ、まったく‥‥保護しておりません‥‥」

 「では三回打て!」

 

 散々棒で打たれた池田秀則は身体をぼろ雑巾にされた上、領地没収、さらに財産差し押さえ、懲役七十年の刑となる。

 ろくでもない領主だったが、真面目な部下はいた。池田に閑職をさせられていた大畑麦左衛門だ。

 石川成国は麦左衛門を新領主に任じて、池田の領地及び財産を引き継いだ。

 なお、麦左衛門が領主となってからは集落は手厚い保護を継続しており、その他の政も不正なく健全に行われているという。



 一件落着して、葵一行は西を目指して空を飛んでいた。

 そして、集落の皆も全員乗せて桜の名所、清島に向かっているのであった。

 「姫様あ、あそんで~」と、4つになる女の子が葵にせがむ。

 「よいぞ。普段はどのようなあそびをしておるのじゃ」

 「う~ん、おてだまとかあ、おはじきとかあ、おいかけっことかあ」

 「では、教えてくれぬか。わらわはどれもしたことがないのじゃ」

 「うん。じゃあ、おてだまね」

 と言って葵におてだまを教え始めた。


 次郎はまたそれを眺めながら違和感を覚えた。

 葵は幼子のあそびを何も知らないのだろうか‥‥

 だとしたら城の中で、いつも何をして遊んでいるんだろう‥‥

 友達や教えてくれる年上の子とかいてそうだけどな‥‥

 

 「そろそろ清島でございます」

 雲じいが言った。

 「おお。楽しみじゃのお!皆の者、花見の準備は良いか」

 「は~い!」

 葵の呼び掛けに皆が応える。

 女の子たちは新しい家や衣服を与えられた事もあって、気持ちが初めて会った時に比べて段違いに明るくなった!

 保護者の女たちは未だに信じられない気持ちを混ぜながらも、子供の変化を嬉しく感じているようだ。


 小屋敷が静かに着陸する。

 外に出ると、そこは残雪を乗せた山脈を後ろに手前には桜の木で埋め尽くされた見事な景色であった。

 勿論、手前だけではない。後ろも横も、綺麗な間隔を置いてそれぞれが美を競うように咲き誇っている!

 良子と藤子がテキパキと花見の準備に掛かる。

 葵は皆が動いている中、一人夢の世界に来たように周りの景色に見惚れていた。

 

 今日も良く晴れ渡り、桜と山脈のコントラストが素晴らしい。

 「おお。おお。おお~!おお~!」

 葵はその場でくるくる回りながら景色に興奮している。

 「桜とはこれほど美しいのか!ナデシコ人が長年愛して止まぬはずじゃ!」

 「姫様あ、お食事の準備出来ました~」藤子が呼び掛ける。

 「おお。済まぬ済まぬ。そちらにいくわえ」

 葵も席に着き、お花見が始まる!


 「皆の衆、お待たせじゃ。これよりお花見を始める!良いか、花をちゃんと見て食事もするのじゃぞ!」

 葵の変な挨拶に笑いが起きる。

 この日は、普段診療室に籠りきりの与平も花見の席に着き桜を楽しんでいる。

 

 女の子たちは桜は綺麗と思いながらも、やはり食べ物に心を奪われている。

 次郎はそれを見ながら、この世界でも花より団子なんだな、と微笑んでいる。

 雲じいは本当はお酒を呑みながら桜を観たいのだが、飲酒運転になるので控えている。

 良子もまだ十歳なので藤子の作った料理を花より楽しんでいる。

 藤子も実は料理派の方らしく、自分の味付けに満足しているようだ。


 「葵。皆楽しそうで良かったな」

 次郎が葵に言うと、「はい。楽しめるということは、心に不安がないからでしょう。毎日の生活に希望があれば花見以外の事でも楽しめるはず」

 「そうだな。あの葵の指揮は見事であったなあ。まだ七つなのに王の娘だから出来るってもんじゃないだろう」

 「いいえ兄上。王の娘だから出来るのです。国を動かせるのは王族のみ。それが七つの娘でもやらなければならないのです」

 次郎は、葵に強さを感じていた。王族の血とは、やはり庶民とは違うのだ。人を動かす力、国を正す力を生まれながらに持っている。

 

 食事が一段落した頃、風が少し強くなる。

 周りの桜がざわめき、花を散らしてゆく。

 大規模な桜吹雪‥‥

 次郎は、山田の頃もこれほどの桜吹雪は見たことがなかった。ふと、葵を見ると涙を流しているのに気づいた。

 「どうした、葵」

 「兄上‥‥何故あのように生き急ぐのでしょうか‥‥満開の美しい時は刹那とばかりに終わろうとしておる‥‥儚いのお‥‥」

 

 子供たちが桜吹雪を見てはしゃいでいる中、葵は涙を流しながらいつまでも見つめているのだった。







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