言霊
与平が医務室から出てきた。
次郎が駆け寄り葵の様子を聞いた。
「今は落ち着いておられますが、かなり衰弱しております‥‥」
「与平さん‥‥呪いを解く方法は無いのでしょうか‥‥」
「呪いについてはたくさん調べました‥‥可能性はいかほどか分かりませんが、呪いを掛けた本人に怒りを鎮めてもらう‥‥あとは‥祈る事しか‥」
「しかし、呪いを掛けた牛島原安親は討ち取られて死んだと聞いてます‥‥祈るしかないのか‥‥」
「色んな鉱石を当ててみたり、神具の力を借りた事もありましたが効果はありません。せめて安親と話す事が出来れば‥‥」
「死者と話すなんて出来るわけ‥‥与平さん!ナデシコには霊山と呼ばれる場所は無いでしょうか!」
「霊山‥‥」
すると、良子が割り込んできた。
「私、聞いたことがあります!しかも、この北部地区にあるらしくて、恐山と言われています!」
「ナデシコにも恐山があったのか!」
「なんでも、そこには死者を自分に降ろす事で一時的に死者と話す事が出来る術者がいるらしいのです」
良子がそう言うと与平は決意したように立ち上がる!
「では、私は恐山に行って参ります。その間、姫様に異常が診られたら根気よく深呼吸をさせてください。また、熱いと言ってこられたら、お体に水を掛けて下さい。僅かですが呪いを流す効果はあります。流したら水を全て拭き取る事を忘れずに」
「与平さん。ならばオレを連れて行ってもらえませんか」
「いえ。私が必ず鎮めて参ります」
次郎は与平の静かだがその凄みにそれ以上言えなかった。
与平が早速恐山へ向かったのを見て、次郎も何か出来ないかと思案する。
次郎がふらふらと医務室に入る。
葵を見て次郎は愕然とする!
あの元気だった姿はもうない。七歳とは思えないくらいやつれ果てている。
こんな事が‥‥
息をするのも辛そうだ‥‥
なんで民のために頑張ってきた葵がこんな目に遭っているんだ‥‥
それにテオに会うまで友達もいないと言っていたが、呪いに苦しめられて作る事が出来なかったんだな‥‥
こんな可哀想な事があってはいけない‥‥
「藤子さん。左近さんと椿さんを呼ぶ事は出来ますか」
「はい。私の早鳥を使えばどちらかに」
「私も早鳥を使えますのでそれぞれに出しましょう」と、良子も早鳥を出した。
「では、お二人お願いします」
藤子と良子の早鳥が凄いスピードで左近と椿の元へ飛んで行った。
「では、オレも太助という者を呼びます」
数日後。
左近、椿、太助が屋敷に到着した。
次郎が医務室にいる葵を見せる。
「太助は知らないと思うが葵姫は二十年前の牛島原安親という者から呪いを受けている。旅に出てから暫く音沙汰なかったのだが、また呪いの力がでてきたようなんだ」
「次郎。姫様を救える手だては無いのか」太助が聞いた。
「それについて与平さんがずっと調べていたんだが、呪いを掛けた牛島原安親の怒りを鎮めるか、あとは祈るしかない、と」
「なんだって‥‥死んだ安親の怒りを鎮める事など出来る訳がない」
「いや、与平さんはそれをやりに出掛けて行ったよ‥‥」
そこで、左近が気づく。
「そうか‥‥恐山‥」
「はい。しかし、与平さんは必ず鎮めてくる、と、邪魔はされたくない様子でした」
「ならば私たちは何をすれば‥‥」と椿が言う。
「オレたちが全国をまわり、民に祈りを協力してもらいにいく!」
「祈り‥‥」
「呪いは病ではない‥‥だから皆が出来る事、祈りで対抗するんだ」
「しかし、それで解けますでしょうか」左近が聞く。
「口に出した言葉には力がある。言霊と言って前向きな言葉を発すれば行動も前向きになる。不可能を可能にするには祈りを口に出して姫をお救いするのも有効だ!しかも一人で、やるんじゃない。民を巻き込んで姫を救うんだ!」
次郎にこう言われて三人は希望を感じる!
「分かりました。やってみましょう。拙者はナデシコ北部、北限島へ周りましょう」
「私は関八州を周ります」
「では、俺はナデシコ西部をまわる!次郎はその先を頼むぜ!」
「分かった!藤子さん。良子さん。葵が改善したら早鳥を飛ばして下さい。では、行こう!」
四人は移動スキルをふんだんに使い四方に散らばって行った!




