難問
ある日。
ある町の近くに屋敷を着陸させて葵たちが町巡りに散歩する事となった。
様々な店が並び活気がいい。
葵たちは、肌寒さをなんとかしようと、蕎麦屋に入ることにした。
「いらっしゃいませ!お好きなお席にどうぞ」
葵たちは四人席に座り、天麩羅そばを三つ注文した。
「三つでいいのか」次郎が聞いた。
「良い。わらわは兄上のを少し食べたらもういらぬ」と、葵が言う。
「わかった」
厨房から食器が割れる音とともに、怒鳴り声が聞こえる。
「半吉!今月に入って何枚割りゃあ気が済むんだ!それと、そば出来てるぞ!」
「へい!ただいま」
半吉がそばを運んできた。葵が声をかける。
「美味しそうじゃな。のお、そなたは食器を洗っておったのか」
「へい‥‥」四十手前くらいの物腰柔らかい男が返事する。
「寒い時期の食器洗いは手も凍るようで、さぞ辛かろう。そなた、子供はおるのかえ」
「へい‥‥おりやす‥」
「そうか。辛くなれば子供の顔を思い出すのじゃ。子供の笑顔は力をくれる。そなたは家族の柱じゃろう。しっかり励むのじゃ」
「へい。ありがとうございます‥‥」
葵は励ましてはみたものの、一抹の不安を覚えるのであった。
そんなおり、屋敷に戻っていた葵たちの元に、左近がやってきた。
「お初にお目にかかります。拙者、左近と申す者。以後お見知りおきを」
齢五十過ぎの歴戦の勇者のような顔立ち。椿と同じく全国の不便なこと、不正などがあれば解決するように問題発見をする役目をしている。
葵が左近をこたつに呼ぶ。だが、左近はこたつの手前で正座をして遠慮している。
「左近。構わぬから中に入るのじゃ。外は寒かったであろう。中は温かいぞ~」
「では、失礼致します」
次郎は思った。そう言えば、姫様と同じこたつに入るのは本来なら身分違いを問われかねない。自分もそうだが、良子も藤子も同じこたつに入って、葵もそれで良いと思っている。
葵にこの事を聞けば、「家族とはこういうものじゃろう」と言うだろう。
「それで左近。今日はどうしたのじゃ」
「はい。拙者が王より任務を授かって以来、気になる問題がありまして」
「ふむ。言うてみよ」
「親が自分の子に暴力をする問題です」
「なんじゃと!」
「結論から言いますと躾と暴力の境目で悩んでおりまして‥‥拙者の父も厳しく、殴られる事はしょっちゅうありました。ですが、拙者が道を外れなかったのは、父が自分の成長のためにやっていることだと信じていたからでございます。しかしながら、これを暴力と捉えることも出来るのです」
「なるほど。簡単ではないのじゃな。そなた。日頃、父は何か言うておらなんだか」
「はい。時も戦国でしたので、忍者として鍛えられてきた中で、やがて戦は終わる。学問に励まなければ苦労すると言われ、書物を読む時間が必ずありました」
「そうか。では、そなたには日頃、将来を見越した目的を話しておった訳じゃ。良い父ではないかえ」
「はあ。拙者には厳しい印象ばかりが頭にありましたが、姫様に言われてみれば確かにどれも拙者の将来を心配しての言動でござった‥‥まさに目から鱗でござる」
「じゃが、父から一方的に暴力を振るう家族も存在するのじゃな」
「はい。おります。もし、鬱憤晴らしや理由のない暴力であれば、父から子供を引き離すべきでしょうか」
「難しいのお‥‥子供にしたらどんな親でも親じゃ‥‥兄上どう思われる」
次郎も慎重に話す。
「この問題はオレのいた世界でも存在していて難しい問題なんだ。でも、父親の暴力が酷いと子供が死ぬこともよくある。そこで、国の機関が家庭を周り、子供に異変がないか、親としておかしいところはないか調査するんだ」
「おかしいと分かれば子供をどうするのじゃ」
「一時的に機関が子供を引き取り、親に反省期間を与える。それで更正する親もいるが、また暴力を振るう親もいる。大事なのは子供にとってどうするかを考えないといけないと思う」
「もし、酷い親だとわかり、引き離した子供はどうするのじゃ」
「身寄りのない子供たちを預かる施設で育てることになる」
「それは、また寂しく思ったり泣いたりせぬかの‥‥」
「するだろうな‥‥だが、そのままでは殺されてしまう環境にいるよりいいかもしれない。それに、子供に恵まれない大人が養子にしたいと希望する場合もある」
「難問じゃな‥‥かと言うてほってもおけぬ。左近。特に酷い親の目星はついておるのかえ」
「はい。三件ほど」
「よし。ではその三件の家族を引き続き様子をみるのじゃ。わらわは父上に早鳥を飛ばし、相談してみよう」
「ははっ!」




