結婚式
そして別れの日がきた。
葵たちが芝四郎の小屋を訪れる。
小屋の中はもはや開発室の雰囲気はなくなった。一般的なリビングに模様替えされていて、葵も良い良いと褒めている。
「ところで」
葵が静子に聞く。
「二人は結婚したのかえ」
「はい。結婚いたしました」
葵はそう聞いて飛び上がる!
「おお!そうか!それはめでたい!」
と、葵は小屋を出て周りに言いふらしに走って行った。
「ふふふ。姫様は可愛らしいお方ですね」
自然に笑って話す静子を見て、次郎はもはや人間だなと感じる。
「芝四郎さん。お身体はあれからいかがですか」
次郎が聞いてみた。
「お陰さまでだいぶ元気になりました。それに、もう徹夜したり無茶しなくてもよくなりましたからね。皆さんには、特に雲さんと姫様には感謝しています」
「のお!知っておるかえ!芝四郎殿と静子殿が結婚したんじゃ!めでたいのお!」
「あら、そうなの!」
と、葵が次々と言いふらして行った結果!
スクラップ広場で町の人々が協力して飾りつけを始めていく!
そして‥‥
「芝四郎殿!静子殿!外に出るのじゃ!」
葵に促されて外に出ると、町中の人々が紙吹雪とライスシャワ-で出迎える!
「芝四郎さん、静子ちゃん!結婚おめでとう!」
「芝四郎さん、良かったわねえ!」
「静子ちゃん!おめでとう!」
葵が二人にこちらに並ぶように呼んでいる。
「新郎、芝四郎殿。そなたは静子殿を妻とし、病める時も健やかなる時も悲しみの時も喜びの時も貧しい時も富める時もこれを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命の有る限り心を尽くす事を誓うかえ」
「誓います!」
「新婦、静子殿。そなたは芝四郎殿を夫とし、病める時も健やかなる時も悲しみの時も喜びの時も貧しい時も富める時もこれを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、死が二人を分かつまで命の続く限り心を尽くす事を誓うかえ」
「誓います!」
「じい。指輪を」
雲じいが恭しく指輪を運んでくる。
「これはミスリルの結婚指輪じゃ。魔力も増えて良い指輪じゃ」
「ありがとうございます!」
「今、この両名は天の父なる神の前に夫婦たる誓いをせり!神の定め給いし者、何人もこれを引き離す事能わず!」
盛大な拍手が沸き起こる!
二人が広場をゆっくり一周回り、祝福されながら小屋へ戻って行った。
葵たちも再び中に入る。
「二人とも結婚おめでとう。そしてわらわたちとは、お別れじゃ。わらわたちはまた違う土地へ旅立つ。名残惜しいがのお‥‥」
芝四郎もそれを聞いて言葉に詰まる。
「わらわは結婚するというめでたい場に参加出来て嬉しく思うておる。感謝するぞえ」
「感謝なんて‥‥式をやる空気に持ち込んだのは姫様ですよ‥‥それも町中の皆を巻き込んで‥‥私は静子と暮らせればそれで良かったんですが、式までやって戴けて感謝するのは私達です‥‥」
「芝四郎殿。どうじゃ、二人の子供も作ってみては。ミスリルはまだあるんじゃからのお」
「子供‥‥それは名案です!静子より小さなサイズに収めないといけないから、難易度が増しますが‥‥やる気出てきたあ!」
「おほほほ。但しまた倒れぬよう、静子殿。芝四郎殿をちゃんと休ませるのじゃぞ」
「ふふふ。はい!」
「静子殿。そなたは赤ん坊から物心のついた子供に成長したところじゃ。良いか。人とは様々な心を持つ。怒ってもよい。泣いてもよい。じゃが、いつも愛することを忘れるでないぞ。そこに愛がなければ人ではない。静子殿。人をたくさん学ぶのじゃぞ」
「はい‥‥ありがとう、葵‥‥」
次郎はこんな時いつも思う。
これが‥まだ七歳の姫様なのか‥と‥‥
オレだって人生二周目だぞ‥‥
こんな言葉‥‥
オレなら思いつかないよ‥‥
葵たちを乗せた屋敷が空へ上がる!
町中の人々が手を振る中に芝四郎と静子がいる。
「皆、幸せそうな顔をしておるのお。町に新しい家族が増えて、温かい気持ちで喜んでおった。静子殿を皆、人として受け入れたからじゃろうなあ」
山田だった頃の世界は、ここより進んだ世界だが、人は変わってしまったのかも知れない。
科学が進み、娯楽が増えて選択するものが増えた。結婚し、家族を作るものは昔からいるが、一人でも十分生きていける世界にもなった。
また、近隣との繋がりを好む者や好まない者がいたり、伝統を守る者や壊す者もいる。
あの世界では愛が薄くなっていた。時が進むにつれ他人への関心が減っているのだ。
葵は民への愛が深い。
だが、王家の娘として受け入れるには、やはり幼すぎる気がする。
出来るのは今しかないというような‥‥
何か生き急いでいるかのような‥‥
葵が大人びた言動をする度に言い表せない不安が次郎に過るのであった。




