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旅の供のこれから

 次郎が沈痛な表情で民の前に出る。

 「皆さん‥‥葵姫の呪いを解くために遥々来ていただきありがとうございます‥‥」

 呪いが解けたと期待していた民が次郎の表情を見て、まさか、という思いで静かになる。

 「姫様は‥‥先ほど天に召されて‥しまいました‥‥」

 民に動揺が広がる!

 「そんな‥‥」

 「姫様っ!」

 次郎が続ける。

 「姫様の最後は呪いの苦しみからは解放されたかのように柔らかいお顔をされていた‥‥だが、三年以上に渡る呪いの責めに身体が限界となり‥‥」

 

 次郎は涙を堪えながら民に提案する。

 「そこで遥々ここまで来てもらった皆さんに、姫様に手を合わせてもらえないだろうか」

 

 数万人の民が順番を守って屋敷に入り、障子を開け放った部屋で横になっている葵に向けて手を合わせていく。

 

 良子と藤子が泣きながら身支度をしている。二人は雲じいからも城に戻るように諭され、帰る準備をしている。

 

 「良子さん、藤子さん。姫様の言う通り旅はここまでですじゃ。お二人はまだお若い。良子さんは益々お綺麗になる。お世話係として姫様の事をよく見てこられたと思う。姫様に負けぬくらい聡明で優しい方になりなされよ‥‥」

 「はい!‥‥」

 「藤子さんの料理は絶品じゃった。わしも食事の時間は楽しみでなあ。もう食べられないのは残念ですじゃ。これからは好きな御方と仲睦まじく幸せになりなされよ‥‥」

 「はい!‥‥」

 

 良子と藤子は葵に手を合わせ、雲じいと次郎に礼をして屋敷をあとにした。

 

 左近と椿が屋敷に到着する。

 「姫様‥‥」

 「姫様っ!」

 「左近さん、椿さん。せっかくオレの提案に付き合っていただいたのに‥‥」

 「次郎殿に賛同して動いた結果でございます。致し方ありませぬ」

 「また、与平様は恐山にて呪いにより亡くなりました‥‥」


 次郎は確信を持った。葵の呪いは最後の最後に解けていたのだと!

 そして、その呪いを与平が引き受けて召されたのだと!


 「拙者どもも全国を周り、至らぬ事が多いと思い知らされた。姫様の早鳥が来なければ、今も大和城の警護をしていただろう」

 「左近殿もそうだが、私にとって全国を巡回する仕事はライフワークとなる。今後は隊を組み、簡単な問題ならその場で解決出来るようにもしたいのだ」

 「そして、姫様がこの一年やってこられたこの計画を引き継ぎ、拙者と椿殿で継続していく所存」

 「姫様には感謝しております。早速その感謝を伝え、一度大和城の陛下に報告したいと存じます」


 左近と椿は葵に手を合わせ、臣下の礼をとり大和城へ去って行った。


 民が順番に葵に手を合わせていく中、屋敷のメンバーは、次郎と雲じいだけになる。

 「次郎様。大和城には行かぬのですか」

 「オレは何のためにこの世界に来たんですかね‥‥」

 「ふむ‥‥」

 「オレはこの世界で盗賊として転生しました。縁があり、こうして姫様たちと旅をお供するうちに、盗賊スキルで姫様を助ける場面もあって、その為にオレはこの世界に来たんだと思っていたんです」

 「違うとお思いで‥‥」

 「姫様が天に召されてしまった今、お役に立てる相手がいない‥‥これからオレは何のために生きていけば‥‥」

 「その答えは大和城にあるのではないでしょうか‥‥」

 「大和城‥‥」

 「姫様は、次郎様に大和城に行き陛下に会うようにおっしゃられた。まずは、その通りなさるべきかと」

 「雲さんはどうするのですか」

 「民の合掌が終わり次第姫様と海にでも参ります」

 「海に‥‥」

 「そこで屋敷ごと沈め、海の藻屑となるつもりでございます‥‥」

 「雲さん!‥‥」

 「機械いじりしか出来ないわしですが、綺麗な土地に着くと、良い場所じゃ、じい、えらいぞと褒めていただくのが、嬉しくて嬉しくて‥‥」

 「‥‥」

 「まだ姫様に見ていただいてない、とても大きな海がありましてな‥‥目に入る全てが水平線。そんな広大な海へ姫様をお連れしたい。あの世で、良い場所じゃ、と褒めていただきたいのですじゃ‥‥」

 






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