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祈り

 芝四郎は静子を連れて外に出る。

 「おや!静子ちゃん!芝四郎さん、どうしたんだい一体」と、隣のおばさんが驚く。

 「こんにちは。ちょっと静子と散歩してみようと思いまして‥‥」

 色んな場所に静子を連れていき、あれが山だ、あれは川だと教えながら静子に教えていった。

 静子の反応は相変わらず棒読みだが、一緒に外に出て歩いて話をしている事が芝四郎には楽しく嬉しいことに感じていた。

 

 「静子。楽しいかい」

 「タノシイ」

 「本当かい!じゃあ、あっちに行ってみよう!」

 「ハイ」


 「あれは何か覚えてるかい」

 「ヤマデス」

 「そう!じゃあ、あれは何だったかな」

 「カワデス」

 「そう!静子は凄いなあ!」


 このような感じで数日教えていった。

 

 また別の日。

 その日もいつものように出かけようと小屋から出た。隣のおばさんが話しかける。

 「あら、芝四郎さん、静子ちゃん、お早う。今日もお出かけなのね。いってらっしゃい」

 「はい。行ってきます」と芝四郎が挨拶すると静子も挨拶した。

 「おばさん、お早うございます。行ってきます」

 おばさんが持っていたバケツを落とす。

 「静子ちゃん!あなた、普通に話せてる!」

 言われて芝四郎も驚く!

 「静子、もう一度話してくれるかい」

 「おばさん、お早うございます。行ってきます」

 棒読みじゃない!静子が遂に普通に話すようになったんだ!

 「静子!やった!静子‥‥くっ‥‥」

 「芝四郎さん、良かったわねえ‥‥」

 「どうして二人は目から水をながしているの」

 芝四郎が泣きながら教える。

 「これは涙というんだ‥‥悲しい時や嬉しい時に涙が出るんだよ‥‥」

 


 ある日、いつものように出かけようと小屋から出ようとした時、芝四郎が突然めまいを起こして倒れてしまった。

 暫く誰も気づかず、静子も芝四郎が何をしているのか理解出来なかった。

 久しぶりに葵たちが小屋を訪れると、芝四郎が倒れているのに気づく。

 「これは!芝四郎殿どうしたのじゃ!」次郎が急いで与平を呼びに行く!

 

 ほどなくして与平が到着する。

 芝四郎を仰向けにして診察を行う。

 「与平。どうじゃ」葵が心配して聞いた。

 「危険な状態です。長年、静子さんの作成に命を削って研究してこられたので、限界が来たのでしょう‥‥」

 「どうにかならぬか」

 「‥‥難しい‥ですね‥」与平でも難しいとなると、もはや‥‥

 

 葵が無表情な静子に話しかける。

 「のお‥静子殿。そなたを作った芝四郎殿の命が危ういそうじゃ‥‥そなたと芝四郎殿は幼なじみでなあ‥そなたを妻にしたいと思っておった‥じゃが、そなたは病魔に冒され亡くなってしもうた‥」

 葵は涙を流して続ける。

 「芝四郎殿は‥‥そなたを甦らせたい思いで‥一からそなたを作ろうと‥‥命を削って頑張ったのじゃ‥静子殿‥今度は芝四郎のために‥祈ってやってはくれぬか‥‥」静子は無表情のまま葵の涙に触れる。

 

 その時、静子の触覚から五感回路に伝わり、さらに感情回路がバージョンアップする!

 静子の中で、作成された日から今日までの記憶を元に全ての回路が学習していく!

 

 芝四郎があの日笑っていたのは、そういう事だったのですね‥‥


 あの日、芝四郎が泣いていたのは、こういう理由だったのですね‥‥


 芝四郎があの日教えてくれたのは‥‥


 芝四郎があの日話していたのは‥‥


 静子が全ての芝四郎との記憶を理解する!


 そして今日、芝四郎が倒れているのは‥‥私を作るのに‥‥命を削っていたから!

 

 悲しい事は理解出来る‥‥


 でも、祈るという事が分からない‥‥

 

 「葵‥‥祈る、を教えて‥」

 と静子が言う。葵が答える。

 「芝四郎に生きて欲しいのなら、死ぬな!と強く言葉にするのじゃ!」

 

 静子が芝四郎の側に来て顔を見る。

 「芝四郎!死ぬな!」

 静子の表情に悲しさがこもる!

 「芝四郎!死ぬな!」

 静子の目から涙が溢れる!

 「芝四郎!死なないで!」


 芝四郎がゆっくり目を覚ます!

 「静子‥‥ありがとう‥伝わっていたよ‥君の‥祈りが‥」

 「芝四郎!」


 与平もほっとして、葵に話す。

 「安静にしなければなりませんが、もう大丈夫でしょう」

 「そうか!‥‥それは良かった‥」

 ほっとする葵の頭を次郎は撫でながら思った。

 

 感情の元を作成したのは芝四郎と雲じいでも‥

 静子の感情を葵が起動させたんだ‥‥

 それはきっと、葵だけが静子を人間として接して話していたからだろう‥‥

 人形に心を込めるんだ‥‥

 それには心で接しないと動いてくれないんだな‥

 

 そして、芝四郎と静子もこれから二人が望んだ生活を送れる事を嬉しく感じるのであった。







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