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赤ん坊

 芝四郎は人付き合いが苦手だった。母親は芝四郎が幼い頃に亡くなり、父親と二人暮らしだった。父親は妻が亡くなったのをきっかけに酒に溺れるようになり、芝四郎にも手をだすような有り様となる。

 そんな中、幼なじみの静子だけは芝四郎の性格も含めて話し相手をしていた。

 他に遊び相手となる子供たちもいる中で、静子には芝四郎が放っておけない存在に思えたのだ。

 芝四郎は静子の話しかけに戸惑いながらも、母親からもらえなかった愛情を静子に感じて癒されていた。

 

 芝四郎が十六歳になり、自分の力で鉱夫をしながらつるはしやバケツ、その他売れる物を作れるようになり、生活出来るようになった。

 そんな中、芝四郎の父親が酒が祟って亡くなった。酷い父親ではあったが、最後の最後に父親から意外な言葉を聞いた。

 

 「オレみたいな男になるな」


 父親は悪いとは思いながら、酒に溺れ、自分に当たっていたのだ。それだけ父親にとって妻が全てだったのだ、と初めて父親の気持ちを理解出来た。

 

 芝四郎は一人になり、仕事をする中で静子を妻に迎えたいと思うようになる。

 だが、静子は病魔に冒される。

 両親を失った今、静子が芝四郎にとって全てである。芝四郎は医者を見つけては静子を診てもらうが、誰も首を横に振るばかりであった。

 思えば幼い頃から静子に支えてもらい生きてきたのだ。今度は自分が支える番だろう!

 

 いよいよ静子の容態が重くなる!

 「静子‥‥私は静子に何もしてやれなかったが、妻に迎えて幸せにしたいと思っている!今は鉱夫として稼げるようになったんだ!だから静子!頑張っておくれ!」

 芝四郎が静子の手を握り懸命に励ましていたが、遂に静子は力尽きる。

 「静子!戻ってくるんだ!私を一人にしないでおくれ‥‥」


 それから芝四郎は取り憑かれたように部品を少しずつ集め、精巧な人形作りを始めるようになる。


 周りに住む者たちは、人付き合いが苦手で無愛想な芝四郎だが、さすがに事情を知ると他人事だと思えず毎日誰かが様子を見に行くようになった。

 そして、やがて人形は精巧さを増していくほどに周りの者たちは、芝四郎が作っているのは人形ではなく静子を作っている事を知るようになる。

 芝四郎も、始めこそ何故自分の小屋に人が来るのか不思議に思っていたが、一言二言交わしながら、それが何なのか分かってきた。


 ああ‥‥この人たちはこんな自分を心配して来てくれているんだ、と初めて周りの優しさに気づいた。

 そして、心配だけではない。亡くなった静子に会いたい者も多くいる。作れる者は芝四郎しかいないと応援してくれるのだ。

 

 そうするうちに芝四郎からもたどたどしいながらも会話するようになる。

 

 少しずつ作り上げ、見た目が静子の人形としては出来上がった。だが、芝四郎は人形に心を込めたかった。

 ミスリルさえあれば一歩進めるのに‥‥

 

 何年か前から、そのミスリルが採れなくなっていた。同時に屈強なゴーレムが出現するようになった。それでも隙をついて採掘しようと何度も試みるがいくら採掘してもミスリルは掘れなかった。

 

 そして、葵たちが現れミスリルが遂に手に入る!

 雲じいの手助けにより、人形は会話は出来るようになる。魔力も芝四郎が供給しており問題ない。

 あとは感情さえ表現出来て人間らしくなれれば‥‥

 

 翌朝、葵たちが小屋を訪れる。

 「お早う。なんじゃ、徹夜しておったのか」

 「ええ‥‥ミスリルが有ることが嬉しくて、久しぶりにやりたいことが進めることが嬉しくて、つい」

 「じいも楽しかったみたいじゃのお」

 「ミスリルという珍しい素材ですぞ!色々可能性を見つけて楽しい事、楽しい事」

 「それに付き合わされて大変じゃったな。静子殿」

 「オハヨウゴザイマス」

 葵は棒読みの静子が面白いのか、訛りを直そうとしている。

 「お早うございます、じゃ。もう少し抑揚をつけてみよ」

 「オハヨウゴザイマス」

 「違う違う。お早うございます、じゃ」

 葵が何度も直しているのを見て芝四郎がハッとする!

 

 そうか!‥‥

 感情は体験して覚えるものだ!‥‥

 ある日、高い所から飛んでみて怖いと分かるように‥‥

 周りが楽しくしていると、それが楽しいと分かるように‥‥

 今の静子は赤ん坊と同じなんだ‥‥

 

 「雲さん!姫様!ありがとうございます!」

 「なんじゃ、いきなり」

 葵も何の事か分からない。芝四郎が興奮して話す。

 「感情はこれからたくさん体験する事で覚えていくんです!姫様がそれを教えてくれたんです!」

 さらに興奮して話す。

 「恐らくミスリルの効果で経験値が上がるほどに学習能力が跳ね上がります!静子は、人に‥‥人になるんです!」

 

 まだ棒読みの静子に希望が見えた芝四郎は涙を流して静子の手を握っている。







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