総括
暦は進み二月を過ぎる。
屋敷は本州の北部に入った。
葵たちは何ヵ所か町や村を回ってみたが、今や葵は有名人になっており、どこに行っても感謝されてしまう。
嬉しい事だが、面映ゆい事であり、次郎の手柄の話しもやはり出来そうにないので、屋敷に籠りながらおかしなことがないか、良子と藤子に探らせていた。
「この辺りも道は綺麗だし、町もゴミ一つ落ちていなかったな」次郎が葵にみかんを渡しながら言う。
「そうじゃな。基本的に民は綺麗好きだったのじゃな。ただ、やり方を知らなかっただけなのじゃ」
「話しは変わるが、先日まわった町のそばに堤防が造られていただろう。あれは最近完成したらしくてな、巷で話題の新調完治が書いた小説から、堤防を作ろうという事になったそうだ」
「ああ、わらわを主人公にした世直し物じゃな」
「そうだ。あの時の葵の活躍を元に自分たちでも作れないか領主に掛け合い実現したそうだ」
「ふむ‥‥確かにいざ作るには人も金も必要じゃからのお」
「それになあ、他の村では間伐のやり方を取り入れて、森を強く守る動きが広まっているようなんだ」
「おお。それは土砂崩れを防止出来そうじゃから良い事じゃ!じゃが、それらを兄上が調べてきたのかえ」
「調べてきた場所もある。だが、オレにも独自の情報源があってな。昔の盗賊仲間なんだ」
「盗賊仲間‥‥何故兄上を今でも手伝っておるのじゃ」
「恐らく‥‥あいつも堅気になりたいんだ‥‥」
「教えてもらえぬか」
「名を太助という。オレと太助は金持ちから金を奪い、貧しい者たちにそれをばら蒔いて与える義賊を生業にしていたんだ。しかし、義賊といっても泥棒だ。太助もオレも貧しい。正しい事で貧しい者を救いたかったが義賊しか出来なかったんだ」
「ふむ‥‥」
「オレも義賊ではなく、何か人を悪から守れる職が良かった‥‥でも、盗賊のおかげで溺れた葵を助けられたから悪い事ぱかりではなかったよ」
「あの時は終わったと諦めておった。本当に感謝するぞえ」
「いや‥‥それで太助とは、大奥に盗みに入った日に別れてしまったんだが、太助はオレたちの旅を追っていたことが分かったんだ。ほら、オレが人参を探しに行った時に怪我をしたことがあっただろう。本当ならもっと大きな怪我をしていたか死んでいたかも知れないとこを太助に助けてもらったんだ」
「なんと!」
「さらに、人参を見つけたのも太助だ。あと、米の値段問題の時に強い用心棒に礫を投げて椿さんを助けたのも太助なんだ」
「では、わらわたちと一緒に旅をすれば良かったかのお」
「いや、太助が一緒だと逆にやることがない。裏方の方が動けると思ったんだろう。それで、オレは太助と連絡をとり、お互いに近況を伝えているんだよ」
「そうじゃったか。太助‥‥わらわも覚えておこう」
「今は左近さんや椿さんと同じように色んな町や村を回って不正や不便がないか太助も見てくれているんだ。なあ、葵。旅が終わったら太助にも何か職を与えてもらえないだろうか」
「勿論じゃ。本人は何かやりたいものはあるのかえ」
「太助は今やっている仕事、全国の町や村を回る仕事を公式にやりたいと思っている」
「承知しましたぞ。旅が終わる時に叶えようと思う」
「やはり葵は頼もしいな。ありがとう」
「自ら動いて励む者は好ましい。善のために励んでおるのじゃ。これに応えぬ道理はなかろう」
「また話しは変わるが、神社仏閣に駆け込む者は結構いるらしいんだ。暴力から逃れるための施設として機能するのはいいが、本来は暴力が無くならないと解決にはならない。家族の問題だから、全てうまくいくとはならないけど、せめて暴力を抑えて口論までに出来る世の中にしないとな」
「そうじゃな。ただ、この件は法律として布令を出しておる。罰せられる事を真摯に考えてみれば、思いとどまる者も増えよう。効果が出るのはこれからじゃろうなあ」
二人の総括はナデシコ国の変化、未来を語るものであり、尽きることなく話し合われたのであった。




