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北部の屋敷へ

 葵がふと目を開ける。

 「じい‥‥」

 「姫様!痛みはありませぬか!」

 「今は大丈夫‥‥じゃ‥」

 「不条理でございますなあ‥‥安親め!呪いならこの雲に掛けよ!‥‥わしみたいなものが七十を過ぎて生きておるのに、姫のような聡明な方がこのような‥‥」

 「そのような事‥‥申すでない‥‥じいのおかげで‥旅は‥‥楽しいものと‥なったのじゃ‥」

 「旅はまだ終わっておりませぬ‥‥まだ見ていただきたい土地がいくつも‥いくつもありますのじゃ‥」

 

 雲じいがまた一口酒を呑む。

 「姫様、北限島はいいですぞ。本州にはない広さを感じられましてな!見るだけでその雄大さに一皮剥ける思いになるのです!」

 「ふふ‥‥目に浮かぶ‥ようじゃの‥‥」

 「一目‥‥一目見ていただきたい!‥‥与平‥頼む‥安親を鎮めてくれ!」



 一方、左近たちから葵が呪いに苦しまれている事を聞いた民の一部の者たちが、ナデシコ北部にいる葵の屋敷へ向かっていた。

 「お父う。ぼくたちがお祈りしに行ったら姫様、喜んでくれるかなあ」

 「ああ。姫様はきっと喜んでくださる。それに遠くからお祈りするより心強く思って下さるはずだ」

 「姫様は命の恩人なんだ!一生懸命お祈りする!」

 「そうだな。今年の夏は暑かった。熱中症で倒れたお前だが、全国に広がった熱中症対策のおかげで助かる事が出来たんだ。今度は姫様を助ける番だ」

 

 他にもこんな男がいた。

 俺はろくでもない男だ‥‥

 不器用な俺は仕事でもうまくいかず、その腹癒せに妻や子供に八つ当たりしてしまった‥‥

 初めは子供に手を掛けるのは躊躇いがあったが、妻を殴り蹴る俺を恐がり、泣き叫ぶ子供を見てイライラが増した‥‥

 そして、初めて子を殴った‥‥

 躾なんだと自分を偽りながら‥‥

 職場では下っ端の自分も家では逆らう者はいない‥‥

 それを良いことに妻を子を殴り続けた‥‥

 だがある日、神社仏閣が暴力暴言から逃れるための駆け込み場所となり、妻は子を連れてどこかの神社へ逃れて行った‥‥

 独りとなった俺は仕事から帰ると、自分で飯を作らないといけないことに気づいた‥‥

 洗い物も、着物の洗濯も、家の掃除も、自分がやらなければならない‥‥

 全部妻がやってくれていたのに‥‥

 あんなに殴られながらも妻は毎日家事をしていたんだ‥‥

 子供も本当は可愛がりたかったんだ‥‥

 でも、俺は愛し方が下手だった‥‥

 何しろ俺も愛されずに育てられた‥‥

 俺は‥‥

 愛し方を知らないんだ‥‥

 だが、神社仏閣に駆け込めるようにした姫様には感謝したい‥‥

 あのまま暮らしていたら、いつか妻と子をこの手で殺めていただろう‥‥

 それを止めて、間違っているんだと教えてくれたんだ‥‥

 その姫様が呪いにより苦しまれている‥‥

 何も出来ない不器用な俺でも姫様のためにお祈りする事は出来る!‥‥

 今までしてきた罪を亡ぼすつもりで‥‥

 姫様に代わり呪いを被るつもりで‥‥

 命を掛けてお祈りするんだ!‥‥


 また別の者は。

 うちの村にはお医者様が居なかった‥‥

 私たちもそれが当たり前だと思っていた‥‥

 ある時、流行り風邪に村が襲われて半数の民が病に伏せてしまった‥‥

 病に対して知識のない私たちは、それでも病の者を救いたいと不用意に近づき感染していきました‥‥

 でも、姫様の働きかけで医者のいない村に医者を派遣してもらい、全ての民が助かりました‥‥

 そんなお優しい姫様が呪いに苦しめられていると知り、恩をお返しするなら今だと‥‥

 お助け出来るのは今だと思い至ったのです‥‥

 姫様‥‥

 今、参ります‥‥






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