呪いの責め
先住民の村や本州からの移民の村を回り、次郎が本州に戻りまた町や村に入ってお祈りのお願いをしていく。
そのお願いは次郎の思う速度以上に広がりを見せる!
次郎が移動する時に木に登り、枝から枝へ飛んでいると下では民族大移動のような光景が目に入る!
全て葵のお祈りの為に北部へ向かう民たちだ!
この民たちは一人一人が葵に対して何かしらの恩を感じている!
この人々の動きは大きなうねりとなり、本州の人々を巻き込み、一つの大きな思いの塊となる!
葵‥‥
信じられない数の人々が葵の呪いを解く為に北へ向かっている!‥‥
葵がこの一年頑張ってきたことが、葵が民に対して愛情で応えた結果が恩返しのお祈りという形で帰ろうとしている!‥‥
呪いなんかに負けるな!‥‥
いや‥‥
葵は人一倍頑張ってきたんだ‥‥
それにこれだけの人々に愛されているんだ‥‥
呪いなんかに負けるはずがない!‥‥
葵、今そちらに行くぞ!‥‥
一方、恐山では、与平が安親に詰め寄る。
「納得いかぬと申していたが、それは私もだ」
「何が納得いかぬ‥‥」
「そなたが呪いの対象にした者が誰になったか分かるか」
「‥‥」
「三代目伊右衛門の娘、葵姫だ!」
「姫‥‥」
「当時三歳の姫様は自分が呪いに掛かると分かっていながら父、伊右衛門に王になるよう薦めたのだ!」
「なんだと!」
「葵姫は自分が呪いに掛かりさえすれば、他の者に害はない。徳俵の将来に心配はないと望んで受けたのだ!」
「‥‥」
「安親殿。そなたは一騎討ちを勝政に所望したかったように、正々堂々な事が好みではないのか。ならば、呪いの対象は姫ではなく、男の方が良いだろう」
「それは‥‥そうだな‥‥」
「私は三代目伊右衛門の弟だ。伊右衛門が王を辞退しておれば私が三代目の王になっていただろう」
「お主が‥‥」
「徳俵与平である」
「なんと!」
「安親殿。これより葵姫の呪いを解き、私に呪いを掛けよ!」
葵の屋敷に、全国からきた民が集まってお祈りを始めている!
そして、屋敷の中では葵が呪いに苦しんで叫ぶ声が響く!
「ああ---っ!熱いっ!」
「姫様っ!全国の民が来てくれました!」
「姫様っ!お祈りをお聞きください!」
葵から尋常ではない汗が流れている!
一旦収まっても何度も襲い掛かる地獄の熱さが葵を苦しめる!
あまりの熱さに壁に爪を立てた痕が幾つも幾つもある!
その爪も剥がれ、出血している!
耐えるために歯で唇を激しく噛んでしまう!
「姫様っ!姫様っ!」
「姫様っ!お気をたしかに!」
「ああ--っ!」
葵の気力が限界となり気絶する。
良子と藤子は葵に水を流し、綺麗に拭き取り、布団へ運ぶ。
二人は屋敷の外に出て泣きながら民に話す。
「姫様はそなたたちの祈りに応えるべく必死に呪いと戦っておられます!」
「そのお姿は元気な頃とは比べられぬほど精も根も尽きようとしておられ、とても憐れな状態!」
「しかしながら、遥々そなたたちが参られたことで、祈りの声はよく聞こえております!」
「姫様が死力を出せるよう、励ましてくれぬか!民の声が姫様には一番の励みとなる!」
「姫様が愛した民の声が一番なんです!‥‥」
「どうか!力を貸してください!‥‥」
民が二人の訴えに応える!
「応!任せてくれっ!その為に俺たちは来たんだっ!」
「呪いなんかに負けちゃだめ-っ!」
「姫様っ!元気になってえっ!」
「姫様!わしらがついておりますぞ!」
屋敷の取り巻きが時を重ねるにつれ幾重にも増えていく!
「葵!テオも来た!友達助けに来たよ!」
「身体の弱かったおっ母も元気になったんだ!姫様も絶対元気になってよ!」
次郎も到着して屋敷の中に入る。
「良子さん、藤子さん!葵の容態は!」
「今は気を失っておられます!しかし、度重なる呪いの責めに気力も体力も限界を超えております!」
次郎が横たわる葵を見る。
さらに深刻な容態だ!
爪が剥がれ唇も血が出ている!
顔からも精気が失われ、生きているのも奇跡のようだ!
「葵‥‥皆来てくれているぞ‥‥皆、葵に元気になって欲しいんだ‥‥葵はナデシコの姫なんだ‥元気でなくちゃ‥‥いけないだろ‥‥」
次郎は泣きながら笑って話す。
「テオだって遥々来てくれたぞ‥‥友達の願いは叶えるものだ‥‥頼むよ‥葵‥‥」




