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雲じい

 永島の件が一段落したあと、元忍者の椿と分かれた。彼女は再び西ナデシコを巡り、葵が目指す、人々が豊かに暮らせる世界になるよう励むのであった。

 

 暦は十一月を過ぎた。

 屋敷は永島の南東を進んだ町の側で着陸した。

 ここには雲じいのようにメカマニアがいるらしく、葵が興味を持ち訪れた場所だ。

 ただ、雲じいとその者とは関係もなく、噂を知っているという程度らしい。

 雲じいは若い頃から機械いじりが好きで、一芸として徳俵家に入ることになり、戦国時代ということもあり、兵器作りをする事で貢献してきた。

 しかし、戦国時代が終わると兵器は必要なくなり、かといって、出来る事もなくなってしまった。

 それで一度城を離れて旅に出る事にした。

 

 全国を周り、勝手気儘なのんびり旅は十数年続いた。行く先々で酒を嗜み、温泉に浸かり、イベントを楽しんだ。

 その間、機械いじりから離れた楽しみ方をする事にしていた。

 戦に勝つためとはいえ、自分が作った兵器で多くの人々を殺めた事は後悔している。

 

 十分旅を楽しんだ雲じいは久しぶりに城に戻ると葵が産まれた話を聞く。

 とはいえ、爺の自分と関わる事はないだろうと、日々を適当に過ごしていた。

 城に戻っても特別やることはない。酒を呑んでも怒る者はいない。ふらふら歩いていても注意されない。周りからすれば徳俵家を王家に導いた英雄なのだ。しかし、雲じいはそんな生活を寂しく感じていた。居ても居なくても良い存在。まるでその辺りに落ちている石だ。


 葵が四歳の時、雲じいと初めて出会う。

 城と大奥の間に雲じいの部屋がある。

 「じいやがおるのお。ここに住んでおるのかえ」

 葵が子守り役の藤子を従えて話しかける。

 「これは姫様。じいはここに住んでおります」

 「そうか。じいは何の仕事をしておるのじゃ」

 「お酒を呑んだり散歩をしたりしております」

 「おほほほほ、それは良い仕事じゃのお。わらわはじいが羨ましいわえ」

 「何を仰いますか。姫様の方が良い暮らしをされておるでしょう」

 「わらわはのお、大奥を出ることを許されておらぬ。大奥しか世界を知らぬのじゃ」

 「そうでしたか‥‥ならば海の広さや美しさ、山の雄大さなどもご存知ないと‥‥」

 「そうじゃな。言葉でしか知らぬなあ」

 「それは憐れでございます‥‥姫様。じいは十年以上旅をしておりました。じいの話でよろしければたくさんお話しをお聞かせいたしますぞ」

 「おお!それは楽しみじゃ!では、また来ることにするぞえ」

 「はい。お待ちしております」

 

 誰も相手にしなくなった石のような自分を葵姫が見つけてくれた‥‥

 このまま朽ち果てて死ぬだけの自分を‥‥

 

 雲じいは葵に旅の話をするという生き甲斐を見つけた!

 何度か会って話をするうちに葵は死ぬまで大奥から離れる事が出来ない事を知る。理由も話してもらえた。

 だが、やはりそれは幼い葵が可哀想だ。何とかして外の世界を見せてあげたい!

 それからというもの、雲じいは葵の許可をとり、葵の部屋を中心に屋敷の改造に乗り出した!

 動力は魔力。これで空を飛びながら葵と一緒に旅をする。考えただけでワクワクする!

 この歳になってこんな楽しみが出来るとは!

 

 屋敷を改造しながら思う。

 「姫様あ、たくさん良い場所に連れて行きますよ!楽しみに待っててくだされい!」

 

 






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