呪い
「兄上‥‥未来を語るのは楽しいのお‥うっ!」
「どうした、葵‥‥葵!血がっ!与平さん!」
次郎が慌てて与平を呼びに行く!
与平もついにきたかという表情で葵の口から血を拭い、医務室に運びこむ!
与平は次郎が入ろうとするとそれを拒んだ。
「次郎様、これは病ではありません!入ってはなりませぬ!」
次郎は急に生気を吸われたようにへなへなと座り込んだ。
一体どうしたと言うんだ‥‥
さっきまであんなに元気だったじゃないか‥‥
それに病ではありませんって‥‥
病じゃなかったらなんなんだよ!‥‥
そこへ、良子と藤子が屋敷に戻ってきた。
「良子さん!藤子さん!葵が先ほど血を吐いて、医務室に!」
それを聞いた二人は、ああ!と座り込んでしまった!
「与平さんは、病ではないと言っていた。葵はどうしてしまったんだ!」
藤子が涙を流しながら話し出す。
「‥‥姫様には‥‥呪いがかけられているのです‥‥」
「呪い!‥‥」
「あれは二十年前の事です‥‥」
二十年前、戦国時代最後の戦いが本州北部の地にて行われていた。
本州のほとんどを攻略した徳俵家と日本でいう北海道を領地とする牛島原家の間で争われた!
だが、牛島原家、五万の兵に対し、徳俵家は二十三万!牛島原の兵は圧倒的な兵力を前に蹂躙されていく!
「殿!ここは体勢を立て直すべく、殿だけでも北限島へお逃げくだされ!池山が船を用意して待っております!」
「致し方なし!そなたたちも隙を見て逃げるのだぞ!」
配下に活路を作ってもらい、単騎で総領、牛島原安親が船を目指して馬を飛ばす!
だが!
「むっ!落とし穴だと!‥‥」
こうして牛島原安親は徳俵伊右衛門の叔父、徳俵勝政の前に引き出された。
「安親‥‥そなたと最後に争うことになろうとは‥‥」
「うるさい!勝政、早よう斬れ!」
「芝原。縄を解け」
「はっ!」
勝政は芝原に命じて安親の縄を解いた。
「なんのまねだ!勝政!」
「わしはそなたと政治をしたかった‥‥しかし、運命はそうさせず、わしらを争わせおった。安親‥‥わしは戦いたくなかった‥‥大軍で押し寄せたのも降伏して欲しかったからじゃ」
「‥‥」
「安親。わしはそなたを斬らねばならぬ。最後に酒を呑まぬか」
「いらぬ!斬らねばわしがお主を斬る!」
と、安親が立ち上がり勝政を襲おうとした!
「御免!」芝原が安親の背中を斬る!
安親が悪魔のような顔で勝政を睨み付ける!
「勝政あっ!最後にお主の家に呪いをかけてやるわ!お主から数えて四代目!楽には死なせぬ!地獄のような苦しみを与えて呪い殺してくれる!」
勝政もこれには恐怖を感じて、芝原に首を斬るよう命じた。
その後、徳俵勝政はナデシコ国王となり、全国を統治する事になった。
だが、一年後に原因不明の病で勝政が崩御した。
勝政はこの時代としては高齢だったので取り沙汰されることはなかった。勝政の嫡男、勝義が二代目となると、十六年後に崩御した。
三代目は順当なら次男、勝久なのだが、噂されていた呪いが自分の子に降りかかるのを恐れ、出家してしまった。
さらに三男、豊市も出家してしまう。
だが、このまま王が決まらないのも国のためによろしくない。そこで、白羽の矢がたったのが勝政の弟の嫡男、伊右衛門であった。
だが、既に伊右衛門は一子と結婚しており葵が三歳になっていた。伊右衛門は悩む。自分が王になれば娘とはいえ四代目と見なされ呪いを受けてしまうのか、と。
伊右衛門自身も頼まれたら断れない性格。国王をこのまま空位に出来ない!しかし‥‥と思っていると、葵が伊右衛門に話す。
「父上。王になってくださいまし」
「葵。わしが王となれば呪いはそなたを四代目とみなすやもしれぬのだ‥‥そうなると、そなたはただでは死ねぬ。地獄の苦しみを受けて死んでしまうのだ‥‥」
「父上。呪いがまことであれば、いずれ誰かが受けねばなりません。葵が受けてみせましょう」
「ならぬ‥‥わしはそなたを死なせたくない」
「葵は徳俵家の犠牲になったとしても、それを誇りに死ぬ事が出来るのです。わらわは徳俵家の将来を守りたい。叶うならば、わらわが召された後、そういった経緯の物語など広めていただければ呪われ甲斐があろうと思います」
「葵‥‥何故このような優しい娘に苦しみを与えるのか‥‥」
その後、半ば強引に伊右衛門を王として祭り上げ、正式に三代目国王となった。
その晩。
葵が身体が熱いと、騒ぎ始めた!
世話係が着物を脱がしてみると、葵の背中に赤く禍々しい模様が浮き出ていた!
「熱い!熱いのじゃ!ああっ--!」
大奥に与平が呼ばれ診てもらうが、病ではないのでどうすることも出来ない!
これを機に与平は呪いに対抗する手段を徹底的に調べていくことになる。




